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体験談 2023.10.30

体験談vol.1 石橋恵三子さんの長女さん、次女さん<後編>

体験談vol.1 石橋恵三子さんの長女さん、次女さん<後編>

・患者さんの病名:悪性リンパ腫、急性硬膜下血腫
・患者さんの年齢:82歳(享年)
・闘病期間:発症から逝去まで19日間
・訪問診療を受けた期間:11日間
・家族構成:ひとり暮らし。近隣に長女さん、次女さんご家族が在住
・インタビューに答えてくださる方:長女さん(会社員)、次女さん(会社員)
・インタビューの時期:逝去から約4ヶ月後

当時を振り返って考える「もし」

香西:
もし、コロナが流行していなくて、入院中も自由に面会ができたとしたら、在宅介護を選ばなかったのでしょうか?

次女さん:
うーん。それでも在宅を選んだ気がします。病院って治療するための場で、生活する場所ではないし、ケアのない時は病室に誰もきてくれないイメージがあって。それが当たり前なのですけど、それってちょっとさみしいですよね。

長女さん:
実は、父が5年前に大腸がんで病院で亡くなりました。当時は面会もでき、亡くなる前日も21時の面会時間ぎりぎりまで家族で面会に行っていました。妹とふたりで父の両手を両側から握っていて、もう時間だから帰るねって言った時に、父が強く手を握り返してきて私たちの顔をかわるがわる見たのです。その翌日早朝2時くらいに亡くなりました。亡くなる前に看護師さんに呼んでもらえたので、父の最期の瞬間に立ち会うことはできましたが、今思うと、父の時も在宅という選択肢があることを知っていたら、そうしただろうなと思います。

香西:
最期の時間を誰と一緒に過ごすかもとても大事ですが、一緒に過ごす場所がどこかも大事なことですね。恵三子さんに関することで、後悔していることや、こうしてあげられていたらと思うことはありますか?

次女さん:
お家に帰ってからのことは特に後悔はありません。コロナで面会ができなかった入院期間のことが、後悔というか、母はどういうふうに過ごしていたのだろうって思います。ひとりで心細くて泣いて過ごしていたんじゃないかと。あと、発症直前の旅行の間も、いつもより元気がないなぁとは感じていましたが、80歳をすぎて年齢のせいなのだろうって思ってそこまで深く考えていませんでした。もっと早くに病気に気づいてあげられたらよかったと思います。

香西:
入院の9日間は、どうしても病院で過ごさざるを得なかった期間だと思います。意識障害の原因を調べて、悪性リンパ腫という診断に至り、ステロイドでの治療を開始し、その後に残念ながら悪性リンパ腫による急性硬膜下血腫を発症してしまいました。その期間は精査のための入院が必須で、他の病院だったらもっと診断に時間を要していたのかもしれません。医師も病気が治せるものか、治せないものか判断するのに、ある程度経過をみる必要があります。お二人は、主治医からの病状説明のあとですぐに在宅を決意されていますし、これ以上入院期間を短くすることは難しかったでしょう。もし、もっと短い期間で十分な検査や治療を受けずに退院していたら、それはそれでもっと病院で治療していたら、という後悔が生まれたかもしれません。また、悪性リンパ腫などの血液のがんは、症状が出にくく、ゆっくり進行することも多いので、老いとの違いを見極めることは難しかったと思います。
医療従事者の対応はどうでしたか?もっとこうしてくれたら、というようなご要望はありますか?

長女さん:
看護師さんと医師が交互に午前午後で来てくれていたので安心でした。ただ、母が少しゼイゼイしたり、なにか変化があったりした時に、それが連絡すべき状態なのか、様子を見て良いのかの判断がつかない時がありました。こうなったら連絡するという基準があるとよかったな、と思います。

香西:
気になった時はとりあえず当院と訪問看護師にご連絡いただいて良いのですが、そうは言っても悩みますよね。具体的に、どのような基準やルールなどがあればよかったか教えていただけないでしょうか?

次女さん:
入院中はずっとベッドサイドモニター(心電図、血圧、SpO2、体温などのバイタルサインをリアルタイムで表示する医療機器)がついていましたが、お家にはそれがないことが最初の数日間は不安でした。最初の数日だけでもモニターがあったら良かったと思いました。手元にあるのはパルスオキシメーターだけで、それが話すことのできない母の状態を客観的に評価する唯一の指標でした。しかしながら、モニターもあったらよかったと思う一方で、あるとそれはそれでその変化に不安になるのだとは思います。

