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がん 2026.07.28

乳がんと診断された方へ|治療だけでなく「これからの生活」を一緒に考えるために

このコラムの紹介

乳がんと診断された直後は、治療の説明を受けながらも、仕事や家族、身体の変化、これからの生活への不安で頭がいっぱいになる方が少なくありません。この章では、乳がんの特徴、治療が長く続く時の考え方、身体イメージや遺伝性の悩みを、緩和ケアの視点から整理します。治療を受けながら、自分らしい生活を守るための入口となる内容です。診断直後だけでなく、治療中に気持ちが揺れた時にも読んでいただきたい章です。

乳がんは、女性がかかるがんの中で最も多いがんです。乳房という自分で触れられる場所にできるため、しこりや皮膚の変化に気づいて受診される方もいれば、検診で見つかる方もいます。一方で、原発巣はあまり大きくならないまま、骨や肺などへ転移してから初めて症状が出て、乳がんと診断される方もいます。
また、治療方法の進歩が大きいがんの一つでもあります。手術で治癒を目指せる方もいます。しかし、手術が終わっても放射線治療、ホルモン療法、抗がん剤治療、分子標的薬、定期検査が長期にわたることも多くあります。再発や転移がある場合には、薬を変えながら年単位で治療を続ける方もいます。
このように、乳がんは病期やがんの性質によって経過や治療方針が大きく異なり、インターネットで見つけた情報がそのまま自分に当てはまるとは限らない病気です。

なお、乳がんは男性にも起こります。男性の場合は「まさか自分が乳がんとは思わなかった」と受診が遅れたり、相談しにくさを感じたり、症状に気付いても受診する病院や診療科がわからなかったりする方も多く、女性の乳がんとはまた違う苦しみがあります。

がんは、短期間の治療だけで終わらず、長く向き合うことも多い病気です。そのため、「完治させること」だけではなく、「治療を受けながらどう暮らすか」を考える視点が欠かせません。仕事、家族、子育て、介護、パートナーとの関係、自分の身体へのまなざし。病気はその人の生活全体に影響します。だからこそ、がんへの治療と並行して、痛みや苦しさを和らげること、不安や孤独感に寄り添うこと、仕事や暮らしの問題を一緒に整理することが必要になります。

診断後に考えてほしい、「自分の人生で一番大切にしたいもの」

乳がんと診断されると、頭では医師の説明を聞いているつもりでも、心の中では別の言葉が浮かび続ける方も少なくありません。「なぜ私が、がんになってしまったのか」「これから治療はどこまで続くのか」「仕事や家族のことはどうすればよいのか」「自分の体は、これからどう変わっていくのか」

これらの疑問が、心と頭の中を占めてしまい、苦しくなってしまうこともあります。診断直後は無理もありません。治療を急ぎたい気持ちがあっても、多くの場合、診断から治療開始までには何度か外来受診があり、居ても立ってもいられない時間を過ごす方も多いでしょう。

その待ち時間の中で、ほんの少しでもいいので一度立ち止まり、「がんになった今、それでも譲れないもの、大切にしたいこと、自分の人生で成し遂げたいことは何か」を考えてみてください。この軸があると、治療方針を選ぶ時に医療者へ自分の希望を伝えやすくなり、その後の治療を支える力にもなります。次の外来までに、少しずつ言葉にしておけるとよいと思います。

がんの治療は、医師であっても、治療を進めてみないと効果を正確に予測しきれない場面があります。長い道のりになるからこそ、自分の中でぶれない軸を持ちながら、その時々で必要な情報を整理し、医療者と一緒に一歩ずつ治療方針を考えていきましょう。

乳がんでは医学的な見通しだけでなく、その人が守りたい生活や価値観も見ながら方針を整えていく必要があります。その両方をつなぐ支えになるのが、緩和ケアです。
緩和ケアは、終末期だけの医療ではありません。診断された時から、治療中も、再発や転移がわかった時も、患者さんとご家族の生活を支えるために行われる医療です。痛みを和らげるだけでなく、不安を整理すること、治療と生活のバランスを整えること、病気によって失われそうなその人らしさを守ることも、緩和ケアの役割です。

乳がんは「見える・触れる」病気である

乳がんのつらさの一つは、乳房という自分で見える、触れる場所に病気があることです。しこり、皮膚の赤み、くぼみ、ただれ、出血、浸出液、においなどの変化があると、鏡を見るたび、着替えるたび、処置をするたびに病気を突きつけられるように感じる方もいます。

これは、体の奥にある臓器のがんとは違う種類の苦しさです。痛みや出血だけでなく、「見たくない」「触れたくない」「家族やパートナーに見られたくない」という気持ちが起こることもあります。
その気持ちは、決してわがままではありません。乳房は身体の一部であると同時に、女性としての自分、母としての自分、パートナーとの関係、自分らしさと深く結びついています。手術による乳房の変化、薬物療法による脱毛、体重変化、ホルモン療法による更年期症状、性生活の悩みは、医療者に話しにくいかもしれません。しかし、どれも小さな問題ではありません。

命を守る治療はもちろん重要です。同時に、自分の体を、がんのある部分も含めて嫌いにならずに過ごせることも、とても大切なことです。乳がんのケアでは、病気だけでなく、その人がその人として自分の身体とどう向き合っていくかを支える視点が欠かせません。

治療方針を考える時の視点

先ほどの「がんになっても、自分の人生で一番大切にしたいもの」は、実際の治療選択の場面で具体的な意味を持ちます。意識しておくと、治療の効果だけでなく、通院回数、副作用、仕事や家族への影響も含めて、主治医に希望を伝えやすくなります。

