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がん 2026.07.29

進行・再発乳がんで起こりやすい症状と緩和ケア

このコラムの紹介

進行・再発乳がんでは、乳房や胸壁の皮膚潰瘍、リンパ浮腫、肺転移による息苦しさ、骨転移の痛み、脳転移や悪液質など、さまざまな症状が重なって起こることがあります。この章では、症状ごとの見方と緩和ケアでできる対応をわかりやすくまとめました。「このくらいで相談してよいのか」と迷う時にも読んでいただきたい内容です。痛みや息苦しさを我慢しすぎず、早めに助けを求めるきっかけになる章です。ご家族の気づきにも役立ちます。

乳がんは進行すると、近くのリンパ節に広がったり、血液やリンパの流れに乗って、骨、肺、肝臓、脳など離れた場所へ転移することがあります。
再発や転移がわかった時、多くの方が「もう終わりなのではないか」と感じます。しかし、乳がんでは再発・転移後も薬物療法を続けながら長い期間、日常生活を送れることもあります。治療の選択肢を確認すると同時に、いま出ている症状を和らげ、生活の質を保つ視点も必要です。
このページでは、進行・再発乳がんで起こりやすい症状と、緩和ケアでできる対応について整理します。

乳房・胸壁の病変による症状

乳房や胸壁の病変が皮膚表面に出てくると、がん性皮膚潰瘍を形成することがあります。皮膚の下に硬いしこりとして触れるところから始まり、徐々に皮膚が赤くなる、傷のように開く、浸出液が出る、出血する、においが出るなどの変化がみられます。がん性皮膚潰瘍ができる状態を「花が咲く」と表現することもあります。

見た目の変化が大きくても、強い痛みは少ない場合もあります。一方で、多量の浸出液、出血、感染、におい、周囲の皮膚のかゆみやただれは、生活の負担になります。ガーゼ交換のたびに傷を見ることがつらい。においが気になって人に会いにくい。服に浸出液がしみるのが怖い。家族に処置を見せたくない。身体のつらさと気持ちのつらさが重なります。

局所症状への対応では、痛みを和らげる薬、出血への対応、感染やにおいを抑える薬、浸出液を吸収する保護材、皮膚を刺激しにくい固定方法などを組み合わせます。においに対する薬、浸出液を吸う材料、出血を抑える処置は、それぞれ役割が違います。何に一番困っているのかを確認しながら調整していきます。
たとえば、がん性皮膚潰瘍のにおいにはメトロニダゾールゲルが使われることがあります。ただし、メトロニダゾールゲルは主ににおいと細菌感染へ効果があり、浸出液の吸収や止血そのものを目的に使う薬ではありません。浸出液が多い時にはマクロゴールなどの吸水性のある外用薬を用いたり、モイスキンパッド®やメロリンガーゼ®など、創部にくっつきにくく吸収力のある材料を検討します。出血が多い時には、トロンビン粉末やアドレナリン外用液などの止血剤を用います。費用負担や肌への刺激が問題になる場合には、オーガニックコットンの生理用ナプキンなど、生活用品を工夫して使うこともあります。
痛みやにおい、出血、処置の負担を減らし、服を着やすくする、人に会いやすくする、眠れるようにする。そうした積み重ねが、その人の尊厳を守ることにつながります。

リンパ浮腫による症状

リンパ浮腫には、大きく分けて二つの背景があります。一つは、がんがわきの下や鎖骨まわりのリンパ節に広がり、リンパ液の通り道を圧迫することで起こるむくみです。もう一つは、手術で腋窩リンパ節郭清を受けたり、放射線治療を受けたりした後に、リンパ液の流れが滞って起こる術後・治療後のリンパ浮腫です。原因は違っても、患側の腕や手、胸まわりのむくみ、肩や腕の重だるさ、痛みやしびれとしてあらわれることがあります。命に直結する症状ではないことも多いですが、服が着にくい、家事や仕事がしづらい、見た目が気になる、皮膚トラブルが起こりやすいなど、生活の質に大きく影響します。

リンパ浮腫には、スキンケア、圧迫療法、運動、専門職によるケアを組み合わせます。むくみがある腕を「使わないようにする」と、かえって肩が動きにくくなったり、生活が不自由になったりすることがあります。医師や専門職に相談しながら、ご自身の身体を守る方法を身につけていきましょう。

肺転移・がん性リンパ管症による息苦しさ

乳がんが肺に転移したり、肺のリンパ管に沿って広がるがん性リンパ管症(患者さんには「がんによる肺炎」と説明されることもあります)を起こしたりすると、咳、息切れ、息苦しさ、胸水による呼吸困難などが起こることがあります。
息苦しさは、痛みと同じくらい、あるいはそれ以上に恐怖を伴う症状です。「息が吸えない」「このまま苦しくなってしまうのではないか」「夜が怖い」と感じる方もいます。
対応としては、酸素療法、医療用麻薬による呼吸困難の緩和、ステロイド、利尿薬、胸水への対応、姿勢の工夫、室内環境の調整、不安へのケアなどを組み合わせます。サーキュレーターやうちわで顔に風を送る、少し涼しい室温にする、上体を起こして休むなど、薬以外の工夫で楽になることもあります。
息苦しさは、酸素の数値だけでは判断できません。酸素の値が保たれていても、ご本人が苦しいと感じている場合があります。逆に、酸素の値が低くても落ち着いて過ごせている方もいます。数値だけでなく、ご本人の苦しさを中心に対応します。

