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コラム 2023.03.06

がんと共に歩む旅路1章
−病院での抗がん治療をやめた患者さん、ご家族の方へ−

1章 患者さんを支えるご家族の悩み

抗がん治療ができないということは、もう助からないということでしょうか?

「抗がん治療ができない」という言葉の意味は、「抗がん治療をやるデメリットがメリットを上回ってしまった」ということです。抗がん治療の目的は、がんを治すこと、あるいは、がんの進行を遅らせることですが、がんが治ったとしても、体がボロボロで動けなくなってしまったら、それは理想からかけ離れてしまっていますよね。副作用が強すぎたり、病院に通う負担が大きくなりすぎたりして、抗がん治療が患者さんにとっていいものでなくなった時、医師はそう言います。それは、患者さんの余命とは別の話ですし、医師が匙を投げたわけでもありません。

治療をやめたら同じ病院にかかり続けることはできないのですか?

本来なら医師が患者さんの通院したいという希望を退けるのはありえないことです。ですが、がんは今や日本人の2人に1人が罹る病気で、がんの拠点病院はすべての患者さんを最期まで診るだけのキャパシティがありません。そのため、通院が負担になっている方や通院するメリットが乏しい方にはご自宅最寄りの医療機関を紹介したり、在宅医療を勧めるケースがあります。
他の理由として、医療が発展し、専門科・細分化しているせいで、治療の経験は豊富だけど終末期医療はあまり経験がないという医師も多くいます。そのため、終末期にはそれに長けた医師にバトンタッチすることがあります。本当は、どの医師も自分で最期まで患者さんを診たいと思っています。

これまで通院していた病院にかかれないなら、どこで診てもらえば良いのでしょうか?

どこも紹介されずにかかりつけの病院から放り出されることはまずありません。患者さんの状態次第で、いずれかの医療機関へ紹介されると思います。
その際には、主治医にこれからどういう過ごし方をしたいのかを伝えて、訪問診療を受けるのか、緩和ケア病棟に登録するのか、最寄りの医療機関へ通院するのか、一緒に決めていくのが良いと思います。

これからの生き方にはどんな選択肢がありますか?

抗がん治療を終えた=終末期ではありません。ピンピンしていて何の症状もない方もいらっしゃいます。ですので、その方の状態や予後、そしてその方のご希望次第で、無数の選択肢があります。まずは、ご自身がどこで、誰と、どのように過ごしたいのかを考えてみてください。

終末期を過ごす場所という意味では、在宅、緩和ケア病棟・ホスピス、その他の病院(一般病棟、療養型病院など)、施設(看取り対応の有料老人ホームや特別養護老人ホームなど)があります。

これからどんな症状が起きて、どうなっていくのでしょうか?

とても大事なことですが、個別性が大きい問題ですので、主治医に確認された方がよいです。

どんな症状が出るかは病名や体の状態によって十人十色ですが、よく起こるとしては、倦怠感、食欲不振、痛み、便秘、不眠、呼吸困難、悪心嘔吐、せん妄などがあります。
ただし、きちんと薬を調整したり、環境を整えれば、ほとんどの症状は緩和できます。なので、「死ぬ時には苦しい思いをしなければならない」と怖がる必要はありません。

残された時間はあとどれくらいですか?

抗がん治療を終えた=終末期ではありません。抗がん治療をせずに何年も過ごされている方もいらっしゃいますし、抗がん治療を終えた時には差し迫った時期の方もいらっしゃいます。
これからの過ごし方を考える上で、残された時間がどれくらいあるかは非常に大事なことなので、お聞きになりたいようでしたら、主治医に確認された方がよいです。

私の希望になりますが、もし最期はお家で、と少しでもお考えであれば、抗がん治療を終えるよりもっと前、何か症状が出て通院が少し大変になってきた頃には訪問診療を開始し、通院と併用していただきたいです。治療中にもいろいろとお困りのことがあると思いますので、訪問診療でその悩みをお聞きすることもできますし、在宅医としてその方に合った医療を提供するには、少しでも長く時間をかけて患者さんとの関係性を築きたいです。

これからのことを相談できる窓口はありますか?

がん拠点病院にはがんに関する相談の専門窓口がある場合が多いので、まずかかりつけ病院でご相談ください。もし、かかりつけ病院で相談することが難しい場合は、『これからの時間をどこで、誰と、どんなふうに過ごしたいか』を考えて、「どこで」の選択肢に少しでも「家」という可能性があるなら、近くの在宅医療を行っているクリニックを探して、訪問診療を依頼してください。これからの道のりには、積極的な治療を行っている時以上に複数の選択肢があり、ガイドしてくれる人が必須です。
訪問診療を行う医師のことを「在宅医」と呼びますが、在宅医は、診療を行うだけでなくこれからのことを一緒に考えるガイドの役割をします。病院の主治医にはいつでも電話して相談するというのは難しいと思いますが、在宅医療専門のクリニックでは電話での相談がしやすく、訪問時間や訪問回数の融通が効きます。

身の回りのことができなくなり、少しずつ元気がなくなってきました。どうしたら良いですか?

自分の体が思い通りに動かなくなり、変わっていくことを真っ先に自覚されるのは患者さんご自身です。とてもおつらいですよね。もちろん、一番の希望は元通りの生活が送れるようになることだと思います。私たちもそうできたらどんなにいいことかと思います。
今できることの中で、できる限りのことをやっていきたいと思いますので、まずお近くの医療機関に訪問診療を依頼してください。今後のことを、医療だけでなく、これからの過ごし方を一緒に考えていきましょう。その上で最終的に緩和ケア病棟・ホスピスに入られるのも、病院通院に戻られるのも1つの選択肢です。まずは、今の状態、特に家でどんなふうに生活されているかを確認し、現状に合った提案をする「在宅医」が必要だと思います。

抗がん治療が終わって、虚無感や無気力を感じます。何を希望にこれからの時間を過ごせばいいですか?

「今までは、どんなに副作用が苦しくても抗がん治療を続けることでなんとか平静を保っていたが、抗がん治療をやめると、病気が進行するのではとか、病気に負けてしまうのではないかという不安感で押し潰されそうだ」
「体力も気力も落ちて、もう何もやる気が起きない」
「弱っていく自分が家族に迷惑をかけるのが申し訳ない。家族にそんな姿を見せたくない」
「いっそ、早く終わりにしたい」

こういったお気持ちを、抗がん治療を中止した直後の患者さんからお聞きすることがあります。今まで懸命に抗がん治療を頑張ってきたからこそ、ショックも大きいのだとお察しします。無理に気丈に振る舞う必要はありません。あなたの大切な方々は、あなたが我慢したり、申し訳なく思うことの方がつらいと感じます。

受け止めるには時間が必要です。そして、受け入れることが正解でもありません。

今までのあなたの人生で、大きな壁にぶち当たったことやひどい挫折を味わったことは、きっと何度かあったのではないでしょうか。今直面しているものはそれよりも大きなものだと思いますが、それでも、今までの人生であなたがどうやって困難を乗り越えてきたかが、この問題に対峙する大きなヒントになります。

また、今までやってきたことに1つも無駄なことはありません。これまで抗がん治療を頑張ってきたからこそ、今があります。頑張ってきたご自身を誇りに思ってください。
お体の不調は私たちがなんとか緩和します。快適に過ごせるよう、身の回りの環境やサービスを整えます。ご家族の方も、私たちが支えます。あなたは、あなたのことだけを考えてください。お話ししたくなった時は、いつでもお聴きします。

執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳

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