コラム 2026.06.04
お家での看取りが不安なご家族へ<後編>

前編では、お家での看取りを怖いと感じるのは自然なことであり、その不安の中にはいくつかの種類があるとお伝えしました。後編では、それぞれの不安に対して、具体的な考え方や対策をお話しします。
目次
看取りへの不安や恐怖の正体を見極める
「死そのものが怖い」時の考え方
不安や悩みの多くは、未来や過去からやってくると言われます。死そのものへの恐怖は、大切な人がこれから経験しようとしている、ご家族自身も経験したことのない未知のことへの恐怖です。また、死によって患者さんとの関係が途切れてしまうのではないか、もう二度と同じようには話せないのではないか、という関係性の喪失への恐怖も含まれていると思います。
この恐怖は、医学だけで解決できるものではありません。人によっては宗教や死生観が支えになることもありますが、臨死期に急に「あの世」について考えるのは難しいこともあります。
宗教色のない言い方をするなら、これまでのことや、これから起こることに心が引っ張られすぎた時ほど、いまこの瞬間に目を向けてほしいと思います。目の前で生きて、呼吸をしている患者さんとの時間に意識を戻すこと。それが、恐怖に飲み込まれすぎないための一つの方法です。
「何が起こるかわからない」不安への対策
病名、検査結果、これまでの経過、今の状態、変化のスピードなどを合わせて考えると、終末期にこれから起こりやすい変化は、ある程度予測できることが多いです。
例えば、胃がんが進行し、肝臓にも転移している患者さんであれば、痛み、吐血や下血、吐き気、食欲低下、全身のだるさなどが起こる可能性があります。残された時間とそれらの症状が起こりそうなタイミングについても、検査結果だけでなく、食事量、活動量、眠る時間、会話の様子などを合わせて、医師であればある程度の見通しを立てることができます。
「何が起きるかわかりません」と言われるだけの場合と、「これから食事量が少しずつ減り、眠る時間が増えていく可能性があります。吐き気や吐血、みぞおちや右のお腹の痛みが出るかもしれません。痛みや吐き気は薬で和らげることができます。吐血が起きた場合には、止血剤や輸血、病院での処置を含めて、その時の状態に応じて相談します。衰弱そのものを止めることは難しいですが、動ける範囲では好きに動いて構いません。特に夜間はぼんやりしているので、転ばないように気をつけましょう。介護用品や介護サービスを使えば、寝たきりに近い状態でも家で過ごす方法を考えられます」と説明を受ける場合では、不安の感じ方が大きく違うと思います。これから起こりやすいことと、それが起きた時にどうすればよいかを具体的に聞くことが、この不安への一番の対策です。
「苦しむ姿を見るのが怖い」時に知っておいてほしいこと
多くのご家族は、「病院に行けば安心」「入院すれば最善の医療が受けられる」と考えます。もちろん、病院だからこそできる検査や処置があります。一方で、入院がすべての不安を解決してくれるわけではありません。病院ではナースコールを押せば看護師が来てくれますが、患者さんがひとりで病室にいる時間もあります。患者さんの中には、「病室でひとりでいる時に何か起きてナースコールが押せなかったらどうしよう」「自分のしてほしいことを医療者に頼むのは遠慮してしまう」と考える方もいて、むしろ病院で過ごすこと自体に不安や居心地の悪さを感じる方もいます。
在宅では医療者が常にそばにいるわけではありませんが、ご家族が同じ空間にいる安心感があります。
また、緩和ケアに使う薬の多くは、在宅でも使用できます。もちろん病院でなければ難しい処置もありますが、「病院にいれば必ず苦しまない」「在宅だから苦しむ」という単純な構図ではありません。長く一緒に過ごしてきたご家族だからこそ、患者さんの小さな表情の変化に気づけることもあります。本人にとっては、ご家族がそばにいることそのものが安心につながり、苦痛を和らげる助けになることもあります。
まずは患者さん本人の希望を確認し、そのうえで「苦しさが出た時に在宅で何ができるのか」「どの症状が出たら病院を考えるのか」を、訪問医や訪問看護師に確認しておくとよいと思います。
