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コラム 2026.07.09

家族にできる在宅緩和ケア<前編>

寝ている老人の手を握る女性

このコラムの紹介

大切な方が家で療養することになった時、「自分が異変に気づかなければ」「看護師さんのようにケアをしなければ」と不安になるご家族は少なくありません。でも、ご家族が医療者の代わりになる必要はありません。患者さんの「いつもと違う」に気づき、見たままを伝えること。口を湿らせたり、姿勢や部屋の環境を整えたり、いつもの声をかけること。この前編では、ご家族だからこそできる在宅緩和ケアを、具体的にお伝えします。

はじめに|家族の役割は、医療者の代わりになることではありません

重い病気を抱える患者さんが在宅療養を選んだ時、ご家族はたくさんの不安を抱えます。「自分が病院の看護師さんのようにケアをしなければいけないのだろうか」「異変を見落としたら、取り返しのつかないことになるのではないか」「できる限りのことをしてあげたいけれど、何をすればいいのだろう」。大切な人が大変な状態になっているのですから、そのように感じるのは、とても自然なことです。

在宅緩和ケアでは、薬の調整、点滴、在宅酸素の管理、痰の吸引、吐き気や息苦しさへの対応など、医療者が担う部分がたくさんあります。
一方で、患者さんが住み慣れた家で過ごすためには、ご家族の存在も大きな支えになります。最初にお伝えしたいのは、ご家族が医師や看護師の代わりになる必要はないということです。ご家族だけで、患者さんのいのちの責任を背負う必要もありません。

ご家族にしかできないことは、医療行為をすることではなく、患者さんが安らげる環境で共に過ごすことです。住み慣れた場所で、いつもの声が聞こえ、いつもの空気の中で過ごせることが、多くの患者さんにとって何よりの安心になります。
このページでは、ご家族にできる具体的な支え方、医療者に相談してよい目安、そしてご家族自身を守るために大切なことを整理します。

ご家族にしか気づけない「いつもと違う」があります

在宅療養で、ご家族が大きな力になる場面があります。それは、患者さんの「いつもと違う」に気づくことです。
医師や看護師は、診察の時に体の状態を確認します。血圧、脈拍、酸素の値、痛みの程度、食事量、意識の状態などを見ます。しかし、医療者が患者さんに接するのは、日常生活の中のほんのわずかな時間です。患者さんの1日の様子や表情、食べ方や眠り方、体調が悪い時にどんな振る舞いをする方かを一番よく知っているのは、多くの場合、ご家族です。

たとえば、いつもより口数が少ない、声に張りがない、表情が険しい、眠っている時間が増えた、食事の前になるとつらそうにする、薬を飲んだ後にぼーっとする、夜になると落ち着かなくなる、息の仕方がいつもと違う、トイレに行く回数が減った、昨日は眠れていなかったようだ、なんとなく昨日と違う気がする。

こうした「なんとなく違う」は、患者さんの異変に気づく手がかりです。「何がどう違うかうまく言えないけれど、いつもと違う気がする」という言葉だけでも、相談してよい情報です。
医師や看護師は、その言葉をきっかけに、痛みがあるのか、息苦しさがあるのか、薬の副作用なのか、病状の変化なのかを一緒に考えることができます。「いつもと違う」と気づくのはご家族の力であり、それが様子を見てよい変化か、対応した方がよい変化かを判断するのは医療者の役割です。

在宅療養では、あらかじめ緊急時の連絡先や連絡方法を確認しておくことも大切です。医師に直接電話しにくい時は、訪問看護師やケアマネジャーに先に相談する方法もあります。ご家族だけで抱え込む必要はありません。

症状の伝え方|何を、どのように伝えればよいか

患者さんの症状を医療者に伝える時、うまく説明できないと感じることがあります。痛みがあるように見えるけれど、本人がはっきり言えない。息苦しそうだけれど、酸素の数字は悪くない。食べられないけれど、何が原因かわからない。眠っているのが自然なのか、薬の影響なのかわからない。
このような時、ご家族がすべてを判断する必要はありません。難しい医学用語を使う必要もありません。見たまま、感じたままを伝えていただければ十分です。

たとえば、「昨日の夜から右のお腹をさすっています」「痛み止めを飲むと2時間くらいは楽そうですが、その後また顔をしかめます」「食べようとすると気持ち悪そうにします」「水分は取れていますが、固形物はほとんど入りません」「夜になると落ち着かず、何度も起き上がろうとします」「今日は呼びかけても返答の声に張りがなく感じます」というような伝え方で大丈夫です。

