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院長対談 2026.02.27

院長対談 グループホーム板橋 管理者 井之上陽子<前編>

院長対談 グループホーム板橋 管理者 井之上陽子<前編>

医療法人社団むすび 理事長:香西友佳(こうざいゆか)
グループホーム板橋 管理者:井之上陽子(いのうえようこ)

グループホーム板橋は、ケアホーム板橋という複合型老人施設の一角にあります。グループホームは認知症のある方々が、プライバシーが尊重されながらも10人単位の家庭的な雰囲気の中で、他の利用者さんと一緒に楽しく過ごしていただけます。「優しさと思いやりの心」を施設理念として、スタッフのサポートを受けながら充実した生活を過ごしていただけるよう支援いたします。
公式サイト→https://itabashi.tokuyou.jp

女性2人の対談風景

ふたりの出会いと第一印象

香西:
むすび在宅クリニック院長の香西です。普段なかなか井之上さんとゆっくりお話しする機会がないので、対談の機会をいただけて嬉しいです。よろしくお願いいたします。

井之上:
緊張するのであんちょこを作ってきました(笑)グループホーム板橋の管理者で介護福祉士の井之上です。よろしくお願いいたします。

香西:
井之上さんとは3ヶ月前に出会いました。グループホーム板橋に入居していたFさんが尿路感染症で病院に入院し、治療が難しい状態でしたが、最期は住み慣れたグループホーム板橋で過ごしたいと、退院することになりました。Fさんのご家族から当院に訪問診療の依頼があり、亡くなるまでの約1ヶ月、当院で診療を行いました。そんな出会いでしたが、私の第一印象ってどんな感じでしたでしょうか?

井之上:
すごくテキパキと指示していただけるので、すぐに信頼を置いた印象があります。香西先生だったら、安心して施設の利用者さんのことを任せられるなと感じたのを覚えています。

香西:
ありがとうございます。当院とグループホーム板橋は最寄駅が同じ小竹向原駅で、車で3分ほどの距離にあります。患者さんを通してご縁があり、実際に中に入ってみて、私が将来入りたいと思うくらい素晴らしい施設だなと思いました。あちこちのグループホームに行きましたが、なかなかここまで素敵なケアをされているところってないです。

グレーの服を着た女性

グループホーム板橋の魅力

井之上:
香西先生が将来入りたいと思うくらい良いと感じていただいたのは、どういう点ですか?スタッフのモチベーションのためにもぜひ教えてください。

香西:
まず、どのスタッフにどの利用者さんのその日の体調や食事量や排便状況などを聞いても、すごく詳しく教えてくださるんです。利用者さんのことを本当によくみてくださっているんだなって伝わります。かつ、ただ単にこなすみたいな感じで仕事をするんじゃなくて、スタッフの方々が愛情を持って利用者さんに接しているというのも感じます。私がもともと在宅で診ていた患者さんもこちらに入所されたのですが、こちらに来てからすごく元気になって、表情が生き生きと変わりました。丁寧にケアされているっていうのが患者さんの変化を通してすごくわかりました。なので、いまは施設に入らなきゃいけない状態の認知症の患者さんがいたら、全員にこちらを紹介している現状です。
介護士さんってかなり多忙じゃないですか。忙しすぎて心が荒んでしまっている介護士さんもよくお見かけするのですが、こちらでは多忙なはずなのにスタッフの方々が生き生きと働かれているようで、利用者さんも生き生き過ごせるというのは、どういった循環で成り立っているのでしょうか?

井之上:
よく話すというのが大事なポイントかなと思います。うちの職員はとにかく細かいことでもなんでも、よく共有しています。私が把握しきれないくらい、職員間で利用者さんのことを話し合っていますし、情報共有だけでなく、コミュニケーションとして会話がすごく多いです。グループホームは利用者さんひとりひとりの個別ケアを重視していて、利用者さんのちょっとした変化に職員が気づきやすいんです。だから、みんな変化に気づくと共有したくなって、記録に書くだけじゃなく、ミーティングの時間を設けなくても、自然と「昨日の夜にこんなことがあってね」って話題に出ちゃうし、日勤帯で出勤した職員も自ら「昨日の夜どうだった?」って確認しています。

香西:
特にミーティングの時間がなくても、自然と共有することが習慣化されているのは組織として素晴らしいですね。見習いたいです。その根底には、利用者さんに対する人間的な興味とか、親しみ、愛情があるのだと感じます。

井之上:
そうだといいなと思います。でも、まだまだ私としてはもっと上を目指したいので、課題はたくさんあります。

香西:
情報共有する上で、自然発生的なコミュニケーションを大事にする以外に、工夫されていることはありますか?