「重要なサインに気づけなかったら」という不安への対策
医師や看護師が見ているのは、「前回お会いした時と比べて、どのような変化があるか」です。診察を初めて間もなかったり、変化が小さかったりする場合、数回の経過を見ないと医師でも病状の判断や予後予測が難しいことがあります。
終末期では、病気が進行していること自体をすべて止めることはできません。大事なのは、患者さんが苦痛を感じている時に、そのサインに気づくことです。話せる方なら、「痛い」「気持ち悪い」「息苦しい」と伝えられることがあります。言葉で伝えることが難しい方の場合は、表情、呼吸の様子、体のこわばり、落ち着かなさなどが手がかりになります。痛そうに顔をしかめる、息が苦しそう、落ち着かず体を動かしている、出血がある、嘔吐している、けいれんがある、ご家族から見て「いつもと違う」と感じる。こうした時は、遠慮せず医師や看護師に連絡してください。ご家族自身が強い不安を感じる時も、連絡してよい時です。
どうしても不安が強い場合は、医師や看護師の訪問頻度を増やせないか相談してみてください。医師や看護師から「これは大丈夫」「これはつらいからこうしましょう」などと説明を受けているうちに、「いつもの様子」と「いつもと違う様子」が少しずつ判断できるようになるご家族もいらっしゃいます。
「そばにいても何もできない」と感じるご家族へ
「そばにいても何もできない」と感じるご家族は、自分が病院の看護師や介護士のように、患者さんの医学的判断や高度なケアをしなければならないと思っていることがあります。確かに、現在の医療・介護保険制度は万全ではなく、排泄ケア、着替え、薬を飲ませることなどをご家族にお願いする場面もあります。ただ、ご家族は介護要員ではありません。すべてを背負おうとしなくて大丈夫です。介護のことで大変に感じていることがあれば、訪問看護師やケアマネジャーに相談してください。ヘルパー、訪問入浴、福祉用具、ショートステイなど、負担を減らす方法を一緒に考えられます。
ご家族にしかできないことは、同じ空間で一緒に過ごすことです。じっと患者さんを見張っている必要はありません。話しかけてもいいし、黙っていてもいい。手を握ってもいいし、同じ部屋で家事をしていてもいい。友達と電話をしていても、少し横になっていてもいいのです。病状が落ち着いていたら少し息抜きの時間を設けたっていいのです。「そばにいる」は、何か特別なことをし続けることではありません。同じ空間にいて、その人の存在を感じながら過ごすこと。それだけでも、患者さんにとっては大きな安心になることがあります。
「何をすればいいのかわからない」時の考え方
どこに注意を払えばよいのか、どんなものを食べさせてよいのか、どんなふうに生活すればよいのかは、医師や看護師に確認してください。
ただ、たとえ病気になっても、目の前の大切な人は、ご家族がずっと知っているその人です。基本的には、普段通りに接していただいて大丈夫です。無理に特別なことをしようとしなくても、口を湿らせる、寒くないか確認する、好きな音楽を流す、手を握る、いつもの呼び方で声をかける。そうした日常の延長にある関わりが、患者さんの安心につながることがあります。どんなことをすると患者さんが喜ぶかは、ご家族が一番よくご存知だと思います。
「判断を間違えて取り返しのつかないことになったら」という不安への対策
まず、絶対に避けてほしいことがあります。医師から処方された薬を指示量以上に飲ませること、そして医師や看護師から制限されていることを行うことです。例えば、固形物を飲み込むことが難しく誤嚥の危険が高い方に、無理に固形物を食べさせることなどです。
一方で、基本的にはお家ですから、お家のルールで生活してよい部分もたくさんあります。医療のほうが、その人の暮らしに合わせていくべき場面も多いと私は考えています。
いままでしていなかったことをしたい時、たとえば「少し外に出たい」「好きなものを一口食べさせたい」「お風呂に入れてあげたい」と思った時は、先に医師や看護師に相談してください。できるだけ実現できる形を一緒に考えます。難しい場合も、代わりにできる方法を考えられることがあります。
