がん 2026.07.28
膵臓がんと診断された方へ|治療だけでなく「これからの時間」を一緒に考えるために

目次
このコラムの紹介
膵臓がんと診断された直後は、病気の進み方や治療の説明を受けながらも、気持ちが追いつかない方が少なくありません。この章では、膵臓がんの特徴、治療方針を考える時の視点、診断時から緩和ケアを利用する意味を整理します。治療だけでなく、これからの時間をどう過ごしたいかを考えるための入口となる内容です。
膵臓がんと診断された時に、まず伝えたいこと
膵臓がんは、胃の後ろ側、体の奥深い場所にある膵臓にできるがんです。膵臓は小さな臓器で、周囲を胃や十二指腸、胆管、肝臓、大きな血管などに囲まれています。そのため、早い段階では症状が出にくく、診断された時にはすでに進行していたり、手術が難しいと言われたりする方も少なくありません。症状がほとんどないまま診断される方もいます。「まさか自分が」と受け止めきれないまま、この記事を読んでいる方もいるでしょう。
突然「膵臓がんです」と言われた時、頭では説明を聞いていても、心が追いつかないことがあります。何を選べばよいのか。どこまで治療を続ければよいのか。家族にどこまで話せばよいのか。すぐに答えを出せないものです。
なんとか治したい、健康な自分を取り戻したい、そのためにできる限りのことをしたいと思うのは当然です。ただし、それは一人で情報を集め、闇雲に動くという意味ではありません。まずは主治医から勧められる検査を受け、病気の広がりや体の状態を確認し、手術、薬物療法、放射線治療、胆管ステントやドレナージ、緩和ケアなど、どの選択肢があるのかを整理していきましょう。
重い病気の治療方針を決める時には、信頼できる主治医と、病気以外のことも相談できる窓口が必要です。がん相談支援センターの看護師や医療ソーシャルワーカー、必要に応じてセカンドオピニオンも利用できます。方針は、医師にすべてを委ねるのではなく、ご本人の希望や生活背景を一緒に確認しながら決めていくものです。わからないまま決めてしまうと、後悔につながりやすいことがあります。説明を受け、質問し、納得できる形を探していきましょう。
一方で、「必ず治る」「がんが消える」といった耳ざわりのよい言葉だけを強く打ち出す情報には注意が必要です。膵臓がんと診断された後は、多くの情報を探したくなるものです。不安につけ込む情報に出会うこともあります。高額な自費診療や民間療法を含め、大きな決断をする時は、主治医に意見を聞き、信頼できるご家族や友人にも同席してもらうことをおすすめします。標準治療は、多くの患者さんのデータと安全性の確認を重ねて作られている治療ですが、そうでない治療を検討する時ほど、期待だけでなく、時間的・費用的な負担や、副作用や体調不良が起きた時の対応も含めて確認してください。
治療方針を考える時に、確認しておきたいこと
膵臓がんの治療は、がんの場所や広がり、転移の有無、診断された時の状態、体力、年齢、持病、血液検査の結果、そしてご本人の希望によって変わります。手術を目指せる方もいれば、薬物療法を中心に進める方もいますし、黄疸などの症状が出ていればそれを改善させるステント留置などの処置を先に行う方もいます。
治療や処置を提案された時には、その目的が「治すこと」なのか、「病気の進行を抑えること」なのか、「症状を和らげること」なのかを確認しておくと、今後の生活を組み立てやすくなります。
ここで考えておきたいのは、「がんになった今、それでも譲れないもの、大切にしたいこと、自分の人生で成し遂げたいことは何か」です。医師に「最善の治療をしてください」と伝えるだけでは、あなたの思いが十分に伝わらないことがあります。もちろん、できる限りよい治療を受けたいという気持ちは多くの方がお持ちだと思います。けれど、何を優先したいかは人によって違います。
仕事を続けたい。副作用で寝込む時間をできるだけ減らしたい。痛みや吐き気をできるだけ抑えたい。大事な予定に向けて体調を整えたい。食べることが好きだから、できるだけ長く食事を楽しみたい。少しでも長く家族と過ごしたい。こうした思いは、治療方針を考える上で欠かせない情報です。
主治医に聞く時は、完璧な質問を準備しなくても構いません。「この治療で何を目指すのか」「副作用が出た時はどうするのか」「通院頻度はどれくらいか」「食事や仕事、家族との時間にどんな影響があるのか」など、生活に関わることも治療選択の手がかりです。医学的に正しい治療であっても、その人の生活を大きく崩してしまう場合があります。反対に、生活の希望を伝えることで、治療の受け方を調整できることもあります。
膵臓がんは、診断時から厳しい説明を受けることも多い病気です。余命や予後の話を聞くことが怖い方もいます。知りたい情報、まだ聞きたくない情報、家族に先に聞いてほしい情報があってもよいのです。知りたい内容や受け止める速度は、人によって違います。「具体的な数字は今は聞きたくない」「悪い知らせは家族と一緒に聞きたい」「悪い話でも、今できることを一緒に教えてほしい」など、前もって主治医に伝えておくこともできます。