井之上:
「ほのぼのNEXT」という記録アプリを導入していて、利用者さんの経過は基本的にそれに入力してスタッフで共有しています。グラフとか表のほうがわかりやすい内容はノートで共有しています。そして、なにかスタッフだけで解決できないような問題が起きたときは私にすぐ連絡が来ます。休み明けに出勤したときは、いろんなスタッフに追いかけられますね(笑)「こういうことがあった」「確認したいんですけど」というふうに言われることを、忙しくてもきちんと聞くよう心がけています。

香西:
井之上さんのレスポンスが早くて、聞き流すことがなくて、伝えたらなんとかしてくれるとみんなが思っているから、みなさんが何でも井之上さんに言えるんでしょうね。スタッフの自主性と統率の両方がうまく組み合わさっていると思います。

井之上:
職員間で仲がいいのは利用者さんもご家族も感じ取っていただいているようで、「職員さんみんな仲良さそうね」と言っていただくこともあります。まぁ、人間ですから、それぞれ抱えていることはあるかもしれないですが。

香西:
もし、やり方が違うなっていうスタッフが入職されたときは、どのように教育されているんですか?

井之上:
それは本当に難しいですね。でも、基本的には経験者でも一旦今までのやり方をリセットしていただいて、うちのやり方を習得してもらうようにしています。初めからひとりにさせることはなく、教えるのが得意な職員をOJT指導者として付けて、随時進捗を聞くようにしています。教える内容に差がないよう、指導者側同士もよく話し合っていますね。私ひとりでできることは少ないので、教育は信頼できる職員に任せちゃっているところもあります。

女性医師が横を向いて話している風景

井之上さんの経歴と、グループホームの利用者さんに対する想い

香西:
井之上さんの経歴についてお聞きしてもよいでしょうか?

井之上:
私は福祉系の大学を卒業後、初めは特別養護老人ホームで5年働きました。介護を基礎の基礎から教えてもらい、みっちりしごかれました。それから別のグループホームに4年いて、そのあとは家庭の事情などで夜勤ができない期間があり、日勤帯だけの業務のデイサービスで数年働き、その後に今の法人に入職しました。特養、グループホーム、デイサービスで働いてきて、やっぱりグループホームが好きで、認知症の方に携われるところで働きたいという思いが強く、グループホームで働くためにこの会社に入りました。でも、実は入職して半年くらいでショートステイに異動を命じられ、それから5年くらいそちらで働き、1年前に縁あってグループホームに管理者として戻ってきました。グループホーム板橋は開設の時に半年関わっていて、その時に入居された利用者さんたちの中にはいまも元気で過ごされている方もいて、戻ってきた時には感慨深いものがありました。

香西:
井之上さんをそんなに惹きつけている、グループホームの魅力とはどんなものでしょうか?

井之上:
特養と比較しての違いは、個別対応に使える時間の長さです。個別対応とは、利用者さんひとりひとりの個性やニーズに合わせたケアのことで、1対1で関わり、向き合って支援ができるということが、私にとって魅力です。認知症になってもできることはたくさんありますし、自分らしさを忘れずに、残りの人生を過ごしていただきたいと考えていて、そのお手伝いができるから、私はグループホームが好きです。どの現場でも認知症の利用者さんはいらっしゃいますが、グループホームでは比較的お元気な状態から入所される方が多いので、何年もの長い間お付き合いができるというのも嬉しいです。

話をする女性とそれを聴く女性の後ろ姿

香西:
これまでグループホームで出会った利用者さんの中で、特に心に残っている方はいらっしゃいますか?

