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体験談 2023.12.10

体験談vol.5 濱川健一さん本人<前編>

・患者さんの病名:肺がん
・患者さんの年齢:82歳
・闘病期間:発症から現在まで1年4か月
・訪問診療を受けている期間:約1年
・家族構成:奥様と2人暮らし。都内・隣県に長男さん、次男さんが在住
・インタビューに答えてくださる方:濱川健一さん(本人)
・インタビューの時期:訪問診療開始から約1年後

濱川健一さんは70歳までは大病もなく、元気に過ごされていました。趣味のカメラや園芸、音楽鑑賞を嗜み、ご友人も多く、生き生きとした生活を日々営んでいました。
70代になって直腸がん、舌がん、咽頭がんと3つのがんに罹患し、それぞれ手術で完治しました。その他にも無症候性脳梗塞や高血圧症でお薬を内服したり、腹部大動脈瘤に対する手術を受けたりしました。それでも、ひどい後遺症はなく、それまでと同様に元気に過ごされていたそうです。

81歳の時に、腹部大動脈瘤の経過を見るためのCTで偶然に肺腫瘤を発見され、精査の結果、肺がんと診断されました。進行がんで手術の適応はなく、大学病院で約1ヶ月半の間、化学療法と放射線療法を受けました。経過は良好で、分子標的薬¹による地固め療法²を開始しました。しかし、分子標的薬の開始から1週間後、息切れと発熱のためにかかりつけの大学病院に緊急入院しました。分子標的薬が原因の重度の肺炎と診断され、ステロイドと酸素投与の治療を受けました。そして、約6週間の入院治療の後、少しずつ回復して酸素を使用しながら数メートルの歩行ができるようになった濱川さんはご自宅での療養を強く希望されました。

退院し、ご自宅に戻るにあたって、病院の主治医より通院と訪問診療の併用を勧められ、退院当日に訪問診療医、訪問看護師、理学療法士、ケアマネジャー、福祉用具貸与事業者など約10人が濱川さんのご自宅に集まりました。そして、状態に合わせて訪問頻度を決め、濱川さんの在宅療養が始まりました。退院当初は酸素を6L/min使用しながらトイレに行くだけでもSpO2値³が82%まで下がる状態でしたが、お薬や、訪問看護によるお体のケア、理学療法士によるリハビリにより、退院から約7ヶ月後には酸素の使用は外出時のみで、1人で散歩や園芸を楽しめるほどに回復しました。現在も、濱川さんは週1回の訪問診療と2〜3ヶ月毎の大学病院への通院を続けています。

いつものように香西が濱川さんを訪ねたある日、濱川さんに訪問診療についてインタビューさせていただきました。


¹がんは白血球から攻撃されないように白血球から自分を見えなくする物質を発現させているが、その隠れ蓑を取って白血球ががんを攻撃できるようにする薬剤
²がんの薬物治療で寛解導入療法に続く第二段階で行われる治療のこと
³動脈血の中の赤血球に含まれるヘモグロビンの何%に酸素が結合しているかを経皮的に調べた値。標準値は96〜100%

訪問診療を受けようと思ったきっかけと、開始からこれまでのこと

香西:
濱川さんとお会いして、そろそろ1年ですね。

濱川:
そうだねぇ。もう1年だねぇ。この1年は色々あったけど、あっという間だったなぁ。

香西:
濱川さんは退院の時に主治医の先生から訪問診療をご紹介いただいたかと思いますが、その前から訪問診療をご存知でしたか?

濱川:
いや、親戚、友人知人、誰ひとり訪問診療を受けている人はいなくて、全く知らなかったよ。退院の時に主治医の先生がとても心配して、家は無理だと言ったんだ。施設の方がいいって。それでも私が家に帰りたいと言うと、奥さんの介護の負担が大きすぎるから、それなら訪問診療や訪問看護を入れなさいと勧められたんだよ。

香西:
確かに、退院の時は今とは全く状態が違いましたね。トイレまでの3mくらいの移動で息も絶え絶えで、排泄や入浴も看護師の介助が必要でしたね。

濱川:
まぁそういう時もあったねぇ。

香西:
訪問診療や訪問看護の事業所は濱川さんや奥様が選んだのですか?