治療方針を考える時に、確認しておきたいこと
膵臓がんでは、診断から治療開始までの間にも検査や処置が続きます。検査や処置のリスクに関する説明、検査結果の説明、現在の病状と治療に関する説明など、専門用語の多い難しい情報で頭がいっぱいになります。外来ではなんとなく理解できたつもりでも、家に帰ると「聞きたいことが聞けなかった」「これはどういう意味なんだろう」と疑問や不安が押し寄せることもあります。
次の受診日を待つ間にできることは、医学的な情報を完璧に理解することではありません。次の外来で聞きたいことを書き出す。家族や自分よりも冷静に話を聞けそうな知人に同席を依頼する。食べられるもの、眠れているか、痛みや黄疸などの症状を簡単にメモしておく。こうした小さな準備が、治療方針を考える時の助けになります。
がん相談支援センター、医療ソーシャルワーカー、地域包括支援センターなど、病院の外来以外にも相談できる場所があります。医療費、仕事、家族への説明、介護保険、今後の療養場所について、主治医だけで抱えきれない悩みを整理できることがあります。患者会やがんサロンで、同じ病気を経験した方の言葉に支えられることもあります。相談先を複数持つことは、あなたを支え、治療に向き合う力を蓄えるための手段です。
治療だけでなく、「どう過ごすか」も考えてよい
膵臓がんと向き合う時間は、検査、治療、結果説明、次の方針の相談と、緊張の連続になりやすいです。生活の中心が病気になり、食べること、眠ること、家族と話すこと、少し外の空気を吸うことさえ後回しになることがあります。
けれど、病気が見つかっても、あなたがあなたであることは変わりません。病人らしく過ごさなければいけない、ということもありません。治療を頑張る時間と同じくらい、日常に戻る時間も必要です。好きな音楽を聴く、短い散歩をする、食べられるものを少し食べる、何も考えない時間を持つ。小さなことに見えても、心を保つ助けになります。
病気を治すことを生きる目標にしたり、病気がない未来を想像して希望にしたりすることが、生きるために必要な時もあります。時には現実逃避も必要です。悩む時間も、落ち込む時間も、無駄ではありません。ただ、未来のことを考えるのと同じくらい、過去の自分や今の自分のことも置き去りにしないでください。
緩和ケアは、終末期だけの医療ではありません
緩和ケアは、「治療ができなくなってから始まる医療」ではありません。がんと診断された時から、治療と並行して受けることができます。痛みを和らげるだけでなく、吐き気や食欲不振、不眠、不安、生活上の困りごとを整理し、その人らしい時間を守るための医療です。
膵臓がんでは、痛み、食欲不振、黄疸などの症状が出ることがあります。治療を続けながら、こうした症状への対応を早めに考えることで、眠れる、食べられる、動ける時間を保ちやすくなる場合があります。緩和ケアを受けることは、治療をあきらめるという意味ではありません。病気と向き合いながら、今の生活を少しでも保つための支えです。
家族とどう話すか
膵臓がんと診断された後、家族にどこまで話すかで悩む方もいます。心配をかけたくない、泣かれたくない、まだ自分の中で整理できていない。そう思うのは自然です。一方で、ご家族も「何を聞いてよいのか」「どう支えればよいのか」がわからず、不安を抱えていることがあります。
すべてを一度に話す必要はありません。「今はまだ整理できていない」「治療の説明を一緒に聞いてほしい」「家で過ごすことも少し考えている」など、短い言葉からで構いません。患者さんもご家族も、それぞれの立場で揺れながら病気と向き合っています。
本当の気持ちを隠して空元気でふるまっている方が、かえって相手を不安にさせることもあります。膵臓がんは、一人で抱えるには大きすぎる病気です。もし、どう話してよいかわからない場合には、医療者が間に入り、説明を整理することもできます。
「なぜ自分が」という問いで、自分を責めない
膵臓がんと診断されると、「何が悪かったのか」「もっと早く気づけなかったのか」と自分を責めてしまう方がいます。膵臓がんには、喫煙、糖尿病、肥満、飲酒など発症リスクとの関連が指摘されている要素があります。けれど、がんは一つの原因だけで起こる病気ではなく、年齢、体質、環境など、様々な要素が重なって発生します。原因を考えて対策することが、これからの治療や生活に役立つ場合もありますが、自分を責め続けることは、病気と向き合う力を奪ってしまいます。
泣いても、怒っても、何も考えたくなくても、それは弱さではありません。不安で頭がいっぱいになる時は、主治医、看護師、訪問看護師、がん相談支援センター、カウンセラーなど、話を聞き、一緒に整理してくれる人につながってください。治療のこと、生活のこと、これからの時間のことを、少しずつ一緒に考えていきましょう。
執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