コラム 2023.03.10
余命と、亡くなる前の兆候について<後編>
−「余命〇〇日です」と宣告された方、これから大切なひとをおくる方へ−
「余命〇〇日です」という言葉は、誰に対しても大きな衝撃を与えてしまう、鋭い宣告です。
これを聞いた患者さんやご家族は、受け入れられない、信じたくない、何も考えられない、などのいろいろな思いが混ざり合った苦しみとともに、亡くなる前にどんなことが起こりえるのだろう、できるだけ苦しまずに過ごすにはどうしたら良いのだろう、といった疑問も持たれるかとお察しします。後編では、いよいよお別れが近づいてきた時の兆候など臨死期の疑問にお答えします。
目次
余命3ヶ月と言われました。どうしたらいいですか?
余命宣告を受けて本当におつらい時だと思います。受け止められない、何も考えられないと思う方もいらっしゃるでしょう。しかしながら、もしすでに何らの症状が出ていて、今まで労なくやれていた身の回りのことや家事などに負担を感じているのであれば、次の2つのことは1週間以内に行ってください。
- 『これからの時間をどこで、誰と、どんなふうに過ごしたいか』を考える
- 「どこで」の選択肢に少しでも「家」という可能性があるなら…
近くの在宅医療を行っているクリニックを探して、訪問診療を依頼する。(探すことが難しい場合は、主治医、地域包括支援センター、あるいは介護保険の要介護認定を取得済みの方はケアマネージャーにご相談ください。)
「どこで」の選択肢が「病院」あるいは「施設」なら…
今かかっている病院の主治医にそれを伝えて、療養できるところを紹介してもらう。
これからの道のりには、積極的な治療を行っている時以上に複数の選択肢があり、ガイドしてくれる人が必須です。
訪問診療を行う医師のことを「在宅医」と呼びますが、在宅医は、診療を行うだけでなくこれからのことを一緒に考えるガイドの役割をします。病院の主治医にはいつでも電話して相談するというのは難しいと思いますが、在宅医療専門のクリニックでは電話での相談がしやすく、訪問時間や訪問回数の融通が効きます。
1に関しては、いつでも撤回・変更して良いものですし、在宅医やケアマネージャー、ご家族と相談しながら決めていっても構いません。ただ、人の意見に左右される前に、まず一度はご自身で考えてみてください。現実離れした希望であっても、あなたのしたいことは、あなたの生きる力になります。
がんや心不全の末期にはどんな症状が出てきますか?
どんな症状が出るかは病名や体の状態によって十人十色ですが、よく起こる症状としては、倦怠感、食欲不振、痛み、便秘、不眠、呼吸困難、悪心嘔吐、せん妄などがあります。こちらの表に各疾患でどんな症状がどれくらいの頻度で出現するか記載しています。例えば、がんでの倦怠感の出現頻度は23〜100%と大きな幅がありますが、これは文献によって報告内容が異なるからで、それくらい症状が出現するかどうかはわからない、ということになります。
ただし、きちんと薬を調整したり、環境を整えれば、ほとんどの症状は緩和できますので、「死ぬ時には苦しい思いをしなければならない」と怖がる必要はありません。
表1:Moens K et al : Are there differences in the prevalence of palliative care-related problems in people living with advanced cancer and eight non-cancer conditions? A systematic review. J Pain Symptom Manage 48 : 660-677, 2014
グラフ1:Seow H et al : Trajectory of performance status and symptom scores for patients with cancer during the last six months of life. J Clin Oncol 29 : 1151-1158, 2011
いよいよお別れが近づいたとき、どんな兆候が現れますか?
「そろそろである」こと、つまり亡くなる数時間〜数日前であることを示す兆候として次の6つがあります。
- 呼吸の変化:息苦しさを訴える。呼吸が不規則になる。全力疾走した後のように肩で息をする(努力呼吸)。顎をあげて喘ぐように呼吸する(下顎呼吸)。喉からゴロゴロと水が溜まっているような音が聞こえる(死前喘鳴)。
- 意識・認知の変化:寝言が増える。辻褄の合わない発言や幻覚・妄想がみられる。しっかり話せる時と混乱している時があり、後者が増えていく。寝ている時間がだんだん長くなる。呼びかけても起きない昏睡状態へと至る。
- 経口摂取量の変化:だんだんと食事を欲しがらなくなる。食べられる量が減る。食事中や食後にむせる。口の中に食べ物が残る。食べながら寝てしまう。
- 皮膚の変化:足が浮腫む。手足が冷たくなる(末梢冷感)。足の裏がまだらの紫色になる(チアノーゼ)。顔色が白くなる。口元がだらんとしてほうれい線が緩む(鼻唇溝の低下)。
- 身の置き所のなさの出現:そわそわしてじっと落ち着いていられない感じになる。寝たり起きたりする。寝返りを頻繁に打つ。布団を蹴り飛ばす。手足をバタバタさせる。(表情は苦しそうな時も、ただ寝ているような時もある)
- 尿量の低下:尿量が減って、やがて出なくなる。
このうちの1つの兆候が起きたら、ということではなく、この項目の中で当てはまるものが増えてきたら、より差し迫った時期にあると判断します。
亡くなる前の兆候が出てからの時間はどれくらいありますか?
先ほどの6つの兆候は、医学的には早期・晩期死亡前兆候と呼ばれるものです。
すべて、見た目や触ってわかる変化で、採血や画像検査などで時期を評価するものではないため、ご家族もずっと様子を見ていたら変化に気づくことがあるかもしれません。
兆候が出てきくると数日〜数時間と言われていますが、実際には2、3週間横ばいの状態が
続く方もいますし、どの兆候も出ずに亡くなる方もいますので、「その時」の予測は難しいです。
典型的な経過では、
亡くなる1〜2週間くらい前から、食事量が減る。
1週間くらい前から、だんだん寝ている時間が増える。水をむせるようになる。
数日〜数時間前から、身の置き所のなさが出現したり、死前喘鳴が見られる。
数時間前に下顎呼吸やチアノーゼが出現し、脈が触れなくなる。
という経過をたどりますが、あくまで典型例では、と思ってください。
グラフ2 : 恒藤暁 : 末期がん患者の現状に関する研究. ターミナルケア. 1996; 6: 482-490
グラフ3:Hui D, et al : Clinical signs of impending death in cancer patients. Oncologist. 2014; 19: 681-7.
お別れの間近、そばにいる家族には何ができますか?
だんだん食事を取らなくなり、寝ている時間が長くなって、変わっていく患者さんの姿をそばで看ていることはとてもおつらいことで、何かしたい、どうにかしたいと思う方も多くいらっしゃいますよね。亡くなる前の変化は、この世で学び、身につけてきたことを、1つ1つ手放して、赤ちゃんに戻っていくようなものなのかなと思うことがあります。赤ちゃんだったら、寝ている時間が長くてもそんなに不安にはならないし、食べたいと言ったのに眠ってしまってもしょうがないなと思うだろうし、よくわからない言葉を発したり、そわそわもぞもぞしていたりしたら、どうしたいのかなと想像してあれこれ試してみますよね。それと同じ対応で大丈夫です。
そばにいて、同じ部屋で過ごして、普段通りに話しかけて、時々足をマッサージしたり、手を握ったりしてあげてください。
お家でお別れをする場合でも、排泄の管理やお着替えなどはヘルパーさんにお願いできますし、薬を飲ませたり点滴を調整したりするのは医師や看護師が行うこともできますので、ご家族だからといってなんでもすべてやろうとしなくても大丈夫です。人に任せられることは任せて、ご家族にしかできない、「そばにあなたがいる」ことを行ってください。
執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