濱川:
いや、全然わからなかったから、大学病院の医療連携室の相談員さんに家の近くのところを紹介してもらったんだ。香西先生に出会ったのも運命だね。

香西:
実際に訪問診療が始まってみて、どうでしたか?

濱川:
1ヶ月半ぶりに家に帰ってきて、退院したその日に10名くらい勢揃いしててびっくりしたよ。誰が誰やら、わからなくてね。

香西:
事前に病院の主治医から診療情報をいただいていますが、実際にご様子を見てみないと退院後にどれくらいのケアが必要かわからないので、退院日に合わせて濱川さんの在宅療養に関わる人たちがみんな集まりました。医師、看護師、理学療法士、ケアマネジャー、福祉用具貸与事業者など、複数人で来る事業所もありますから10名くらいになりましたね。

濱川:
こんなにたくさんの人に来てもらわなきゃいけないほど自分は重症なんだなって感じたよ。自分では家に帰ればなんとかなると思っていたのだけれど。

香西:
濱川さんのおっしゃるとおり、家に帰ってからそれほど医療・介護サービスの必要がない患者さんもいます。しかしながら、病院に入院している間は1日に何度も医療従事者が患者さんの様子を見に行くのに、退院して訪問診療・看護が入らないと、いきなり放置になります。次回の外来受診まで待っていては何か起きた時の発見が遅れるし、そもそも生活がままならなくなることもあるので、今回のように先手を打ち、退院時に病院から訪問診療の依頼がくることはよくあります。退院直後に濱川さんが受けたサービスはどんなものでしたか?

濱川:
調子が悪かった時のことなんてそんなに覚えていないよ。退院直後は、訪問診療が週1回、訪問看護が週2回、訪問リハビリが週1回だったね。先生には状態の報告をして、診察してもらって、ステロイドの量とか酸素の量とか、どこまで動いていいかとか決めてもらったね。看護師さんにはお風呂に入れてもらったり、摘便とか浣腸とかで排便のコントロールをしてもらったりしたかな。リハビリは、最初はお家の中で座ってやる体操とか呼吸の訓練とかやってて、あの時は早く階段や外を歩きたくてもどかしかったな。3ヶ月目くらいからだんだん屋外歩行をやるようになって、今では1人で外にも行けるようになったから、退院から10ヶ月でリハビリは卒業したんだ。

香西:
訪問看護も週1回に減らせましたね。訪問診療は、頻度を月2回に減らそうとした時に息苦しさの増悪があったので、週1回を継続することにしました。費用的な負担はどうですか?

濱川:
私は医療保険も介護保険も負担割合が1割、要介護4だね。医療保険の限度額認定証を持ってるよ。それで、訪問診療は毎週来てもらって、酸素濃縮器のレンタル代も入れて月8000円。訪問看護とリハビリは介護保険を使っていて、訪問看護週2回、リハビリ週1回の時は月12000円。今は訪問看護週1回で月6700円くらいだね。だから合計で、退院直後が月に20000円、今は月に14700円くらい在宅医療・介護費がかかっているよ(2023年11月現在の医療・介護保険に基づく)。

香西:
在宅療養中は医療保険と介護保険の両方が適応となり、費用見積もりがとても難しいですね。

濱川:
私も実際に受けてみるまで、どれくらいかかるか全然想像がつかなかったな。もう少し費用が事前にわかると皆さん使いやすいかもしれないね。

香西:
クリニックでかかる医療費に関しては、ご納得いただけるまでご説明することを心がけていますが、こちらも実際に訪問してみないと、どれくらいの訪問頻度や医療行為が必要かわからず、おおまかな説明になってしまうのです。申し訳ございません。濱川さんの場合は、酸素と月2回の訪問診療ですでに上限に到達するので、それ以上何度訪問してもクリニックの支払いは8000円のままですね。この費用は高いと感じますか?

濱川:
いや、日本の国民皆保険はいい制度だよね。これが国によっては全額自己負担だからこの10倍だととても払えないけれど、限度額と負担割合1割のおかげで助かっているよ。

編集:児玉紘一
執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳
対談日:2023年9月26日

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