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がん 2026.07.29

乳がんの在宅緩和ケア|家で過ごす選択と、むすび在宅クリニックで相談できること

このコラムの紹介

乳がんの治療を長く続けてきた方にとって、通院が難しくなったり、訪問診療を勧められたりすることは大きな不安につながります。この章では、在宅緩和ケアでできること、家で過ごすための準備、終末期に起こりやすい変化、むすび在宅クリニックで相談できることを説明します。ご本人とご家族が、過ごす場所を考える時の手がかりになる内容です。病院か自宅かを急いで決める前に、選択肢を知るための章です。迷っている段階から読めます。

乳がんの治療を長く続けてきた方にとって、「これ以上の治療は難しい」「通院は大変だから訪問診療を考えましょう」と言われることは、とても大きな衝撃です。
治療を続けていることが生きる支えだった方もいます。主治医の診察、検査、薬の変更、その一つひとつが「まだできることがある」という希望につながっていた方もいます。だからこそ、在宅医療や緩和ケアという言葉を聞いた時に、「見放された」と感じてしまうことがあります。
けれど、訪問診療への移行は医療をやめることではありません。通院が難しくなってきた時、病院での治療と連携しながら、家で痛みや息苦しさを和らげ、生活を整える医療が、在宅緩和ケアです。
病気が日常生活に大きく影響している時には、まず今の身体の状態に合った薬、環境、介護、食事、睡眠を整えることが大切です。これからのことを考えるためにも、落ち着ける場所で眠れること、痛みや息苦しさが和らぐことが土台になります。

これからの時間を過ごす場所は、一つではありません

乳がんが進行した時、どこで過ごすかは大きな選択です。病院の外来や一般病棟で治療を続ける。緩和ケア病棟で症状緩和を受ける。自宅で家族と過ごす。施設で介護を受けながら過ごす。大きくはこの4つの選択肢があります。

どの選択肢にも、よい面と難しい面があります。病院は、検査や医療処置を受けやすい安心があります。一方で、面会や生活の自由度が制限される場合があります。緩和ケア病棟は、症状緩和に重点を置いた医療を受けられる場所ですが、入院の条件や待機期間が設けられていることもあります。自宅は、住み慣れた場所で自分のペースで過ごしやすい一方で、ご家族の不安や介護負担が大きくなることがあります。施設ではご家族の介護の負担を減らしつつ、療養期間を気にせずに過ごせるメリットがありますが、費用は他より高くなる傾向にあります。

生き方や最期の過ごし方を、常識や遠慮だけで決める必要はありません。「普通はどうするか」ではなく、自分がどこで、誰と、どのように過ごしたいかが大切です。旅行に行きたい、友人に会いたい、家で猫と過ごしたい、家族に囲まれたい、一人の時間も守りたい。そうした希望も、緩和ケアを受けながら一緒に考えることができます。

ぎりぎりになってから初めて考えるのではなく、早めに選択肢を知っておくことも安心につながります。まだ治療を続けている段階でも、「もし通院が難しくなったら」「もし家で過ごしたくなったら」「どんな時は病院に戻りたいか」を話しておくことは、患者さんとご家族の支えになります。
家で過ごすことを選んだ後でも、病院に戻る選択はできます。在宅を選んだから、最後まで必ず家にいなければいけないわけではありません。その時の病状、気持ち、ご家族の状況に合わせて、場所は変えてよいものです。

終末期に起こりやすい変化

乳がんの終末期は、乳房の病変そのものよりも、肺、肝臓、骨、脳などへの転移、全身の衰弱、悪液質、感染、血栓などが関係して体調が変化していくことが多いです。乳房の病変からの出血で貧血が進むこともありますが、止血処置や輸血を含め、病状に応じた対応を検討します。

肺転移で息苦しさが強くなる方、脳転移で眠っている時間が増える方、骨転移の痛みで動きにくくなる方、食事量が減って少しずつ体力が落ちていく方など、経過は人によって異なります。どの症状が生じた場合にも、薬を調整し、環境を整え、自分でできなくなったことを周囲が補うことで、苦痛を和らげられます。

病気が進行し、体力が落ちてくると、眠っている時間が増え、食事や水分の量が減っていきます。話す量が減ったり、時間や場所がわかりにくくなったり、つじつまの合わないことを話したりすることもあります。手足が冷たくなる、尿が少なくなる、呼吸のリズムが変わる、痰がからむような音がするなどの変化が見られることもあります。
ご家族にとっては、「食べられないと弱ってしまうのではないか」「点滴をしなくてよいのか」「苦しいのではないか」と不安になる場面です。終末期の変化の多くは、病気が進んだ時に自然に起こる身体の変化です。無理に食べさせたり、点滴を増やしたりすることが、必ずしも楽につながるとは限りません。むしろ、むくみや痰、息苦しさを強めることもあります。
患者さんが苦しくないか、痛みがないか、不安が強くないかを確認しながら、その時の身体に合ったケアを行います。

