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コラム 2023.03.08

がんと共に歩む旅路3章
−病院での抗がん治療をやめた患者さん、ご家族の方へ−

3章 患者さんを支えるご家族の悩み

患者さんが病状の進行で落ち込んでいる時、家族はどう慰めたらいいですか?

誰に対しても有効な魔法の言葉はありません。また、気の利いたことを言ってどうにかなるものでもないし、極限状態で頑張れと言われて頑張れるひとは言われなくても頑張れています。慰め(例:これまで頑張ってきたから少し休もう)も、励まし(例:大丈夫だよ、気を取り直して)も、もしかしたら、その言葉が患者さんの負担になってしまうかもしれません。もちろん、嘘を言ったり(例:がんが良くなってきているみたいだよ)、偽りの希望を持たせたりする(例:この民間療法がすごく効くらしいよ)ことは、ただ苦しみを先延ばしにして、雪だるまのように大きくしているだけです。

では、どうしたらいいのかと言うと、やはり、「患者さんがどうしてほしいと思っているのかを考え続けること」そして、「そばにいて、一緒にかなしむこと」、「離れずに関係を保ち続けること」、「できるだけ生活のリズムを保つこと」が大事なのではないかと思います。

患者さんは答えの出ない苦しみの中にいます。それでも、これまで一緒に人生を歩んできたご家族の方や、患者さんと深い関係性のある方が寄り添って、対話していく中で、患者さん自身が何らかの方法で自分の気持ちに整理をつけるのを何度も見てきました。ひとは1人では生きられなくて、何か支えが必要で、でもよく言われる「人」の字のように2人で支え合えるかというと、1人のひとを支えるには1人では足りなくて、もっとたくさんのひとが必要だと思います。また、支えるひとを支えるひとも必要です。ご家族の方も、1人で患者さんを支えようとしないでください。一緒にどうしたらよいか考えていきましょう。

患者さんのつらそうな姿や変わっていく様子を見ているのがつらいです。

一番つらいのは患者さんだからと、患者さんの前では気丈に振る舞い、自分の時間や体調はそっちのけで、患者さんのために尽くされているご家族の方もたくさんいらっしゃると思います。何かできることはないか、とか、自分がこうすればよかったのではとか、今のことも過去のことも何度も何度も擦り切れそうなほど考えて、考え疲れてしまっていませんか?

少し、現実逃避をしてみてもいいと思います。昔の写真やビデオや、メールのやり取りや、患者さんからもらったプレゼントなんかを箪笥の奥から出してみて、今までどんな時間を患者さんと過ごしてきたか、ずっとずっと前の記憶にひたってみてください。瞼を閉じれば、患者さんの元気な姿、笑っている姿が浮かんでくると思います。

そして、目を開けて、今の患者さんにもう一度向き合ってみてください。本当に、今目の前にいる方は、変わってしまっていますか?姿形や、表面上のやり取りが変わってしまっていても、真の部分は変わっていないのではないですか?ふとした時に、ああ、やっぱりこのひとなのだな、と感じませんか?

患者さんは、あなたが今まで通りに接してくれることを望んでいると思います。知らないひとを見るような顔ではなく、悲しそうな表情ではなく、ずっと見せてきた眼差しを、言葉を、患者さんに向けてあげてください。

患者さんのお身体の状態のつらさは、私たちが何とかします。つらくなく過ごせるように全力で支えます。私たちにも、患者さんがどんな方なのか教えてください。思い出と今を共有して、これからを一緒に歩んでいきましょう。

これからどれくらい介護の負担があるのか不安です。家族としてどれくらいのことをすべきなのでしょうか?

家族だから介護するのが当たり前ではありません。家族と言えど関係性はそれぞれで、気持ちがついていかないのにいろいろやろうとしても、すぐに疲弊してしまいます。特に、「やらなければならない」と義務のように感じてしまうと、ただただ日々が辛くなってしまい、患者さんに対する気持ちも粗くなってしまうと思います。

例えば、患者さんはお家で過ごしたいというけれど、ご家族の方はずっと一緒だと心身の負担が大きすぎると感じるのであれば、月の半分はお家、半分は緩和ケア病棟やショートステイなどで過ごしてもらうのはどうですか?少し距離ができると気持ちの整理もでき、一緒に過ごす時に優しくなれるのではないかと思います。

また、当院には家族ケア外来もあり、患者さんの前では言いにくいご家族の悩みを外来でお聴きすることもできます。みんな違う人間だから、100%通じ合うということはあり得ないし、同じひとの中でもいろんな感情がひしめいていて、昨日と今日では気分も違うのが当たり前です。患者さんのお気持ちも、ご家族の方のお気持ちも大切に、一番良いこれからの過ごし方を考えていきましょう。

最後に 緩和ケア医からの一言

これまでいろんな方々の最期に立ち会ってきました。死に方と生き方は同じで、その方の個性がよく現れるものだなと思ったり、予想外の一面が出てきて人間の奥行きの深さに驚いたりします。ただ、傾向として、日本人は遠慮深くて、患者さんご自身がどうしたいかを考える前にご家族や周りの方の意見で決めてしまうことも多く、本当にそれでいいのかなぁと思い悩みます。「親のことを聞く子がいい子」とされる国で育ってきて、差し迫った状況で急に自分で決めるというのもなかなか難しいとは思いますが、それ以前に、選択肢がわからないこと、状態の変化についていけずゆっくり考えるだけの余裕がないこと、患者さんの悩みや不安に応える窓口が不足していることは、私たち医療者が解決すべき課題です。病院やクリニックを選ぶ際には利便性・アクセスが重要で、全国の患者さんのお役には立てないと思いますが、YouTubeやコラムで情報発信するなどの形でできるだけ門戸を広げていきたいと考えております。お困りの際には「むすび在宅クリニック」にご一報ください。

執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳

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