院長対談 2023.11.08
たーとす薬局 薬剤師 新井雄一朗
<写真右> むすび在宅クリニック 院長:香西友佳(こうざいゆか)
<写真左> たーとす薬局 代表/薬剤師:新井雄一朗
たーとす薬局の紹介:たーとす薬局は2014年に練馬区平和台に開設した調剤薬局で、2023年現在、練馬区に3店舗展開しています。外来調剤と在宅訪問業務を担い、練馬区のみならず、中野区、板橋区、豊島区の一部の居宅、施設等にもお薬をお届けしています。24時間365日の在宅対応と高い専門性を持ち、病院と変わらない安心をご自宅に届けることを理念に、より良い医療を追求し、患者さんの幸福につながる可能性があれば新しいことにも率先して挑戦していきます。
目次
二人の出会いについて
香西:
以前の勤務先で訪問診療を行っていた時に同じ患者さんを担当したのがきっかけです。それから立て続けに何名か一緒に受け持ちました。
新井:
でも、4ヶ月くらい電話とFAXのやり取りだけでしたよね。
香西:
在宅では同じ患者さんを担当しているにも関わらず、医療者・介護者同士が集う機会ってなかなかないですよね。別々の事業所ですし、時間をずらして患者さんのお宅を訪問しますから。でも、新井社長には会う前から魅了されていました。
新井:
えええ。僕、魅了しちゃいました?(笑)
香西:
たーとす薬局さんは、仕事がすごく早くて、しかも痒い所に手が届くというか、こちらの思惑が以心伝心で伝わるというか。末期がんの患者さんが苦しがっていて、どうしてもすぐ麻薬の注射剤が欲しいって時に、1時間で作って届けてくれた時は涙が出そうでした。
新井:
状況を的確に伝えていただいたので、僕も最優先事項と判断しました。
香西:
本当にいつも助けられています。一緒に在宅医療をする上で、意思疎通がスムーズにできて信頼できるチームで動けるというのは大事ですね。
訪問調剤(薬局の在宅訪問)の必要性
香西:
大前提として今は医薬分業が一般的ですから、病院・診療所が処方箋を発行して、患者さんが処方箋を持って薬局に薬を受け取りに行く、という流れになっています。しかし、訪問診療を希望される患者さんは、処方箋を渡されても薬局にいけない状況のことも多いです。また、認知症などで薬の自己管理ができないこともよくあります。同居のご家族がいれば、代理で薬局に行ったり、薬を管理したりしてくれることもありますが、独居の方や、ご高齢の夫婦だけでお住まいの方々も増えてきていますね。
新井:
まさに僕たちの出番ですね。訪問調剤は、ただ薬を配達する便利なサービスではなく、患者さんの家で患者さんと対面して、状態や症状などを確認した上で、医師の処方箋に沿って薬をお渡しします。患者さんに最良の薬を届けられるよう、状況次第では処方した医師に薬の変更の提案をすることもあります。
香西:
薬剤師さんが処方薬の投与量、相互作用に問題がないかWチェックをしてくれるだけでなく、実際に薬剤師さんも患者さんに話を詳しく聞いて、処方された薬が症状に見合っているかという点において助言がもらえるのは、非常に助かります。お恥ずかしい話ですが、医師が患者さんの意図を十分汲み取れていなかった、ということもあります。
新井:
薬局よりも在宅の方が患者さんとゆっくりお話できて僕は好きです。患者さんがご夫婦の馴れ初めとか、お仕事をされていた時のこととか話してくれることもあって、そういうの楽しいですね。
香西:
新井社長は患者さんを知ろうとする姿勢が前のめりで、すごく真摯だなと思います。患者さんは新井社長にすぐ心を開いてくれますよね。見習わないといけないです。
新井:
話がそれましたが、訪問調剤はただ配達するだけではなくて、患者さんへ最良の薬剤選択をするため、また患者さんのそばで処方薬を最大限生かすため、患者さんのお家に出向きます。さらに、薬を飲み忘れてないか、副作用は出てないか、残薬がどれくらいか、他のクリニックからもらった薬や市販薬の類似薬を重複して飲んでないか等もチェックします。
香西:
例えば鎮痛剤を処方しているのに全然痛みが取れないという時に、実は患者さんは薬の副作用を怖がって飲まずに捨てていた、なんてことがたまにあります。訪問調剤が入っていると、そういうことにも早く気づけますね。
訪問調剤の費用について
新井:
薬剤師の訪問にかかる費用は、介護保険と医療保険のどちらを使うか、定期の訪問か臨時かなどによって100円単位での差はあるのですが、自己負担1割の方で1回の訪問あたり500円程度です。3割なら1500円程度です。お薬代は訪問でも薬局受け取りの場合もほとんど同じです。一般の薬局は24時間営業しているところは少ないですが、在宅対応の薬局は夜間休日対応があります。また、在宅医療で使う薬剤は特殊なので、一般の薬局では在庫がない場合も多く、数日待つ可能性もあります。いい面がたくさんある薬剤師の在宅訪問ですが、ちゃんと対応してくれる在宅訪問に長けた薬局を選ぶことが前提です。
香西:
全ての患者さんに訪問調剤が必要なわけではないですが、状態次第では是非とも使いたい制度ですね。新井社長が患者さんだったらどうやっていい薬局を探しますか?
