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がん 2026.07.28

膵臓がんの在宅緩和ケア|家で過ごす選択と、むすび在宅クリニックで相談できること

このコラムの紹介

膵臓がんの治療を続ける中で、通院が難しくなったり、訪問診療を勧められたりすると、不安や戸惑いが生まれます。この章では、在宅緩和ケアでできること、家で過ごすための準備、終末期に起こりやすい変化、むすび在宅クリニックで相談できることを説明します。病院か自宅かを急いで決める前に、選択肢を知るための章です。

膵臓がんの在宅緩和ケアという選択肢

膵臓がんの患者さんにとって、「もう治療は難しい」「通院は大変だから訪問診療を考えましょう」と言われることは、とても大きな衝撃です。治療を続けていることが生きる支えだった方もいます。病院に通うことそのものが、「まだできることがある」という希望につながっていた方もいます。だからこそ、在宅医療や緩和ケアという言葉を聞いた時に、「見放された」と感じてしまうことがあります。

けれど、訪問診療への移行は医療をやめることではありません。通院が難しくなってきた時、病院での治療と連携しながら、家で痛みや吐き気、息苦しさを和らげ、生活を整える医療が、在宅緩和ケアです。
病気が日常生活に大きく影響している時には、まず今の身体の状態に合った薬、環境、介護、食事、睡眠を整えることが土台になります。これからのことを考えるためにも、落ち着ける場所で眠れること、痛みや吐き気が少しでも和らぐことが必要です。

膵臓がんの進行期には、痛みや吐き気、食欲低下、黄疸、腹水などの症状が短期間で出現したり悪化したりすることがあります。だから病院から離れられないというわけではなく、むしろ苦しい時こそ医師が家に訪問する在宅緩和ケアが役に立つ場面です。体調の悪い患者さんが毎日外来通院することは現実的ではありませんが、訪問診療を導入すると、必要に応じて訪問回数を増やしたり、電話で状態を確認したりしながら、ご自宅で過ごすことも検討できます。

また、ご自宅では、好きなものを好きな時に少しだけ食べる、休みたい時に休む、家族や大切な人と普段に近い時間を過ごすなど、病院や施設とは違う自分のタイミングに合わせた過ごし方ができます。
もちろん、すべての方に在宅療養が最適というわけではありません。病状、ご本人の希望、ご家族の負担、住環境、地域の医療・介護資源によって、合う形は変わります。大切なのは、「家に帰るか、病院にいるか」を急いで決めることではなく、どのような支えがあれば患者さんもご家族も安心して過ごせるのかを具体的に考えることです。

これからの時間を過ごす場所は、一つではありません

膵臓がんが進行した時、どこで過ごすかは大きな選択です。病院で治療や処置を続ける。緩和ケア病棟で症状緩和を受ける。自宅で家族と過ごす。施設で介護を受けながら過ごす。大きくはこの4つの選択肢があります。

どの選択肢にも、よい面と難しい面があります。病院は検査や処置を受けやすい安心がありますが、生活の自由度は限られることがあります。緩和ケア病棟は症状緩和に重点を置いた医療を受けられる場所ですが、入院の条件や待機期間がある場合があります。自宅は住み慣れた場所で自分のペースを保ちやすい一方で、ご家族の不安や介護負担を考える必要があります。施設は介護の負担を減らせる場合がありますが、医療対応や看取りの方針、費用を事前に確認しておくことが必要です。

生き方や最期の過ごし方を、常識や遠慮だけで決める必要はありません。「普通はどうするか」ではなく、自分がどこで、誰と、どのように過ごしたいかを考えてよいのです。家で家族と食卓を囲みたい。好きな音楽を聴いていたい。いつもの部屋で眠りたい。できるだけ病院の近くにいたい。どの思いも、療養場所を考える時の大事な情報です。
家で過ごすことを選んだ後でも、病院に戻る選択はできます。在宅を選んだから、最後まで必ず家にいなければいけないわけではありません。その時の病状、気持ち、ご家族の状況に合わせて、場所は変えてよいものです。

終末期に起こりやすい変化

膵臓がんの終末期は、痛み、吐き気、黄疸、腹水、むくみ、食欲低下、全身のだるさなどが重なりながら、体調が変化していくことがあります。ある時期から体力の低下が早く感じられ、先週できていたことが今週は難しくなることもあります。膵臓がんの方では、食べられなくなる時期と、体力が落ちて動けなくなる時期、うとうとと眠気が強くなる時期は相関していることが多いです。

一方で、最期の時期(だいたい余命1〜3ヶ月くらい)に入る少し前までは、比較的ゆるやかな変化が続く方もいます。「余命は短いと言われたけれど、自分ではそんな気がしない」と感じることもあります。これは悪いことだけではありません。体が動く時間が残っているうちに、会いたい人に会う、行きたい場所へ行く、食べたいものを少し食べるなど、今できることを考える時間にもなります。

