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コラム 2026.06.04

お家での看取りが不安なご家族へ<前編>

悩んでいる夫婦

プロローグ

このコラムは、患者さんから「最期までお家で過ごしたい」「できれば自宅で最期を迎えたい」と言われ、その思いを尊重したい一方で、漠然とした不安や恐怖を抱えているご家族に向けて作成しています。

在宅看取りを一方的に勧めることが目的ではありません。ご家族がなぜ不安を感じているのかを一緒に言葉にし、患者さんにとってもご家族にとっても、できるだけ後悔の少ない道を選ぶための手助けをすることが、このコラムの目的です。

まず、お家での看取りを怖いと感じるのは、ごく自然なことです。2024年の人口動態統計では、亡くなった場所として最も多いのは病院・診療所などの医療機関で、全体の65.6%でした。一方で、自宅で亡くなった方は16.4%、老人ホームや介護医療院・介護老人保健施設などの施設で亡くなった方は16.3%でした1。つまり、今でも医療機関で亡くなる方が最も多い一方で、自宅や施設など、病院以外の場所で最期を迎える方も少なくありません。日常の中で「人が亡くなる過程」を身近に見る機会が少ないまま、家族の看取りに直面する方は多いと思います。

経験したことのないことは、誰にとっても不安です。ましてや、今回向き合っているのは、大切な人のいのちに関することです。「自分にできるのか」「苦しませないか」「何かあったらどうしよう」と悩むのは、冷たいからではありません。大切だからです。愛情があるからこそ、より一層怖くなるのだと思います。

いま抱えている漠然とした不安や恐怖を少しずつ「見える化」していくと、気持ちの面でも、環境や体制の面でも、準備できることがわかってきます。在宅療養におけるご家族の役割は、病院の看護師や介護士の代わりをすることではありません。患者さんが安心できる場所で、共に過ごすことです。

ご家族の手に、大切な人のいのちの責任がすべて掛かってしまうわけではありません。いのちの流れそのものを、家族が左右しているわけではない。大切な人との時間をどう過ごすかを考えるために、まずは今抱えている不安を払拭していきましょう。

1 厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況」、政府統計の総合窓口 e-Stat「人口動態調査 人口動態統計 確定数 死亡 上巻 5-5 死亡の場所別にみた年次別死亡数・百分率」

ご家族が抱えやすい悩み

ご家族からよくお聞きする悩みの一つに、「本人が在宅看取りを希望しているのに、家族である自分が即決できなくて申し訳ない」というものがあります。また、「自分が悩んだり動揺したりしている姿を患者さんに見せられず、自分の気持ちのやり場がない」と話される方もいます。

それは、とても優しい気遣いだと思います。患者さんのことを大切に思っているからこそ、自分の不安を見せてはいけない、本人を動揺させてはいけないと考えてしまうのだと思います。

一方で、もし患者さんがご家族に対して同じように気を遣い、「痛いけれど我慢する」「本当はしてほしいことがあるけれど言えない」という状態になっていたら、ショックを受けるご家族は多いのではないでしょうか。

ご家族の本音も、それと同じくらい大切です。不安や迷いを胸の内にしまい込んだままだと、時間が経つほど苦しくなります。もちろん、どこまで話せるかは長年の関係性にもよります。それでも、後悔を少しでも減らすためには、正直な気持ちを誰かに預けることが大切です。

患者さん本人に直接言うのが難しい時は、まず訪問看護師、主治医、ケアマネジャーなど、身近な支援者に相談してみてください。ご家族の不安を受け止めることも、在宅医療の大事な役割です。

「いつ何が起こるかわかりません」と医師に言われたら

病気を治すための治療が難しくなった時、あるいは患者さん自身がこれ以上の治療を望まなくなった時、医療の目的は「治すこと」から、「症状を和らげ、病気と付き合いながら、その人らしく過ごせるように支えること」へと変わっていきます。これをBSC(BestSupportive Care:ベスト・サポーティブ・ケア)と呼びます。