長女さん:
父の時がそうだったのですが、最期の時はモニターがピーっと鳴って、心電図の波形が真っ直ぐになって終わるものだと思っていたので、モニターがない場合にはどうやって最期に気づくのだろうと、知らないうちに亡くなっていたらどうしようと思いました。でも、今日かもしれないと先生に言われて見守っていると、最期の時がはっきりわかりました。パルスオキシメーターの数値がどんどん下がって、脈がだんだん弱くなり触れなくなって、母の旅立ちを実感しました。

香西:
緩和ケア病棟でもモニターを配置していないところが多いのですが、在宅でもモニターなどの数値よりも患者さんの変化を見てほしいという思いがあります。医師や看護師も状態を評価する時に一番重視するのは、第六感というと怪しいかもしれませんが、前回と比べてどうか、という見た目や肌で感じる変化です。とはいえ、そういったことに慣れないご家族が不安にならないための対策は必要ですね。すぐにいいアイデアは浮かびませんが、お二人と医療・介護者間の情報共有ツールとして活用していたMCS(Medical Care Station)は、動画を投稿できる機能がありますので、動画を撮っていただいてMCSのグループページに投稿していただくのも1つ手かもしれません。すぐに投稿に気づかない時もありますので、緊急時にはやはりお電話でご連絡いただきたいですが。他には何かありますか?

次女さん:
母の存命中に私も姉も不在になる日はなかったのですが、亡くなった翌週にどうしても調整できない日があり、その日をどうやって過ごそうと悩んでいました。看護師さんに2回来てもらえないか相談しようとは思っていたのですが、そういった時になにか良い方法はありますか?

香西:
医療保険・介護保険を利用した訪問看護には1回あたり最長で90分という時間制限があります。それを超えて滞在してもらう必要がある場合、まずは契約している訪問看護ステーションに自費で延長してもらえないかという相談をしてみるのが良いと思います。ステーションのルール上それが難しければ、自費専門でやっている訪問看護に依頼するという手段があります。一般には、頻回な医療行為が必要な患者さんが旅行やお出かけに行かれるときに利用されることが多く、費用は1時間あたり5000円〜1万円が相場です。

テスト

いまのお気持ちとこれから

香西:
恵三子さんがお亡くなりになった直後と現在(約4ヶ月後)の気持ちの変化があれば教えてください。

長女さん:
だんだん日常に戻っているなという気がします。母はもういないのだなと実感します。まだまだ寂しいですが。

香西:
いま恵三子さんの姿を考えるとどんな姿が浮かびますか?

次女さん:
やはり、元気だった時の姿が浮かびます。ケラケラ笑っているところ。母はよく笑うひとでした。いつもたくさんのひとに囲まれていて。母は発症する直前まで現役で働いていたので、仕事関係のひとも含めて300人以上の方にご会葬いただきました。

香西:
私がお会いした時には恵三子さんはお話ができない状態でしたが、飾られているお写真がどれも素敵な笑顔で、素敵な方だったのだな、お話したかったなと思います。
在宅介護・看取りに対して、今はどう思われていますか?

長女さん:
在宅介護という選択肢があることが世の中にもっと広まってほしいと思います。なんとなく知識としては知っていても、いざ自分がその当事者になると、主治医から提案されないと、その選択肢が自分達にもあることに気付けないものです。ひとりで介護するのは難しいけれど、ヘルパーさんや看護師さんも来てくれるので、思うより介護の肉体的な負担は少ないです。私は在宅看取りができて本当に良かったと、心から思います。

香西:
そう言っていただけて何よりです。私も選択肢の1つとして在宅介護がもっと広まれば良いなと思います。病院で勤務している医師のなかにも在宅で何ができて何ができないかを知らない方は多くいらっしゃいますし、訪問診療を行なっているクリニックにもそれぞれ得意不得意があります。病院ともっと連携を取り合って、「こういう患者さんですが在宅で対応できますか?」という相談を気軽にいただける関係性を築いていきたいと思います。
最後に、ご自身は在宅療養・看取りを希望されますか?

次女さん:
病気や状態にもよりますね。家族に迷惑をかけたくないという気持ちもあります。それに、完全にひとりだったら不安も大きいかもしれません。その時は施設かな。義母は夫に先立たれてから数年経っても夕方には泣いて過ごすような生活をしていたのですが、施設に入ってからはすごく生き生きとしていて。それを見ていると、施設もいいなと思います。

長女さん:
私も同じです。まだ自分のことは想像できないですけれど。

香西:
ありがとうございました。在宅介護・看取りを行われたご家族のご意見をお聞きする機会はなかなかないので、とても勉強になりました。今後もこのご縁を大切に、時々お話をお聞かせいただくお時間をいただけますと幸いです。

恵三子さんが倒れる直前まで作っていたコサージュ

恵三子さんが倒れる直前まで作っていたコサージュ

執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳
対談日:2023年某月

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