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コラム 2026.07.09

家族にできる在宅緩和ケア<後編>

老人の背中をさする女性

このコラムの紹介

「この薬を使ってよいのだろうか」「どの程度の変化で連絡すればよい?」「家族がもう限界かもしれない」。在宅療養では、ご家族が判断に迷う場面が何度もあります。しかし、薬や症状の判断を、ご家族だけでしようとする必要はありません。後編では、医療者へ連絡してよい具体的な目安、薬との向き合い方、ご家族自身が頑張りすぎないために大切なことをお伝えします。最後に、医療者には代わることのできない「家族にしかできないこと」についても考えます。

薬について、ご家族だけで抱え込まないでください

在宅療養では、ご家族に薬の管理も手伝っていただくことがあります。痛み止め、吐き気止め、便秘薬、眠剤、不安を和らげる薬など。薬が増えてくると、ご家族はとても不安になります。
「この薬は本当に使ってよいのか」「眠くなっているのは薬のせいではないか」「痛み止めを使うと寿命が縮むのではないか」「レスキュー薬を何回も使ってよいのか」「どの薬を優先してよいかわからない」。

特に医療用麻薬に対しては、怖いイメージを持つ方も多いです。がんの痛みや息苦しさに対して、医師の管理のもとで使う医療用麻薬は、苦痛を和らげるための大切な薬です。痛みが強いままだと、眠れない、食べられない、動けない、不安が強くなる、という悪循環に入りやすくなります。薬を適切に使うことで、眠れる、話せる、少し動ける、穏やかに過ごせる時間が増えることがあります。一方で、医療用麻薬には副作用もあります。眠気、便秘、吐き気、ふらつきなどが出ることがあります。だからこそ、ご家族が勝手に薬を増やしたり減らしたりするのではなく、医師、看護師、薬剤師と相談しながら調整していくことが大切です。

ご家族にお願いしたいのは、薬の専門家になることではありません。薬を飲めているか。飲んだあとに楽になっているか。眠気やふらつきが強くないか。便秘が続いていないか。レスキュー薬を使う回数が増えていないか。こうした様子を見て、気づいたことを伝えてください。

また、薬を飲ませること自体が大変になってきた時や、薬を減らしたいと感じる時も、遠慮なく主治医に伝えてください。終末期には、飲むことそのものが負担になることがあります。苦痛を和らげる薬は大切ですが、すべての薬を最後まで飲み続けることが目的ではありません。
食事がとれなくなったり、薬を飲むことが大変になったりしている時は、体の状態が変わってきているサインかもしれません。
ご家族がその変化を伝えてくださることで、医師も薬の形や量、優先順位を見直しやすくなります。お薬の判断を、ご家族だけで抱え込まないでください。使い方に迷う時は、何度でも確認して大丈夫です。

「何かあったら連絡」の“何か”を決めておきましょう

在宅療養で、ご家族が不安になりやすい言葉があります。それは、「何かあったら連絡してください」です。医療者としては、遠慮せず連絡してほしいという意味で言っています。しかし、ご家族からすると、「何か」とは何なのかがわからず、不安になることがあります。

どのくらい痛そうなら連絡するのか。どのくらい息苦しそうなら連絡するのか。食べられなくなったらすぐ連絡するのか。眠ってばかりいたら連絡するのか。熱が出たらどうするのか。血が出たら救急車なのか。夜中でも電話してよいのか。ここが曖昧なままだと、ご家族はずっと緊張して過ごすことになります。

まずは、主治医や訪問看護師に、連絡の目安を具体的に確認しておきましょう。具体的な指示がある方が安心な場合は、そのことを主治医に伝えてください。たとえば「このレスキュー薬を1時間あけて2回使っても痛みが取れない時や、薬を飲むこと自体が難しい時は連絡してください」というように具体的な指示を伝えてくれます。

とはいえ、終末期に起こり得ることをすべて事前に説明するのは難しい場合があります。患者さんやご家族を不安にさせすぎないように、医師が情報量を調整していることもありますし、医師でもすべてを予測できるわけではありません。だからこそ、説明されていないことでも、「いつもと違う」と感じたら連絡してよいのです。

連絡する目安としては、次のような場面があります。
・いつもと違う、これまでにない症状が起きた時
・痛そうに顔をしかめている、眉間にしわを寄せていて苦しそうな時
・息が苦しそう、むせた後も呼吸が落ち着かない時
・吐き気や嘔吐が続く時
・出血がある時
・けいれんがある時
・急に呼びかけへの反応が変わった時
・転倒やベッドからの転落など、家の中で事故が起きた時
・薬の飲ませ方を間違えた時
・いつもの薬が飲めない時
・普段と違う発言や強い混乱がある時
・いつもの症状でも、いつもの薬で治まらない時
・ご家族がなんとなく変だと感じる時
・連絡するか迷った時

そして、もう一つ大切なことがあります。ご家族自身の不安が強い時も、連絡してよい時です。不安なまま一晩中見守るより、電話で相談して、今できることを確認する方がよいこともあります。在宅療養は、ご家族が一人で判断し続けるものではありません。

ご家族が頑張りすぎると、療養は続きません

在宅療養では、患者さんのことを大切に思うほど、ご家族が無理をしてしまうことがあります。
自分が見ていなければ。自分がそばにいなければ。自分が頑張らなければ。少しでも目を離したら、何か起こるのではないか。そう思って、眠れない日が続いたり、食事が取れなくなったり、仕事や家事との両立が難しくなったりする方もいます。

