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院長対談 2023.12.06

院長対談 セレモ共済会・株式会社セレモニー(葬儀社)
代表取締役社長 秋野圭崇 第3章

むすび在宅クリニック 院長:香西友佳(こうざいゆか)
セレモ共済会・株式会社セレモニー 代表取締役社長:秋野圭崇(あきのよしたか)

セレモ共済会・株式会社セレモニーの紹介:弊社は1976年に創業して以来、「お客様や地域社会から必要とされる会社」を目指してまいりました。ご逝去という非日常に対して「豊富な実績と責任を持ったスタッフ」がご遺族様に寄り添い最高のホスピタリティーをご提供致します。しきたりを大切にしながら、新しいお葬式のカタチにも対応し、ご遺族様の「故人への想いをかたちに」するお葬式。それがセレモニーのお葬式です。
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葬儀社の心構え

香西:
葬儀社は患者さんの逝去の直後で悲嘆に暮れているご遺族と初対面であることも多いかと思います。そのような場面で、ご遺族に接する際に心掛けていることはありますか?

秋野:
亡くなられた方を敬い、その方がそばで聞いていらっしゃるということを念頭に置いて、ご遺族に接しています。また、決めなければならないことはたくさんありますが、できる限り急かさないよう気をつけています。訪問してすぐにご遺体にドライアイスを当てるのではなく、その前にご遺族に故人様に触れていただき、冷たくなる前にもう一度故人様を想う時間をとっていただくようにしています。

香西:
時間も限られているなかでも、プロフェッショナルとしてご遺族に配慮し、落ち着いて行動されているのですね。

秋野:
葬儀社は空気を読む力が必要だなと感じます。例えば、ご遺族が悲嘆に暮れる中で、遠縁のご親戚や会社の方などが盛大な葬式にしようと声を上げ、ご遺族の想いからかけ離れた葬儀になりそうになる時があります。そういう時は一旦話を切り上げ、翌日以降にご遺族だけでゆっくり決める場を設けるなどの対応を取ります。ご遺族がたくさんいらっしゃって、全員の意見が違う場合、全てを叶えることはできませんが、故人様が何を望んでいらっしゃるかを前提に、喪主様や近しい方々のご希望に沿って進めさせていただきます。

香西:
意見を取りまとめるのは大変そうですね。

秋野:
葬儀の日にちだけ決めておけば、他のことは2、3日かけて決めても大丈夫です。ご遺族に悔いが残らないように、一緒に考えていきます。

良い最期とは

香西:
「良い最期」とはどのようなものでしょうか?

秋野:
故人様とご遺族の関係性はさまざまですから、一概にこれが良いとこちらで判断するものではありませんが、お孫さんがおじいちゃんを触ったり、お骨拾いの際に「おじいちゃん重いね」という会話があったりといった、故人様に関する血の通った交流や会話があるとこちらも温かい気持ちになります。

香西:
何歳まで生きたって、死ぬことはかなしいことで、それ自体を良いことにはできないでしょう。遺された方には少なからず悔いはあると思います。しかし少しでも悔いが少なくなるようにご遺族の選択を支えていくことが、ひとの死に関わる私たちの使命で、故人様との思い出を皆で共有して何度も思い出すことが最大の供養なのだと思っています。

秋野:認知症ですごく介護が大変だった方の四十九日にお伺いした際に、故人様の奥様が「よく考えたら、あのひとは認知症で良かったのかもしれない。つらいことも全部忘れて、痛みも感じずに死ねたから」とおっしゃっていたこともありました。どんなことも時間が経てば良い思い出になっていくのかもしれません。

終活について

香西:
終活はしておいた方が良いですか?また、どのようなことをしておいたら良いですか?

秋野:
終活は2009年頃から広まった言葉です。それまでは、故人様のことを知っている人が周りにたくさんいて、本人が決めなくても、葬儀や死後のことが進められたので必要なかったのだと思います。今では、核家族化が進み、ひとが集まる機会が減り、家族であっても遠方にお住まいであったり、関係が希薄であったりするために、本人の判断能力がなくなった状態で、本人がどう思っているか、何を希望しているかがわからない状況になることが増えています。そこで、自分の希望を知ってもらうためにエンディングノートを書いたり、生前相談で葬儀の準備をしておいたりといった終活が必要になっています。私自身も終活セミナーを開催しています。エンディングートや生前整理はとても大事なことですが、周囲のひとやご家族との関係性を再構築していくことの方が終活においてさらに大事だと思います。

香西:
その通りですね。どうしても想定していないことも起こり得ますし、文章で伝えられることには限りがあります。ひととのつながりは、人間が生きることの原点であると感じます。

秋野:
百聞は一見にしかずで、どんな文章よりもたった1回でも会った方が自分のことを伝えられるのです。辞典のように分厚いエンディングノートを作ったとしても、ご遺族が葬儀の前にそれを読む時間は十分には取れないでしょう。細かく1つ1つ決めておくよりも、「お花はピンクがいい」とか「痛いことだけはしないでほしい」などというように、望むことを簡潔に記し、遺影にする写真を遺しておいていただけるとご遺族が助かります。逆に、「葬式はあげないでいい」などという書き方だと、遠慮なのか本心なのか分からず、家族が悩むこともあります。葬儀は故人様のものであると同時に、ご遺族が気持ちの整理をする場でもあり、きちんとかなしむための場です。エンディングノートがご遺族の後悔の種になるようなことは避けましょう。

香西:
身近なひとやご家族とできるだけ会って関係を再構築していくことが終活において最も大事で、それが難しい場合や、会ってもうまく伝えられないことは簡潔にエンディングノートに記し、エンディングノートの存在に気付いてもらえるように保管しておくことが大事ということですね。会えるような家族のいない、おひとり様でも良い最期を迎えることはできるでしょうか?