井之上:
たくさんいらっしゃいます。最近だと、香西先生と一緒に関わらせていただいたFさんのことがすごく印象に残っています。亡くなられて2か月経ったいまでも職員同士でFさんの話をします。遠く離れた関西の地元からご家族の住む地域の施設に急遽入所することになり、入所当初より混乱も多く、関わる時間も長かったですし、「家に帰りたい」と落ち着かなくなって大変だった時期も、いろんなトラブルを一緒に乗り越えてきて、Fさんも私たちを信頼して素直に頼ってくださるようになって、そして最期まで見送ったからですね。最期まで関わらせていただいたことに感謝しています。いまは心にぽっかり穴が開いた感じがします。

香西:
井之上さんは、Fさんの方言まで覚えていて、すごいなと思いました。どうやって勉強されたんですか?

井之上:
ノリです(笑)Fさんに関わっていた職員は全員エセ関西弁が話せます(笑)ご家族からも「関西の方ですか?」って聞かれたこともありました。みんな、Fさんの人生の一部になりたい、Fさんのなかでちゃんと存在するひとりの人になりたいと思っていて、だから、Fさんに受け入れてもらうために、関西弁を一生懸命喋っていました。家族になりたいっていう気持ちで関わっています。

香西:
家族になりたいと思ってくれているひとにケアされる利用者さんは幸せだろうなと思います。

井之上:
グループホームという、いままでと違う環境に来られて、いままで通りにはいかないこともたくさんあるけれど、利用者さんから見て「あなたはいつも私のことを気にかけてくれているよね」って思っていただけるようなひとでありたい。誰かわからない職員のひとりではなくて、名前は覚えられなくても、顔を見ればわかるくらいには認識されているひとでありたい、と思っています。

香西:
実際、Fさんも重度の認知症で、ここがどこだかわからないような状態でしたが、井之上さんのことは認識されていましたもんね。井之上さんがそばに来るとFさんが落ち着いていましたし。素晴らしい信頼関係だなと思います。井之上さんにとってグループホームというのはどういう場所ですか?

井之上:
1つのユニット(利用者さんの個室とデイルーム、キッチン等で構成される生活空間のこと)あたり9人が定員なのですが、9人でひとつの家族だと思っています。いろんな利用者さんがいて、社交的な方はすぐに輪に入って溶け込みますが、そうじゃない方ももちろんいて、人見知りだったり、マイペースだったり、パーソナルスペースは絶対に侵されたくないっていう方も入居されることもあるんですね。私はそこも大事にしたいと思っています。ただ、孤独ではいてほしくないです。自分のペース、空間、時間は大切に過ごしていただきたいですし、そこは邪魔したくないという思いもあるのですが、それでも「あなたはひとりではない。孤独ではないんですよ」というのを利用者さんが感じてもらえる場所でありたいです。誰でもいい、私でなくてもいいので、仲のよいお友達のような利用者さんや、お気に入りの職員を見つけていただいて、その人には少し心を開けるような関係性が作れるといいなと思います。せっかくグループホームに入ったからには、ひとり暮らしの時に感じていた不安や寂しさをなくして、「ここにいれば安心だ」と思っていただける空間でありたいなと思います。それがグループホーム板橋です。

香西:
他のところだと、利用者さんが全員デイルームで座っているけれど、みんなばらばらな方向を向いていて、視線も合わせず、友達じゃない、つまらなそうにしているっていうところも見かけます。グループホーム板橋では、自室で過ごしている方も、デイルームにいる方もいるけれど、みんながほかの方を気にかけている感じがします。それぞれのひとの個性を大切にしながら、みんなつながっているという関係性の築き方が素敵だと思います。
Fさんが亡くなられたとき、出棺の際には同じユニットの利用者さんたちがみんな並んで「さようなら」って見送り、館内放送も流れて、出口のところでもたくさんのスタッフの方々やセラピー犬のはるくんまで立ち会ってくださっていたのがとても印象的でした。病院ですら、死はタブーのように扱われるけれど、グループホーム板橋ではそれが自然な形で受け入れられていて、認知症の利用者さんにも隠さないところが、家族だなぁと感じました。

女性医師の対談風景

編集:児玉紘一
執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳
対談日:2026年1月29日

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