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がん 2026.07.28

肺がんと診断された方へ|「これからどうなるのだろう」という不安を、少しずつ整理するために

このコラムの紹介

肺がんと診断されると、「自分はこれからどうなるのだろう」「たばこを吸っていた自分のせいではないか」と、不安や罪悪感を抱くことがあります。肺がんは、できた場所や病気の性質によって、症状も治療も一人ひとり異なります。第1部では、呼吸と運動・食事・会話の関係、酸素を使いながらの外出や旅行、治療の進歩、自分が大切にしたいことを主治医へ伝える意味を整理します。

肺がんと診断された時、自分を責めないでください

肺がんと診断された時、すぐには信じられなかったり、何から考えればよいかわからなくなったりする方がいます。落ち込む、腹が立つ、怖くなる、現実感がないなど、受け止め方は人それぞれです。説明を聞いても頭に入らない時に、無理に気丈に振る舞う必要はありません。

肺がんと喫煙の関係はよく知られていますが、たばこを吸ったことがない方にも肺がんは生じます。アスベストなどの環境因子が関係する場合もあれば、はっきりした原因がわからないこともあります。現在も喫煙している方には、治療の効果や呼吸機能を守るために禁煙をおすすめしますが、診断後に過去の自分を責め続けても、これからの選択がしやすくなるわけではありません。
医師が喫煙歴や生活歴を聞くのは、患者さんを責めるためではなく、病気の特徴や治療を考えるためです。これまでのことを考えすぎるよりも、今の体で何を大切にして過ごしたいかを、一緒に考えていきたいと思います。時間とともに少しずつ考えられるようになる方もいれば、不安や落ち込みが長く続く方もいます。眠れない、食べられない、何も手につかない状態が続く時には、一人で耐えず、担当医や看護師へ伝えてください。

肺がんは個人差の大きい病気です

ひとくちに肺がんと言っても、できた場所、大きさ、広がり方、腫瘍のタイプや遺伝子の特徴によって性質は異なります。さらに、年齢、体力、持病、呼吸機能、ご家族の支援などによって、選ばれる治療も変わります。

症状にも大きな個人差があります。太い気管支に近い病変では、咳、痰、血痰、息苦しさが出やすい一方、肺の外側にある病変は大きくなるまで症状が出ないことがあります。肺の中そのものは痛みを感じにくく、がんが肺を包む胸膜、肋骨などの胸壁、縦隔と呼ばれる左右の肺の間にある心臓・太い血管・気管などの領域、首や肩の神経などに及んで、初めて痛みが出ることもあります。

そのため、症状が少ないから病気が軽いとも、症状が強いからすべてが急速に進んでいるとも限りません。身近な人の体験やインターネットの情報だけで、自分の経過を決めつけないでください。「自分の肺がんはどのような性質か」「どんな症状が起こりやすいのか」「今の症状は何が原因と考えられるか」を主治医へ確認することが、不安を整理する第一歩になります。

呼吸を守ることは、生活を守ることです

呼吸は、横になって休んでいる時だけでなく、歩く、着替える、入浴する、食べる、話すといった日常の動作すべてに必要です。安静にしている時には苦しくなくても、トイレまで歩くと息が切れる、食事の途中で疲れる、長く話すと咳き込むということがあります。これは、動作をする時には、安静時より多くの酸素と換気が必要になるためです。

画像だけで「肺がどのくらい使えているか」を正確に判断することはできません。呼吸機能検査、歩いた時の酸素飽和度、実際の生活でどの動作がつらいかを合わせて考えます。「どのくらい動いてよいですか」「入浴や外出は続けられますか」「酸素を使った方が楽になりますか」と主治医へ聞いて構いません。

在宅酸素療法が必要になっても、必ずしも家の中だけで過ごすことになるわけではありません。携帯用の酸素を使って外出したり、酸素供給会社と相談して宿泊先に機器を準備し、旅行できる場合もあります。体調や移動手段によって準備は異なりますが、「酸素が必要だから、もう何もできない」と最初から諦める必要はありません。