乳がんの治療は、がんの大きさや広がり、リンパ節転移の有無、ホルモン受容体、HER2、がんの性質、年齢、体力、患者さん自身の希望によって変わります。手術、放射線治療、ホルモン療法、抗がん剤治療、分子標的薬、免疫療法などを組み合わせながら方針が決まります。

ここで意識しておきたいのは、医師に「最善の医療をしてください」と伝えるだけでは、あなたの思いが十分に伝わらないことがあるという点です。もちろん、治したい、できる限りよい治療を受けたいという気持ちは自然なものです。しかし、何を優先したいかは人によって違います。

仕事を続けたい。子どもとの時間を守りたい。副作用で寝込む時間をできるだけ減らしたい。見た目の変化が怖い。妊娠や出産の可能性について相談したい。通院回数を減らしたい。できるだけ再発を防ぎたい。家族に心配をかけたくない。
将来の妊娠・出産を希望する可能性がある方は、治療開始前に妊よう性温存について相談しておくことも大切です。

こうした思いは、治療方針を考える上で欠かせない情報です。たとえば手術を提案された時には、「手術で完治を目指せるのか」「術後に放射線治療やホルモン療法が必要になるのか」「治療期間はどれくらいか」「仕事や家事への影響はどの程度か」「考えられる合併症は何か」を確認しておくことが、これからの生活を組み立てる助けになります。

薬の添付文書や手術の同意書には、副作用や合併症などの有害事象が数多く記載されています。患者さんご自身だけでは、治療を受けるメリットとデメリットのどちらを重く見るべきか、判断しづらいこともあります。リスクを恐れすぎると前に進めませんが、起こりうることを理解し、納得した上で治療を選ぶことも必要です。そのためにも重要なのが、「医師にあなた自身の人となりや生活背景を理解してもらうこと」です。家族構成、仕事、大切にしていること、譲れないものを医師が知っていると、治療方針の提案や有害事象の説明も、通り一遍ではなく、あなたに合わせたものになりやすくなります。
聞くのが怖い情報もあると思います。それでも、先の見通しを少しでも知っておくことは、病気に生活のすべてを奪われないための準備になります。

治療が長く続く病気だからこそ、生活を設計する

乳がんは、手術が終わっても治療や経過観察が続くことがあります。早期であっても定期的な通院が必要になり、ホルモン療法を数年単位で続ける方もいます。再発や転移がある場合には、薬を変えながら長く治療を続けることもあります。
治療が長く続くことは、希望である一方で、長く不安を抱え続けることでもあります。検査のたびに緊張する。薬が効かなくなることが怖い。治療を続けるべきか迷う。仕事をどうするか決めきれない。家族にいつまで頼れるのか不安になる。

乳がんの緩和ケアでは、こうした「長く続く不安」にも目を向けます。治療を受けることと、生活を続けることは、どちらか一つを選ぶものではありません。治療しながら暮らす方法を一緒に探していきます。
病気になったタイミングで、ライフプランを組み直す必要が出てくることがあります。ただ、病気になったからといって、やりたいことをすべて諦めなければいけないわけではありません。形を変えればできること、時期を調整すれば叶えられること、周囲の力を借りれば守れる時間があります。

遺伝性の問題と家族への不安

乳がんの一部には、遺伝的な要因が関係するものがあります。特に、若くして乳がんを発症した方、両側の乳がん、卵巣がん・膵臓がん・前立腺がんなどの家族歴がある方、特定のタイプの乳がんと診断された方では、遺伝性乳がん卵巣がん症候群が関係する可能性について相談の対象になることがあります。
遺伝性乳がん卵巣がん症候群は、BRCA1またはBRCA2という遺伝子の病的バリアントが関係する体質です。乳がんだけでなく、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がんなどの発症リスクと関連することが知られています。
ただし、遺伝子に変化があるから必ずがんになる、という意味ではありません。また、乳がんになった方全員に遺伝性の問題があるわけでもありません。不安を一人で抱え込まないことが大切です。検査を受けるかどうか、結果を家族に伝えるかどうかは、とても繊細な問題です。主治医や遺伝カウンセリング、がん相談支援センターに相談しながら、ご自身とご家族にとって納得できる形を考えていきましょう。

「なぜ私が」という問いで、自分を傷つけない

がんと診断されると、「何が悪かったのだろう」「もっと早く気づけなかったのか」「生活習慣のせいなのか」と自分を責めてしまう方がいます。
けれど、がんは一つの原因だけで起こる病気ではありません。遺伝的な要因、環境、年齢、偶然など、さまざまな要素が重なって発生します。原因を考えることが、これからの治療や生活に役立つ場合もあります。しかし、自分を責め続けることが、病気と向き合う力を奪ってしまうこともあります。

「なぜ私が」と考えてしまい、過去にばかり目がいってしまい、前向きになれない日があって当然です。泣いても、怒っても、何も考えたくなくても、それは弱さではありません。
乳がんと診断された後に必要なのは、無理に強くなることではなく、支えてくれる人や制度、医療とつながることです。病気を抱えながらも、自分の人生を少しずつ取り戻していくために、相談できる場所を持っておきましょう。

まとめ

乳がんは、治療の進歩が大きく、長く付き合っていくことも多い病気です。その一方で、見た目の変化、治療の長さ、再発への不安、身体イメージ、家族や仕事への影響など、患者さんの生活と心に深く関わります。
病気だけを見るのではなく、その人の生活や価値観を一緒に見ることが必要です。治療を受けながら、どのように暮らしたいのか。何を守りたいのか。何がつらいのか。そうした思いを言葉にすることから、乳がんの緩和ケアは始まります。

執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳

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