在宅緩和ケアでできること

在宅緩和ケアでは、がんが進行した方が自宅で過ごしながら、痛みや息苦しさ、吐き気、不眠、不安、せん妄、食事量の低下などに対応します。必要に応じて、医療用麻薬、酸素療法、点滴、創部処置、薬の調整、福祉用具、訪問看護、薬剤師、ケアマネジャー、介護職などと連携します。

乳がんでは、局所の処置、骨転移の痛み、肺転移による息苦しさ、リンパ浮腫、脳転移による症状、長く続いた治療の疲れ、見た目や人間関係の悩みなど、複数の問題が重なりやすいです。在宅緩和ケアでは、それらを一度にすべて解決しようとするのではなく、生活の中で一番困っていることから順番に整えていきます。

たとえば、痛みで眠れない方には、痛み止めの種類や時間を調整します。息苦しさが怖い方には、酸素や薬だけでなく、姿勢、室温、風の当て方、不安が強くなる時間帯の備えを一緒に考えます。創部処置がつらい方には、交換回数、におい、浸出液、服へのしみ込み、家族の負担を見ながら方法を調整します。
在宅緩和ケアは、ご本人だけでなくご家族を支える医療でもあります。夜間に何が起こりうるか、苦しくなった時にどうすればよいか、食べられなくなった時にどう考えるか、最期が近づいた時にどのような変化が起こるかを事前に共有しておくことで、ご家族が落ち着いて対応しやすくなります。

むすび在宅クリニックで相談できること

当院では、進行がんや終末期の患者さんが、住み慣れた場所でできるだけ穏やかに過ごせるように、在宅緩和ケアを行っています。乳がんの方については、病院での治療経過、現在の薬、今後の治療方針、ご本人とご家族の希望を確認しながら、主治医、訪問看護師、薬剤師、ケアマネジャーなどと連携して支援します。
相談は、「もう治療ができない」と言われてからでなくても構いません。通院がつらくなってきた、家で過ごす準備をしておきたい、痛みや息苦しさが不安、創部処置を家で続けられるか心配、家族だけで看取れるのか怖い。そうした段階から相談していただくことで、必要な医療や介護を早めに整えることができます。医療費、仕事、介護保険などの制度については、病院のがん相談支援センターや医療ソーシャルワーカー、ケアマネジャーとも連携しながら、使える支援を一緒に確認します。

当院では、患者さんの希望を「家で過ごしたい」だけで終わらせず、具体的な準備まで一緒に組み立てます。どの部屋で過ごすのか。夜間の不安にどう備えるのか。痛みが強くなった時にどの薬を使うのか。出血や息苦しさが出た時に誰へ連絡するのか。ご家族の休息をどう確保するのか。ひとつずつ確認していきます。
また、家で過ごすことが患者さんやご家族にとってつらくなった時には、病院や緩和ケア病棟への相談も含めて考えます。在宅医療は、病院と切り離された医療ではありません。病院での治療、入院、在宅療養を行き来しながら、その時の状態に合った場所を選べるように支えます。
ご家族は、患者さんを支える一方で、第二の患者さんともいえる存在です。眠れない、怖い、何が正解かわからない、本人の前では泣けない。そうしたご家族の不安も、在宅緩和ケアで一緒に扱うテーマです。

病気が人生を邪魔しないように

乳がんは、身体だけでなく、その人の人生に深く関わる病気です。治療のこと、見た目のこと、家族のこと、パートナーとのこと、仕事のこと、お金のこと、これからの時間のこと。病気によって、これまで当たり前だった生活が変わることがあります。自分らしさが揺らぐこともあります。

それでも、病気があるからといって、その人の人生がすべて病気に奪われるわけではありません。痛みを和らげる。息苦しさを減らす。眠れるようにする。会いたい人に会えるようにする。家でお茶を飲む時間を守る。子どもや家族と話す時間をつくる。自分の身体を、少しでも嫌いにならずに過ごせるようにする。
緩和ケアは、病気をなかったことにはできません。けれど、病気が人生のすべてにならないように支えることはできます。

乳がんとともに生きる時間の中で、何を守りたいのか。どこで、誰と、どのように過ごしたいのか。その答えは、人によって違います。私たちは、患者さんとご家族の不安や迷いを一緒に整理しながら、その人らしい時間を支えていきたいと考えています。
乳がんが進行しても、相談できることはあります。痛みや息苦しさがあっても、和らげる方法があります。家で過ごしたいという希望も、準備をすることで実現できる場合があります。
病気が人生を邪魔しないように。その人が、その人として過ごせる時間を守るために。緩和ケアは、そのための医療です。

執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳

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