また、会話にも呼吸を使います。息苦しさが強くなると、長い会話や電話が負担になることがあります。今すぐ何かを残さなければならないという意味ではありませんが、大切な人に伝えておきたいことがあるなら、手紙に書く、短いボイスメッセージを録音する、写真に言葉を添えるなど、その方に合う方法を考えてもよいと思います。これは最期の準備だけではなく、今の気持ちを大切な人と分かち合うための方法です。

肺がんの治療は変わり続けています

肺がんは、がんの中でも治療の進歩が速い分野の一つです。薬物療法では、がん細胞の遺伝子やたんぱく質の特徴に応じた分子標的薬や免疫療法など、選択肢が増えています。検査や手術でも、できるだけ体への負担を抑える方法が検討されるようになっています。

治療には「標準治療」があります。これは単に「平均的な治療」という意味ではなく、現時点の科学的根拠に基づいて推奨される治療です。ただし、すべての患者さんに同じ治療を行うわけではありません。年齢、体力、呼吸機能、持病、がんの性質、本人の希望を合わせて、実際の治療方針を決めます。

治療は変わり続けているため、過去の体験談や知人の経過が、そのまま今の自分に当てはまるとは限りません。一方で、「がんが消える」「必ず治る」といった強い言葉を掲げる情報には注意が必要です。高額な自費診療や民間療法を含め、大きな決断をする時には、ご家族や信頼できる方と一緒に説明を聞き、迷う時は主治医やがん相談支援センターへ相談してください。

治療を考えるために、あなた自身を主治医に知ってもらう

治療方針を考える時に必要なのは、病気の情報だけではありません。「仕事を一段落させたい」「大切な行事に参加したい」「できるだけ入院せず家で過ごしたい」「一度は旅行に行きたい」など、その方が守りたい生活も大切な情報です。

治療の緊急性によっては希望どおりにできない場合もありますが、自分が何を大切にしているかを主治医に伝えることは、治療と生活のバランスを考える大きな手がかりになります。うまく言葉にできない時には、ご家族や看護師に一緒に整理してもらって構いません。

「治療はできる限り続けたい」「副作用で何もできなくなる時間は避けたい」「短い時間でも家で過ごしたい」。どの考えが正しいということではありません。医療者が患者さん自身を知ることで、その人に合う選択肢を一緒に考えやすくなります。

一人で悩まないことが大切です

つらい出来事を誰かに話すことで、少しずつ気持ちを整理できることがあります。一方で、「心配をかけたくない」「弱音を吐いてはいけない」と、一人で抱え込む患者さんやご家族もいます。

診断後の混乱や不安が強い時には、身近な人への言葉がきつくなったり、ご家族もどう支えればよいかわからなくなったりすることがあります。患者さんとご家族だけで解決しようとせず、担当医、看護師、がん相談支援センターなど、少し距離のある第三者にも相談してください。ご家族も支えを受けてよい存在です。

緩和ケアは治療と並行して始められます

緩和ケアを「もうがん治療ができなくなった時に受けるもの」と考える方もいます。しかし現在の緩和ケアは、がんと診断された時から、手術、放射線治療、薬物療法などと並行して、体と心のつらさを和らげる医療です。

肺がんでは、痛みだけでなく、息苦しさ、咳、痰、倦怠感によって生活が制限されてしまうことがあります。治療中であっても、「少し歩くだけで息が切れる」「食事をすると疲れる」「咳で眠れない」といった変化は我慢せずに伝えてください。

「次の検査が怖い」「治療を続けるか迷っている」という気持ちも相談して構いません。治療することと、つらさを和らげることは、どちらか一つを選ぶものではありません。肺がんとともに過ごす時間を、病気だけに占領させないために、早い段階からできることを一緒に考えていきます。

執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳

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