可能であれば、次のようなことを簡単にメモしておくと、医療者が状態を把握しやすくなります。

・食事は何時に、どれくらい食べられたか
・排尿・排便の回数、量、性状に変化があるか
・夜眠れているか、日中の眠る時間が増えていないか
・痛みや息苦しさなどの症状が、いつから、どこに、どのように出ているか
・薬を使った後に、つらい症状がどのくらい楽になったか
・前回の診察時と比べて変化があるか。食事量が減った、眠る時間が増えた、歩きにくくなったなど
・ご家族が困っていること。たとえば、本人は気にしていないけれど歯ぎしりが増えた、夜間の見守りがつらいなど

完璧な記録はいりません。スマートフォンのメモでも、紙でも、ご家族のLINEのやり取りでも構いません。つらい症状が出ている時ほど、ご家族も焦ります。簡単に一言だけでも残しておくと、薬の調整や対応につながりやすくなります。
当院では、何を記録すればよいかわからない方のために「療養・看病ノート」も用意しています。
療養・看病ノート

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ご家族ができる小さなケア

終末期で自宅療養中の患者さんには、食べる・飲む、着替える、口の中を清潔にする、顔や体を拭く、入浴する、姿勢を整える、排泄する、薬を飲むといった日常的な介助が必要になることがあります。また、点滴、傷や褥瘡の処置、カテーテルの管理、痰の吸引、経管栄養など、医療的なケアが必要になる方もいます。こうした介護や医療的ケアは、訪問介護や訪問看護を組み合わせることで支えることができます。つまり、ご家族がすべての介護や医療的ケアを担わなければ、在宅療養ができないというわけではありません。

そのうえで、ご家族だからこそできるケアがあります。それは、いのちを左右する処置ではなく、患者さんの安心や心地よさを支えるケアです。人は、ただ食べて、呼吸していればよいわけではありません。好きな音、好きな匂い、いつもの声、穏やかな空気、いつもの暮らしの気配が、患者さんの時間を支えます。

たとえば、口が乾いている時には、スポンジブラシで口の中を湿らせる、唇にリップを塗る、好きな味のゼリーや氷を少し口に含むなどの方法があります。終末期に近づくと、食事や水分が少なくなることがありますが、無理に食べたり飲んだりすることが、かえってつらさにつながる場合もあります。一方で、口の中の乾きは不快につながるため、口を湿らせるだけでも楽に感じられることがあります

姿勢を整えることも大切です。同じ姿勢をとり続けると腰や背中が痛くなることがあります。また、息苦しい時には、少し上半身を起こす、背中にクッションを入れる、横向きにする、足の位置を整える、顔の向きを少し変えるだけで楽になる方もいます。痛みがある時には、訪問医から指示されている頓用薬を使いながら、姿勢を変える、つらい部位をやさしくさするなどで、少し楽に感じられることもあります

部屋の環境を整えることもケアです。暑すぎないか、寒すぎないか、まぶしすぎないか、音がうるさくないか、空気がこもっていないか。息苦しさがある時には、窓を少し開けたり、顔の近くにやさしく風を送ったりすると、楽に感じる方もいます。

そして、声をかけること。同じ空間で過ごすこと。患者さんが眠っている時間が増えても、いつもの声かけが安心につながることがあります。「そばにいるよ」「今日はいい天気だよ」「買い物に行ったら好きな果物があったよ」「ひまわりが咲いたよ」。特別な言葉でなくても、普段通りの声や気配が、患者さんにとって大きな支えになることがあります。
ご家族が張り詰めすぎず、できるだけいつものように振る舞ってくれることも、患者さんにとって安心です。
好きな音楽をかける、同じ空間で家事や仕事をしながら過ごす、好きな食べ物を用意する、手や足をさする、髪をとかす。そして、できる範囲で普段通りに一緒に生活すること。それも、在宅緩和ケアの大切な一部です。

注記:このページの内容は、在宅療養や在宅緩和ケアを考える際の一般的な情報です。個別の症状や薬の使い方、緊急時の対応は、患者さんの病状や療養環境によって異なります。実際の対応については、主治医、訪問診療医、訪問看護師などにご相談ください。

執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳

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