コラム 2026.10.01
訪問診療・訪問看護・訪問介護の違いと役割

目次
このコラムの紹介
在宅療養を始めるとき、「医師・看護師・介護職にはそれぞれ何を頼めるのか」「なぜ複数の事業所と契約するのか」と戸惑う方は少なくありません。病院では一つに見えていた医療と生活支援も、ご自宅では専門職ごとに役割を分けて連携します。本記事では、それぞれの役割と契約が分かれる理由を整理します。すべてのサービスを利用する必要はなく、患者さんの状態や生活、ご本人・ご家族の希望に応じて必要な支援を組み合わせます。
なぜ複数の事業所と契約する必要があるのか
病院では医療の相談窓口が院内に集約されていますが、在宅療養では、診療所、訪問看護ステーション、訪問介護事業所、居宅介護支援事業所、薬局などが、それぞれの役割と契約に基づいて支援します。
複数に分かれるのは、患者さんの近くで動ける体制と、必要な専門性の両方を確保するためです。
患者さんの近くで動ける体制をつくるため
一つの大きな拠点から広い地域へ訪問すると、自宅までの距離が長くなり、渋滞や天候の影響も受けやすくなります。在宅療養では、定期訪問に加えて、転倒、発熱、息苦しさ、医療機器のトラブルなど、予定外の変化に対応する機動力も重要です。そのため、地域ごとに小さな拠点があり、診療所、訪問看護ステーション、訪問介護事業所、薬局などが連携します。
なお、訪問診療は、診療報酬上、医療機関の所在地から患者さんのご自宅等までが原則として半径16km以内とされています。半径16kmを超える場合も、その医療機関による診療を必要とする「絶対的な理由」があれば、例外的に認められます。
訪問看護や訪問介護などには全国一律の距離制限はなく、事業所ごとに通常の訪問地域を定めています。契約前に、訪問可能な地域や地域外の交通費をご確認ください。
状態や希望に合うチームを組むため
必要な支援は、病気や状態、生活環境、本人やご家族の希望によって異なります。認知症の独居高齢者と、痛みや医療処置が必要ながん患者さんとでは、適した支援内容や専門職の組み合わせも変わります。
所属を一つにそろえることよりも、その方に必要な専門性を持つ人が同じ方針で動けることが大切です。
制度と責任の範囲が異なるため
訪問診療、訪問看護、訪問介護、居宅介護支援は、必要な資格、事業所の指定、作成する計画、利用する保険制度が異なる別々のサービスです。契約を分けることで、サービス内容、費用、提供時間、個人情報の取扱い、責任の範囲が明確になります。
同じ法人でも契約が別になることがあります
同じ法人や建物に複数のサービスがそろっていても、制度上は別の事業として扱われるため、説明や契約が分かれることがあります。一方で、別々の事業所であっても、情報を共有し、同じ療養方針に沿って支援することはできます。
療養開始時に分かりにくい点があれば、ケアマネジャーや各事業所へ遠慮なく確認してください。
在宅療養に関わる人とサービス
在宅療養に関わる主な事業所・担当者・サービスと、その役割を一覧で整理します。
主な役割の違い

訪問診療と往診は別のものです
訪問診療は、通院が難しい方に対して、医師が計画的・定期的に自宅を訪問する診療です。
予定外に病状が変化し、患者さんやご家族の求めに応じて医師が訪問することは、診療報酬上は一般に「往診」と呼ばれます。日常会話で定期的に予定された診療を「往診」と呼ぶ方もいますが、定義及び診療報酬においては定期訪問と予定外の往診は区別されます。
診療所に同行する看護師と訪問看護師は別の役割です
診療所の看護師は、医師と一緒に訪問して診察や処置を補助する診療所スタッフです。
訪問看護師は、訪問看護ステーション等から別の予定で訪問し、主治医の指示書と訪問看護計画に基づいて継続的な観察やケアを行います。医師の訪問に看護師が同行していても、それだけで訪問看護を利用していることにはなりません。
診察のない日に継続的な観察やケアを受けるには、訪問看護を別に利用します。
医師と訪問看護師と介護職にできること
医師は医学的な判断と治療方針、訪問看護師は状態を評価しながら行う医療的ケア、介護職は日常生活の支援を中心に担います。代表的な場面を整理します。
※以下は一般的な整理です。患者さんの状態、医師の指示、ケアプラン、研修の有無、事業所の方針によって実施できる範囲は異なります。
医療判断・処置に関する役割分担

日常生活の支援に関する役割分担

介護職による服薬と坐薬の介助には条件があります
介護職が医薬品に一切触れられないわけではありません。状態が安定し、専門的な管理が不要であることを医療職が確認し、本人・家族の具体的な依頼、専門職の指導、事業所の手順などが整っていれば、一包化された内服薬、坐薬、点眼、一定の外用薬などを介助できる場合があります。
病状が不安定な場合や、使用後に専門的な観察が必要な場合は、看護師等が行います。
実施の可否は、主治医、訪問看護師、ケアマネジャー、訪問介護事業所で事前に確認してください。
よくある質問
Q. 訪問診療を利用するなら訪問看護も必ず必要ですか
必ずではありません。病状が安定し、医療処置や継続的な観察が不要な方では、訪問診療だけで支えられることもあります。
一方、症状が変わりやすい方、医療処置がある方、終末期の方、ご家族の不安が強い場合は、訪問看護を組み合わせることで、診察のない日も状態を確認してもらいやすくなります。
Q. 訪問看護と訪問介護はどちらか一方ではだめですか
必要な支援によります。病状観察や医療処置が中心なら訪問看護、食事・排泄・入浴など日常生活の介助が中心なら訪問介護が適しています。両方が必要な方も多く、それぞれの役割が生きるように曜日や時間を組みます。
まとめ 必要な支援を組み合わせる
訪問診療、訪問看護、訪問介護は、役割も契約も異なるサービスです。大切なのは、必要な専門職が同じ方針を共有し、それぞれの役割を果たすことです。複数の事業所が関わっていても、情報がつながっていれば、支援は一つのチームとして機能します。
むすび在宅クリニックでは、訪問看護ステーション、ケアマネジャー、訪問介護事業所などと情報を共有しながら、患者さんの病状とご家族の生活に合う支援体制を一緒に考えています。どのサービスが必要か分からない段階でも、どうぞご相談ください。
参考資料
厚生労働省「訪問診療・往診等における距離要件について」
e-Gov法令検索「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準」
e-Gov法令検索「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」
e-Gov法令検索「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準」
厚生労働省「原則として医行為ではない行為について」
執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