秋野:
もちろん可能です。ただ、誰とも関係性を持たずに、というのは難しいと思います。知り合いのご年配の女性で、ご近所さん5、6人で「おひとり様クラブ」を作っている方がいらっしゃいます。2日間カーテンを開けていなかったら電話したり訪問したりしようなどとルールを作って、お互いに安否確認し合い、グループで仲良くされています。

香西:
終活と言うと、人生を終えることばかりに目を向けた、孤独なソロ活動のようなイメージがあるかもしれませんが、そんなふうに仲間を作って終活すると楽しそうですね。年を重ねれば重ねるほど、新しいコミュニティに参加したり、人と交流したりするのが億劫になりがちですが、人間は猫のように縁側の下でひっそりと死ぬようなことは難しくて、やはり、誰かとのつながりが必要なのだと思います。被後見人や身寄りがなく、なんの準備もせずに亡くなってしまった場合にはどうなるのでしょうか?

秋野:
お力になれるかと思いますので、まず身元引受人の方からご連絡ください。弊社には「後見葬儀」というプランもあります。葬儀を頼む人がいない方の場合の、できるだけ費用を抑えた葬儀プランです。

エンゼルケアとグリーフケアについて

香西:
エンゼルケアとはどのようなものでしょうか?

秋野:
以前は死後処置と言われていました。ご遺体は乾燥と腐敗が進みますので、ご遺体を整え、体液や排出物が流出しないように処置をします。また、同時にご遺族の心のケアをすることもエンゼルケアの一環です。ご遺族に一緒に湯灌やお着替えなどの処置をしてもらったり、故人様の手を握ってもらったりして、故人様に向き合い、死を分かち合います。

香西:
先ほどのエンバーミングとの違いはなんですか?

秋野:
エンゼルケアはご遺体の表面をきれいに整えることを目的としていて、エンバーミングは体内まで殺菌し、防腐処理を行い、長期保存を目的とするものです。火葬が一般的な日本ではエンバーミングができる施設は限られていて、必要な場合には連携業者をご紹介いたします。

香西:
当院でお看取りするのは、ご遺体の大きな損傷はない方がほとんどなので、これまでエンバーミングをご希望されたことはありませんでした。しかし、もしかしたら知っていたら希望された方はいらっしゃったのかもしれません。例えば、当院で在宅看取りをした方で、8年前に乳がんの手術を受けてから一度もご主人に術後の乳房を見せたことがなく、最期までご主人には排泄ケアをさせなかった、という気丈な、女性としてのプライドを持った患者さんがいらっしゃいました。もしかしたら、その方は葬儀の際もエンバーミングを施し、元気な時のお顔をご主人に覚えておいて欲しかったのかもしれません。

秋野:
最期のお顔はご遺族の心に残りますね。

香西:
エンゼルケアの場合も、お化粧は特別な方法でされるのですか?

秋野:
納棺師などの映画で死化粧が話題になりましたが、実際には死化粧はそんなにしなくてもよいことが多いです。お顔の保湿をして、紅をすっとさすくらいでお綺麗になります。どんなふうにするかよりも、誰がやってくれたかが大事ですね。

香西:
以前、ご自宅で70代の女性をお看取りしたときに、長女さんと次女さんが亡くなられたお母様の死化粧をされていて、3歳くらいのお孫さんがどうしてもやりたいと言ってチークを塗ったら、濃くなりすぎて故人様のお顔がオカメになってしまって、ご家族みなさんで泣きながら笑っていました。

秋野:
そうやって故人様の親しい方が、故人様のいつもの化粧品を使って、お化粧して下さるのが1番良いお顔になりますね。

香西:
触れることで、言葉にならない想いも伝わる気がします。亡くなった方に触れるのは日本では躊躇される方もいらっしゃるかもしれませんが、触れて、抱きしめて良いのだと思います。私の祖母の葬式で祖父が祖母の頭を何度も撫でていたことや、叔母が祖母を抱きしめて泣き崩れていたことは、心に深く残っています。葬儀が終わった後は葬儀社とご遺族の関わりも途絶えてしまうのでしょうか?その後のグリーフケアは誰が行えますか?

秋野:
弊社では一周忌に安らぎメールをお送りしています。その後はご遺族から七回忌のご相談などいただいて、関係が続く場合があります。納骨後は、お寺さんとご遺族の直接のやり取りになるので、お寺さんに色々とご相談されている方もいらっしゃるかと思います。

香西:
遺族会もありますが、まだまだグリーフケアの体制は不十分と言えますね。

おわりに

香西:
最後に、当院から葬儀社へお願いです。ご依頼するどの方も大切な患者さんです。ご遺族はとても深いかなしみの中にいて、葬儀社の対応外の相談も届くことがあると思いますが、それを突っぱねるのではなく、然るべき方につないでもらえたらと思います。

秋野:
承知しました。ご逝去の後はしっかりバトンを受け取り、万全のサポートをさせていただきます。クリニックと葬儀社が連携することで、逝去の前後で途切れることなく、患者さんとご家族のケアができ、不安を少しでも解消できると思います。なお、生前のご準備はなかなか難しいことは重々承知していますが、葬儀社を呼んだ際にどんなひとが来るかだけでも事前にわかると、ご遺族も安心されるかと思いますので、もし可能であれば事前にお目通りさせていただけますと幸いです。

編集:児玉紘一
執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳
対談日:2023年10月30日

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