この段階で、担当医から「いつ何が起きるかわかりません」と言われることがあります。医師としては、断定しすぎてはいけない、患者さんやご家族を不安にさせたくない、という気持ちで言っているのかもしれません。

ただ、言われた側にとっては、とても不安を大きくする言葉です。「医師にも予測できないようなことが突然起きるのだ」と感じると、得体の知れない大きな恐怖に包まれてしまいます。

ですから、医師側はこの言葉だけで終わらせず、「これから起こる可能性が高い変化はこの3つです」「この症状が出た時は連絡してください」「この症状にはこう対応できます」というように、具体的な見通しと対策を一緒に伝える必要があります。

言われた側の患者さんやご家族は、可能であれば一歩踏み込んで、「先生のお見立てでは、これから一番起こりそうな経過はどのようなものですか?」「どんな症状が出たら連絡すればよいですか?」「その時、家ではどんな対応ができますか?」と聞いてみてください。「いつ何が起こるかわからない」の漠然とした不安をできるだけ対処可能なものにしていきましょう。もちろん、知ることがつらい方は、無理にすべてを聞かなくても大丈夫です。患者さんやご家族の疑問が解消されていれば、知ることは必須ではありません。

ご家族の「このままで大丈夫でしょうか?」に込められた不安

患者さんの容態に明らかな変化が出てきた時、ご家族から「このままで大丈夫でしょうか?」と聞かれることがあります。この言葉は、単なる医学的な確認ではありません。ご家族の心の中にある複数の不安が、一つの言葉になって表れていることが多いです。

  • これは自然な経過ですか。それとも異常事態ですか。
  • 本人は苦しんでいませんか。
  • 病院に行かなくていいですか。行けばよくなる可能性はありますか。
  • 私たちの判断で、こうなってしまったのではないですか。
  • いま、私たちは何をすればいいですか。
  • このままでいいなら、どうなったら連絡すればいいですか。

このようなさまざまな疑問がご自身でも解きほぐせないほど絡み合って表出されたものが「大丈夫ですか?」という問いだと思います。

目の前で眠る時間が増えたり、食べられなくなったり、反応が少なくなったりすると、「何かしなければ」と思うのはとても自然なことです。ただ、「このままで大丈夫ですか?」という言葉だけでは、ご家族が本当に聞きたいことが医師に伝わりきらないことがあります。医師の側が察して問い返せるのが理想ですが、もし可能であれば、「苦しんでいないかが心配です」「病院に行かなくていいのかを確認したいです」「何をしたらいいか知りたいです」と、少しだけ具体的に聞いてみてください。医師にとっても、何に一番不安を感じているのかがわかると、より的確に答えやすくなります。

看取りへの不安や恐怖の正体を見極める

ご家族が感じる「看取りへの不安や恐怖」には、いくつかの種類があります。例えば、次のようなものです。

  • 死そのものが怖い
  • 何が起こるかわからないのが不安
  • 大切な人が苦しむ姿を見るのが怖い
  • 重要なサインに気づけなかったらと思うと怖い
  • そばにいても何もできない気持ちがつらい
  • 自分が何をすればいいのかわからなくて不安
  • 自分が判断を間違えて、取り返しのつかないことになるのが怖い
  • 本当はもっといい選択肢があったのではないかという後悔
  • 常に相談できる相手がそばにいないことの心細さ
  • 自分が先に限界になってしまうのではないかという不安

まず、ご自身の感じている不安がこの中にあるか、それとも別のものなのかを考えてみてください。おそらく、いくつかの要素が混ざり合っていることが多いと思います。不安は、漠然としたままだと大きくなります。反対に、「何が怖いのか」が少し見えてくると、準備できること、相談できること、手放してよいことが見えてきます。

ここまでで、看取りへの不安にはいくつかの種類があり、「何が怖いのか」を言葉にすることが大切だとお伝えしました。後編では、それぞれの不安に対して、具体的にどのように考え、備えていけばよいかをお話しします。

 

執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳

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