骨転移による痛みと生活への影響

乳がんでは骨転移が起こることがあります。背骨、肋骨、肩甲骨、骨盤、大腿骨など、体の中心にある骨や太い骨への転移が多いです。痛みで転移がわかる方もいれば、自覚症状が少ないまま画像検査で見つかる方もいます。
骨転移の痛みは、動いた時や、転移のある部分に体重をかけた時に生じやすいです。歩く、寝返りを打つ、起き上がる、座る、トイレに行くといった日常動作がつらくなります。痛みが強いと、眠れなくなり、食欲も落ち、気持ちも消耗します。
骨転移の痛みには、鎮痛薬、医療用麻薬、放射線治療、骨修飾薬、コルセットなどの装具、福祉用具、リハビリテーションなどを組み合わせます。痛みを和らげることで、トイレに行ける、食卓に座れる、家族と話せる、外に出られるなど、生活の幅が広がることがあります。
特に注意が必要なのは、背骨の転移による神経の圧迫です。背中や腰の痛みに加えて、足のしびれ、力の入りにくさ、歩きにくさ、尿や便が出にくい、失禁などがある場合には、急いでステロイドパルスや緊急手術などの対応が必要になることがあります。

脳転移・髄膜播種、がん性髄膜炎による症状

乳がんが脳や脳を包む膜に転移したり、髄液の流れに沿ってがん細胞が広がったりすると、頭痛、微熱・発熱、吐き気、ふらつき、けいれん、手足の動かしにくさ、言葉が出にくい、意識がぼんやりするなどの症状が出ることがあります。
症状が急に出た場合や、いつもと違うぼんやり感が続く場合には、早めの相談が必要です。治療としては、病状や全身状態に応じて、放射線治療、薬物療法、ステロイド、抗けいれん薬、症状緩和のための薬などを検討します。
脳の症状は、ご本人が自分で説明しにくいこともあります。ご家族が「話し方がいつもと違う」「ぼんやりしている」「急に転びやすくなった」と感じた時も、重要なサインです。

がんそのものによるだるさ・食欲低下

進行した乳がんでは、痛みや息苦しさだけでなく、強いだるさ、食欲低下、体重減少、不眠、気分の落ち込みが起こることがあります。治療の副作用が影響している場合もありますが、がんそのものによる炎症や代謝の変化が関係することもあります。これを悪液質といいます。患者さんには、「がんに栄養を奪われてしまって、食べても栄養失調の進行を止めにくい状態」とお伝えすることがあります。
「食べないから弱る」のではなく、病気の進行によって食べる力そのものが落ちていく時期に、無理に食べよう、食べさせようとすると、ご本人もご家族もつらくなってしまいます。噛むことにも、飲み込むことにも、消化することにもエネルギーが必要です。そのエネルギーが足りない時には、食べること自体が負担になる場合があります。
そうした時には、食べる量を増やすことだけを目標にするのではなく、食べることが嫌にならないようにすること、食事の時間や雰囲気を楽しめるようにすることも大切です。「家族と食卓を囲みたい」とか、たくさんは食べられなくても「一口だけおいしいものを食べたい」と思う方もいます。
食べることは、生きることです。でも、人は生きるためだけに食べているわけではありません。食を通じた人との交流、団らんの時間、思い出も、同じように大切です。

がんそのものによるだるさ・食欲低下

次のような症状がある時には、「このくらいで相談してよいのか」と迷う時ほど、早めに医療者へ連絡してください。

  • 息苦しさが急に強くなった、安静にしていても苦しい
  • 強い痛みが続く、痛み止めを使っても効かない
  • 背中や腰の痛みに加えて、足のしびれや力の入りにくさがある
  • 尿や便が出にくい、失禁がある
  • 発熱、頭痛、吐き気、ふらつき、けいれん、意識がぼんやりする
  • 出血が止まりにくい、創部のにおい・浸出液・痛みが急に悪化した
  • 食事や水分がほとんど取れない、眠れない日が続く
  • ご家族から見て「いつもと違う」と感じる

症状は、早めに対応した方が楽にできることがあります。痛みや息苦しさは、我慢するものではありません。病気を完全に消すことが難しい時でも、苦しみを減らす方法はあります。

緩和ケアは、症状を一つずつ整理する医療

がんの苦痛は、身体の痛みだけではありません。痛みや息苦しさなどの身体的苦痛。不安、恐怖、怒り、孤独感などの精神的苦痛。仕事、お金、家庭内の役割、介護、子育てなどの社会的苦痛。「これから何のために生きるのか」という深い問い。これらは互いに影響し合います。
痛みが強いと眠れなくなり、不安が増えます。不安が強いと、痛みや息苦しさをより強く感じることがあります。お金や家族の心配があると、治療や療養に集中できなくなります。
緩和ケアは、こうした苦痛を一つずつ見つけ、一緒に整理していく医療です。乳がんの治療を受けながらでも、緩和ケアを受けることはできます。治療をあきらめることではなく、その人らしい生活を守るための支えです。

執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳

 

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