新井:
うーん、薬局の見極めは難しいので、医師の勧める所を選ぶと思います!
香西:
クリニックが薬局を斡旋するのはNGなので(笑)。でも、訪問医や訪問看護師さんに相談するのがいいと思います。クリニックも薬局も患者さんが選ぶ時代ですね。
在宅医療におけるクリニックと薬局の関係性
香西:
在宅医療におけるクリニックと薬局の関係はどうあるべきだと思いますか?
新井:
ズブズブの関係です。
香西:
新井社長!その言い方は語弊があるのでやめてください(笑)
新井:
真面目に言うと、患者さんの状態をお互いの立場から評価して、迅速に密に情報共有し、本音で相談が出来る関係であるべきだと思います。
香西:
その通りですね。在宅医療に関わる事業所がみんな歩みを揃えて、同じ目的を共有して、在宅介護・医療にあたることが重要です。どうしても、立場も違うし、バラバラのタイミングで患者さんに接することになるので、患者さん本人、ご家族、医師、看護師、薬剤師、介護職員、ケアマネージャー、それぞれで見えている世界が違うということが起こります。
新井:
でも、どの人が見ている世界も正解ですよね。
香西:
相手の見解を受け入れて、その上で方針を決めていかないといけない。みんなが自分の意見をそのまま患者さんに伝えてしまうと、ちょっとしたニュアンスの差で患者さんを混乱させてしまうこともあるので、随時情報共有し合って、意見の違いがあっても相手の立場を尊重できる関係性・共通認識で患者さんに接していくことが大事です。
新井:
そのための情報共有システムの導入は必須ですね。
香西:
医療業界の電話とFAXでのやり取りが主流という昭和な世界は早く終わらせたいですね。
現状の在宅医療の問題点
香西:
現状の在宅医療ではどんな問題がありますか?
新井:
ひとりひとりが提供する医療のクオリティ差。他職種と密な連携が取れていないこと。患者さんの情報の共有速度ですね。
香西:
訪問診療がきちんと制度として開始されたのは1986年。介護保険制度は2000年創設で以降3年ごとに見直されています。状況に応じてどんどん変わっていくことは大事ですが、現場が制度についていけておらず、結局、各事業所のがんばりに任されてしまっているというのが大きな問題ですね。
新井:
同じ病院に勤務していれば医師、薬剤師、看護師、医療相談員が同じ電子カルテを見て患者さんの状況を把握できますが、在宅ではそんな当たり前なことができません。悲しいです。
香西:
患者さんごとにチームのメンバーは変わるので、ただでさえコミュニケーションには慎重になります。それを円滑にするためにも、情報連携ツールの導入は今後の必須課題です。
10年後の日本の医療について
香西:
現状でもさまざまな問題がある在宅医療ですが、10年後はどうなっているでしょうか?
新井:
さらに高齢化が進み、在宅医療の受け皿が足りなくなります。
香西:
団塊の世代の方々が全て75歳となる2025年には、75歳以上の人口が全人口の約18%となり、2040年には65歳以上の人口が全人口の約35%となると推計されています。2065年には日本の総人口は9,000万人を割り込み、高齢化率は38%台の水準になると推計されています。しかし、訪問診療を行うクリニックの数は伸び悩んでいます。特に、看取りができる人材の数とクオリティを上げる必要があります。
新井:
クオリティを上げるのって難しいですよね。
香西:
できる人がただがむしゃらにやっていくのではなく、維持でき、後任を育てられる体制を作っていかないといけないですね。
今後やろうとしていること
香西:
まずはチーム作りですね。当院はまだ新参者ですから。内部も外部も、患者さんに関わる人同士がもっとお互いによく知り合って、患者さんから学びをいただいて、成長していかないといけません。在宅医療に関しての情報発信もしていきたいと思っています。
新井:
僕は病院と変わらない医療体制を在宅に広げていきたいです。今はそのために医療・介護の迅速な情報連携ツールを作っています。また、薬局、薬剤師のクオリティの向上を図っていきます。
香西:
たーとす薬局さんに置いて行かれないように、頑張ります!
編集:児玉紘一
執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳
対談日:2023年2月某日