そして何より、終末期の患者さんのいのちの流れを、ご家族の一つ一つの判断だけで左右しているわけではありません。いのちが終わりに向かうことを、誰の力でも止めることはできない時期があります。ご家族が「自分のせいでこうなった」と抱え込まないことも、とても大切です。大切な患者さんも、ご家族が自分を責め続けることは望んでいないのではないでしょうか。
ここに至るまでの道に後悔がある時
時間のない中で、考えて、悩んで、選んできた一つ一つの選択が、ここまで患者さんとご家族を支えてきました。頑張ってきたからこそ、いまの時間があります。
過去への後悔は尽きません。「あの時こうしていたら」「別の治療を選んでいたら」「もっと早く気づいていたら」という思いは、ご家族に何度も浮かぶと思います。
それでも、目の前にいる大切な人との時間は、いましかありません。振り返りは、後で一緒にすることができます。まずは、いまこの瞬間にいる患者さんとの時間を大切にしてください。その時に集められる情報と、その時の患者さんとご家族の気持ちで選んだことは、その時点での最善だったのだと思います。
「相談できる相手がそばにいない」と感じたらしてほしいこと
ご家族の中には、ひとりで介護をしている方もいれば、親戚まで集まって大家族のように介護をしている方もいます。マンパワーがあると、一人あたりの心身の負担が軽くなる面はあります。
一方で、家族が多いからこそ本音を言いにくかったり、方針を決める時に意見がまとまりにくかったりすることもあります。ご家族が何人であっても、介護者の孤独は生じ得ます。
ご家族の中に医療者がいなければ、訪問看護師やクリニックに連絡しないと相談できないこともあります。電話をするのをためらう方もいます。
ですが、ご家族が気になること、相談したいことがある時は、遠慮せず連絡してください。「このくらいで電話していいのかな」と思う時こそ、電話して大丈夫です。常に相談できる相手は、電話の向こうにいます。
ご家族が限界を迎えそうな時の対策
余命を聞いていても、必ずその通りになるとは限りません。介護を続けているご家族に疲労が蓄積していくと、「このままでいいのだろうか」「自分の方が先に限界になってしまうのではないか」と感じることがあります。
どうしてもご家族が疲れた時は、患者さんに一時的に入院してもらったり、ショートステイを利用したりして、数日から2週間程度休むこともできます。休むことも、お家での療養を続けるために必要な準備の一つです。限界を迎える前に、お家で過ごす時間が緊張感だけで張り詰めたものにならないよう、介護の負担と不安を一緒に軽くしていきたいと思います。まずはお家でやってみて、うまくいかなければ次の手段を考えることもできます。
エピローグ
私はこれまでお家で患者さんの闘病や看取りを支えているたくさんのご家族に出会ってきました。どのご家族にも共通していたのは、患者さんへの愛情でした。「なんとかしてあげたい」「代わってあげられたらいいのに」と、患者さんのことを深く考えていました。
ご家族の中にはとても緊張感が高い方もいれば、「なんとかなるさ」と急変時にもどんと構えている方もいました。最初から何でもできるご家族はいません。それでも、日々を一緒に過ごす中で、どのご家族も少しずつ逞しくなっていきました。患者さんが、ご家族に安心して身を任せているように見える場面もたくさんありました。
不安や悩みは、次から次に出てくると思います。それでも、ご家族はひとりではありません。相談できる仲間がいます。私たちはいつでもご連絡をお待ちしています。ご家族が全部を背負わなくていいのです。お家での看取りは、家族だけでいのちの責任を抱え込むことではありません。大切な人が安心できる場所で、残された時間を一緒に過ごすために、医療・看護・介護が周りから支えることです。怖さがあるままでも大丈夫です。その怖さを一つずつ言葉にしながら、後悔の少ない道を一緒に考えていきましょう。
執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