最期の1〜3ヶ月は、食事や水分の量が減り、体力も落ちて、眠っている時間が増えていきます。薬が飲みにくくなる、会話のつじつまが合いにくくなる、手足が冷たくなる、尿が少なくなる、呼吸のリズムが変わるといった変化が見られることもあります。
ご家族にとっては、「食べられないと弱ってしまうのではないか」「点滴をしなくてよいのか」「苦しいのではないか」と不安になる場面です。ただ、病気が進んだ体では、食べ物や水分をうまく受け止めにくくなっていることがあります。無理に食べさせたり、点滴を増やしたりすることが、必ずしも楽につながるとは限りません。むくみや痰、腹水、息苦しさを強めることもあります。
その時期に必要なのは、食べる量だけを目標にすることではなく、苦しくないか、痛みがないか、不安が強くないかを確認し、その時の身体に合ったケアを行うことです。

在宅緩和ケアでできること

在宅緩和ケアでは、膵臓がんが進行した方が自宅で過ごしながら、痛み、吐き気、食欲不振、黄疸に伴うかゆみ、腹水、むくみ、不眠、不安、せん妄などに対応します。必要に応じて、医療用麻薬、吐き気止め、点滴、腹水への対応、薬の調整、福祉用具、訪問看護、薬剤師、ケアマネジャー、介護職などと連携します。

膵臓がんでは、痛み、食べられなさ、黄疸、腹水、通院の負担、短期間で変わる体調など、複数の問題が重なりやすいです。在宅緩和ケアでは、それらを一度にすべて解決しようとするのではなく、生活の中で一番困っていることから順番に整えていきます。
たとえば、痛みで眠れない方には、痛み止めの種類や時間を調整します。吐き気が強い方には、食事のとり方、便通、胃腸の動き、薬の副作用を確認します。腹水でお腹が張る方には、体の向き、利尿薬、腹水を抜く処置の必要性を考えます。食べられなくなってきた時には、点滴を増やすことが本当に楽につながるのか、ご本人の状態に合わせて判断します。

在宅緩和ケアは、ご本人だけでなくご家族を支える医療でもあります。夜間に何が起こりうるか、苦しくなった時にどうすればよいか、食べられなくなった時にどう考えるか、最期が近づいた時にどのような変化が起こるかを事前に共有しておくことで、ご家族が落ち着いて対応しやすくなります。

むすび在宅クリニックで相談できること

当院では、進行がんや終末期の患者さんが、住み慣れた場所で医療を受けながら過ごせるように、在宅緩和ケアを行っています。膵臓がんの方については、病院での治療経過、現在の薬、今後の治療方針、ご本人とご家族の希望を確認しながら、主治医、訪問看護師、薬剤師、ケアマネジャーなどと連携して支援します。

相談は、「もう治療ができない」と言われてからでなくても構いません。通院がつらくなってきた、家で過ごす準備をしておきたい、痛みや吐き気が不安、黄疸や腹水が出てきた、家族だけで看取れるのか怖い。そうした段階から相談していただくことで、必要な医療や介護を早めに整えやすくなります。
当院では、患者さんの希望を「家で過ごしたい」だけで終わらせず、具体的な準備まで一緒に組み立てます。どの部屋で過ごすのか。夜間の不安にどう備えるのか。痛みが強くなった時にどの薬を使うのか。食べられなくなった時にどう考えるのか。病院に連絡する目安は何か。ご家族の休息をどう確保するのか。ひとつずつ確認していきます。

また、家で過ごすことが患者さんやご家族にとってつらくなった時には、病院や緩和ケア病棟への相談も含めて考えます。在宅医療は、病院と切り離された医療ではありません。病院での治療、入院、在宅療養を行き来しながら、その時の状態に合った場所を選べるように支えます。
ご家族は、患者さんを支える一方で、第二の患者さんともいえる存在です。眠れない、怖い、何が正解かわからない、本人の前では泣けない。そうしたご家族の不安も、在宅緩和ケアで一緒に扱うテーマです。

病気が人生を邪魔しないように

膵臓がんは、身体だけでなく、その人の人生に大きく関わる病気です。治療のこと、食べること、痛みのこと、家族のこと、仕事のこと、お金のこと、これからの時間のこと。病気によって、これまで当たり前だった生活が変わることがあります。自分らしさが揺らぐこともあります。

それでも、病気があるからといって、その人の人生がすべて病気に奪われるわけではありません。痛みを和らげる。吐き気を減らす。眠れるようにする。会いたい人に会えるようにする。家でお茶を飲む時間を守る。家族と話す時間をつくる。できることを、ひとつずつ増やしていくことはできます。

緩和ケアは、病気をなかったことにはできません。けれど、病気が人生のすべてにならないように支えることはできます。膵臓がんとともに生きる時間の中で、何を守りたいのか。どこで、誰と、どのように過ごしたいのか。その答えは、人によって違います。私たちは、患者さんとご家族の不安や迷いを一緒に整理しながら、その人らしい時間を支えていきたいと考えています。
膵臓がんが進行しても、相談できることはあります。痛みや吐き気があっても、和らげる方法があります。家で過ごしたいという希望も、準備をすることで現実的な選択肢になる場合があります。病気が人生を邪魔しないように。その人が、その人として過ごせる時間を守るために。緩和ケアは、そのための医療です。

執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳

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