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コラム 2026.07.31

がんの痛みと医療用麻薬<後編>

携帯型精密輸液ポンプを持つ位女性看護師

このコラムの紹介

薬を飲むのが難しくなったり、痛みが急に強くなったりすると、「もう家では痛みを和らげられないのでは」と心配になることがあります。しかし、薬には飲み薬だけでなく、貼り薬、口腔粘膜から吸収する薬、坐剤、注射薬などがあり、どの薬剤も病院でないと使用できないものではありません。後編では、代表的な医療用麻薬と主な商品名、薬の届け方、自宅で使える携帯型精密輸液ポンプ、医療用麻薬以外の治療、痛みが十分に和らがらない時の対処法、病院・診療所への連絡の目安を解説します。痛みを和らげることで自宅でいい時間を過ごせるようにしていきましょう。

はじめに

前編では、がんの痛みの原因、医療用麻薬(オピオイド鎮痛薬)への不安、定時薬とレスキューの使い方をお伝えしました。ここからは、薬の種類や投与経路を、その時の体の状態と生活に合わせてどう変えていくかを考えます。飲めなくなることや、注射が必要になることは、「もう家では無理」という意味ではありません。薬を変えることで、会話をする、少し食べる、家の中を移動するといった時間を維持できる場合もあります。

薬の種類と届け方は、痛みと暮らしに合わせて選びます

医療用麻薬(オピオイド鎮痛薬)にはいくつかの種類があり、同じ薬でも飲み薬、貼り薬、注射薬など、投与経路が異なるものがあります。薬によって、効き始めるまでの時間、効果の持続時間、腎機能などへの影響、副作用が異なります。そのため、痛みの性質や体の状態、生活に合うものを選びます。どれか一つが「最も強い」「最もよい」ということではありません。薬の選択や切り替えは、医師が効果と副作用を確認しながら行います。

代表的な医療用麻薬(オピオイド鎮痛薬)

がんの痛みと医療用麻薬の表1

薬を届ける方法にも、いくつかの選択肢があります

がんの痛みと医療用麻薬の表2

注射薬は、「飲めなくなった最期の時だけ」に使うものではありません

次のような場面では、飲み薬よりも注射薬の方が、痛みの速さや生活に合うことがあります。
・飲み込むことが難しい、吐いてしまう、意識が低下している
・腸閉塞や消化管の動きの低下などで、内服薬の吸収が安定しない
・短時間で急激に強くなる突出痛があり、飲み薬や口腔粘膜吸収剤の効果を待つことが難しい
・起き上がる時に強い痛みがあり、薬を取り出して飲む動作そのものが負担になる
・痛みの変化が大きく、短い間隔で投与量を調整したい
・決まった時間に定時薬を飲むことが難しく、持続投与の方が安定した効果を期待できる
在宅では、皮膚の下へ細い針を入れる「持続皮下注」を用いることがあります。血管を確保し続ける必要がなく、薬を少量ずつ持続的に投与できます。すでに中心静脈カテーテルがある場合や、薬剤・病状によっては静脈から投与します。
注射へ変更することは、「もう会話できなくなる」「最期が近い」という意味ではありません。飲み込みや吸収の状態、痛みの変化に合わせて、薬を届ける道を変えるということです。

携帯型精密輸液ポンプを使い、自宅で持続注射を行うこともできます

注射薬を一定の速度で投与するために、携帯型精密輸液ポンプを使うことがあります。CADD(キャド)は、この機器の製品名の一つです。当院でも、必要に応じて使用しています。

携帯型精密輸液ポンプ

薬液の入ったカセットやバッグとチューブを接続し、皮下または静脈から薬を投与します。医療者が、1時間あたりの持続量、追加投与の1回量、追加できる間隔などを設定します。患者さんやご家族が機器の設定を変更することはありません。

痛い時に追加できるPCA機能

機器によっては、痛みが強い時にボタンを押し、あらかじめ設定された量を追加できる「PCA」という機能があります。追加量と、次に追加できるまでの時間が設定されているため、設定を超えて薬が入らない仕組みです。
誰がボタンを押すかは、患者さんの状態や機器の設定を踏まえ、あらかじめ医療者と確認します。ご家族が自己判断で代わりに押すことはせず、説明された方法に従ってください。

【専用ポーチに入れた状態】携帯型精密輸液ポンプを専用ポーチに入れた状態小型で持ち運びができ、状態に応じてベッド上だけでなく、室内を移動しながら使用できます。

機械を使うと、眠ったままになりますか?