しかし、ご家族が倒れてしまうと、在宅療養は続きません。患者さんを大切にすることと、ご家族自身を大切にすることは、対立するものではありません。むしろ、ご家族が休むことは、患者さんを支えるために必要なことです。
訪問看護を増やす。訪問介護を利用する。ショートステイや緩和ケア病棟などでの一時入院を検討する。親族や友人に短時間でも交代してもらう。夜だけでも見守りの負担を減らす。ケアマネジャーに介護サービスを相談する。こうした支援を使うことは、手抜きではありません。ご家族だけで抱え込まないための、大切な準備です。

また、ご家族の気持ちのつらさも、相談してよいことです。「本人の前では泣けない」「家族なのに逃げたいと思ってしまう」「優しくしたいのに、つい強く言ってしまう」「この生活がいつまで続くのかわからなくて苦しい」。こうした気持ちは、決して珍しいものではありません。
ご家族は、患者さんを支える人であると同時に、不安や疲れを抱える一人の人です。患者さんだけでなく、ご家族も支えられるべき存在です。

むすび在宅クリニックで大切にしていること

むすび在宅クリニックでは、がん終末期や重い病気を抱えながら、ご自宅や施設で過ごす患者さんとご家族を支えるために訪問診療を行っています。
私たちが大切にしているのは、薬を調整することだけではありません。痛み、息苦しさ、吐き気、食欲低下、不眠、せん妄、医療用麻薬の使い方、点滴をするかどうかといった医学的なことを整理しながら、その方がどこで、誰と、どのように過ごしたいのかを一緒に考えることです。

在宅療養では、患者さんの病状だけでなく、ご家族の不安や疲れ、介護サービスの使い方、療養場所の選び方も大切です。「このまま家で過ごしてよいのか」「病院に行った方がよいのか」「家族だけで支えられるのか」と迷う時、その迷いごとを一緒に受け止め、今できることを一つずつ整理していきます。
ご家族には、医療者にはできない役割があります。しかしながら、ご家族だけで抱え込んでほしくないこともたくさんあります。私たちは、患者さんが少しでも穏やかに過ごせること、そしてご家族が「これでよかったのだろうか」と一人で抱え続けなくてすむことを目指しています。
在宅療養を始めるかどうか迷っている段階でも、相談してよいことはたくさんあります。「家で過ごしたいけれど心配」「家族だけで支えられるかわからない」「何を準備すればよいかわからない」という時は、主治医、病院の医療連携室、ケアマネジャー、訪問診療医などにご相談ください。

家族にしかできないこと|いつもの関係で、同じ空間にいること

ここまで、在宅療養の中でご家族ができることをお話ししてきました。変化に気づくこと。症状を伝えること。口を湿らせること。姿勢や環境を整えること。薬の様子を見ること。連絡の目安を確認すること。そして、ご家族自身を守ること。
でも、最後に一番大切なことをお伝えしたいです。ご家族にしかできないことは、患者さんのそばで、いつもの関係でいることです。

医師は薬を調整します。看護師は処置やケアをします。薬剤師は薬を整えます。ケアマネジャーは介護サービスを調整します。ヘルパーは清拭やおむつ交換などを支えます。どれも家で生活するために必要なことです。
けれど、緩和ケアの中で医療者にできることは、実は一部なのかもしれません。いつもの呼び方で呼ぶ。昔の話をする。好きな音楽を流す。家族の声で安心させる。手を握る。一緒にテレビを見る。アルバムを開いて昔の写真を眺めてみる。同じ部屋で、ただ過ごす。こうした時間は、医療者には代わることができません。

ご家族がずっと元気な姿を見せる必要はありません。たまには患者さんの前で泣いてもいいですし、悲しい気持ちを伝えてもいいと思います。先のことを考えて不安になった時は、目の前にいる人の胸に耳を当てて心臓の音を聞いてみたり、呼吸の音に耳をすませてみたり、一緒に横になって体温を感じてみたりしてください。そこに、その人がいることを感じられる時間になります
目に見える姿の記憶は、時間とともに少しずつ変わっていくかもしれません。それでも、声の響き、手のぬくもり、同じ部屋にいた空気、その人がそこにいたという感覚は、ご家族の胸に残り、これからの時間を一緒に生きていくものになります。

「そばにいる」とは、ずっと見張っていることではありません。その人の存在を感じながら、同じ時間を過ごすことです。何かしてあげたいと思ってくれる、その気持ちそのものが、患者さんにとって大きな支えになることがあります
在宅緩和ケアでは、ご家族にできることがたくさんあります。でも、それはご家族がすべてを背負うという意味ではありません。患者さんのために頑張ることと、ご家族自身を守ることは、どちらも大切です。迷った時は、連絡してください。困った時は、相談してください。不安な時は、不安だと伝えてください。
患者さんも、ご家族も、ひとりで抱え込まなくて大丈夫です。どうか、自分の存在を小さく見積もらないでください。患者さんにとってかけがえのないご家族ですから。

注記:このページの内容は、在宅療養や在宅緩和ケアを考える際の一般的な情報です。個別の症状や薬の使い方、緊急時の対応は、患者さんの病状や療養環境によって異なります。実際の対応については、主治医、訪問診療医、訪問看護師などにご相談ください。

執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳

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