携帯型精密輸液ポンプは、薬を一定量ずつ届けるための機械です。使うこと自体が「眠らせる治療」を意味するわけではありません。
会話をしたい、少し食べたい、トイレへ行きたい。そうした希望がある時には、できるだけ意識を保ちながら痛みを減らす方法を考えます。どうしても和らげることが難しい苦痛に対して鎮静を検討することはありますが、医療用麻薬の持続投与とは目的も判断も異なる治療です。

医療用麻薬以外の方法も組み合わせます

痛みが強い時に、医療用麻薬だけを増やし続ければよいとは限りません。痛みの原因や性質に合わせて、薬と薬以外の方法を組み合わせます。
がんの痛みと医療用麻薬の表3痛みは、体の変化だけでなく、不安、眠れないこと、これからへの怖さによって重く感じることもあります。病状や薬を分かりやすく説明すること、気持ちを聞くこと、夜間の相談方法を決めておくことも、痛みを支える一部です。
どの方法がよいかは、痛みの原因だけでなく、その方が何を続けたいかによっても変わります。体を動かしたいのか、眠りたいのか、治療のために通院したいのか。目標を共有しながら、必要な方法を選びます。

痛みが十分に和らがらない時に見直すこと

「薬を使っているのに痛い」という時には、すぐに「もう仕方がない」と考えるのではなく、次の点を順に見直します。

新しい原因が加わっていないか

骨転移や病的骨折、神経の圧迫、便秘、尿閉、褥瘡、感染症など、これまでと異なる原因がないかを確認します。

薬が体へ十分に届いているか

嘔吐、嚥下困難、腸閉塞、消化管の動きの低下などで、内服薬が十分に吸収されていない場合があります。薬の形や投与経路を見直します。

定時薬とレスキューが、痛みの速さに合っているか

レスキューが効いてもすぐ痛みが戻る時は定時薬の量や種類を、痛みの立ち上がりが速すぎる時はレスキューの剤形や投与経路を見直します。

副作用のために、必要な量を使えなくなっていないか

便秘、吐き気、眠気への対策を行い、必要に応じて薬の量や種類を変更します。痛みを我慢するか、副作用を我慢するかの二択にしないことが大切です。

別の医療用麻薬や、薬以外の治療が必要ではないか

効果が不十分な時や副作用が強い時には、別の医療用麻薬へ切り替える「オピオイドスイッチング」を検討します。放射線治療、神経ブロック、整形外科的治療などが必要な時には、病院と連携します。
「もう使える薬がない」と決めつける前に、原因、薬の届き方、剤形、副作用、生活環境を一つずつ見直すことで、次の方法が見つかることがあります。

次の訪問を待たずに連絡していただきたい時

在宅療養では、ご家族が薬の調整をすべて判断する必要はありません。ご家族にお願いしたいのは、変化に気づいた時に、そのまま伝えていただくことです。

痛みや病状の変化

・説明された方法でレスキューを使っても、痛みが十分に和らがない
・レスキューの回数が急に増えた、効くまでに時間がかかる、効く時間が短くなった
・これまでと違う痛み、突然の非常に強い痛みが出た
・急な背中の痛みに、足の力が入りにくい、しびれ、排尿・排便の変化を伴う
・骨の痛みが急に強まり、立てない、体重をかけられない
・強い腹痛、腹部膨満、繰り返す嘔吐がある

薬の使用や副作用に関する変化

・薬を飲み込めない、吐いてしまい内服できない
・強い眠気が続く、呼びかけても目を覚ましにくい
・呼吸が明らかに浅い、遅い、いつもと違う

携帯型精密輸液ポンプのトラブル

・アラームが鳴る、チューブが外れた、薬液が漏れている
・針を入れている部分に、強い痛み、腫れ、赤み、液漏れがある

むすび在宅クリニックが大切にしていること

痛みがあると、目の前の一日が痛みだけで埋まってしまうことがあります。夜に眠ること、食卓に少し座ること、好きなテレビを見ること、家族と話すこと。外から見れば小さく見える時間も、その方にとっては守りたい大切な生活です。
病状が変われば、昨日まで合っていた薬が合わなくなることもあります。飲めなくなることも、急に痛みが強くなることもあります。それは、痛みを和らげる方法がなくなったという意味ではありません。その時の体と暮らしに合わせて、薬の種類や投与経路、支える体制を変えていくことができます。
痛みを和らげながら、患者さんが過ごしたい場所で、できる限りやりたいことをやれる時間を確保できるように支えます。「まだ我慢できるから」と、ぎりぎりまで耐えなくて大丈夫です。痛みが少し変わった時、その小さな変化から一緒に考えさせてください。

執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳

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