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コラム 2026.08.28

緩和ケア・終末期医療・延命治療の違い

ベッドで寝ている高齢の患者さんに手を添えて安心させる家族

このコラムの紹介

緩和ケア、終末期医療、延命治療は、どれか一つを選ぶ対立した選択肢ではありません。同じ点滴や抗菌薬でも、病状や目的によって、回復を目指す治療にも、苦痛を和らげる治療にもなります。本記事では、三つの言葉の違いと重なりをわかりやすく説明し、「延命治療をする・しない」の二択ではなく、自分に合う医療を考えるための視点をお伝えします。治療の効果と負担を確認する方法や、「治せない」と言われた後にも続けられる医療についても解説します。

はじめに

「延命治療は希望しません」と聞くと、その方の望みがわかったように感じるかもしれません。しかし、同じ言葉でも、希望する内容は一人ひとり異なります。意識が戻らないまま人工呼吸器につながれることは望まないが、肺炎を治して家へ戻れる可能性があるなら、抗菌薬や点滴は受けたい、という方もいます。反対に、命が延びる可能性があっても、入院や身体への負担が大きい処置より、自宅で穏やかに過ごすことを優先したい方もいます。
大切なのは、治療名を一括して選ぶことではなく、その言葉の背景にある願いを確かめることです。少しでも長く生きたい、家族と会話できる時間を守りたい、自宅で過ごしたい、苦痛を少なくしたい。何を優先するかで、選ぶ医療は変わります。「延命治療は希望しない」という一言を、そのまま「何もしない方針」と受け取ることはできません。

緩和ケア・終末期医療・延命治療の違い

まず、三つの言葉が示す主な目的と、医療・ケアを行う時期を比べてみましょう。
緩和ケア・終末期医療・延命治療の違いの表なお、BSC(Best Supportive Care)は、症状を和らげ生活の質を支える医療を意味します。積極的治療の中止や「何もしないこと」と同義ではありません。

「延命治療」は、治療名だけでは決まりません

一般に「延命治療」と呼ばれるものには、人工呼吸器、透析、昇圧薬、輸血、抗菌薬、人工的な水分・栄養補給、心肺蘇生などがあります。しかし、処置名だけで延命治療かどうかは決まりません。目的、回復の見込み、身体への負担、望む生活へ戻れる可能性を合わせて考えます。

抗菌薬の場合

肺炎に対する抗菌薬で呼吸が楽になる可能性があるなら、回復と苦痛の軽減の両方を目指す治療といえます。一方、回復がほとんど見込めず、多臓器不全が進んでいる時には、抗菌薬を続けても利益が乏しく、治療に伴う負担が上回ることがあります。

点滴の場合

脱水がせん妄やだるさ、循環不全の一因と考えられる時は、少量の点滴を一定期間試すことで症状が和らぐ可能性があります。しかし、人生の最終段階では、点滴がむくみ、痰、胸水や腹水を増やし、かえって苦しさにつながることもあります。口の渇きには、点滴よりも丁寧な口腔ケアが役立つ場合があります。

緩和ケアは、病気を治す治療と並行できます

WHO(世界保健機関)は、緩和ケアを、命を肯定し、死を自然な過程として捉え、死を早めることも遅らせることも意図しない支援と位置づけています。緩和ケアは終末期だけのものではなく、病気を治す治療や命を支える治療と並行して受けられます。
痛みや息苦しさ、不安が和らぐことで、眠る、食べる、治療を続けるといった力が戻ることがあります。こうした支援は生活の質を高め、病気の経過に良い影響を与える場合もあります。ただし、命を延ばしたり短くしたりすること自体が目的ではありません。

治療を選ぶ時に確認したい4つのこと

1. 何を目標に行う治療なのか
2. どの程度の効果や回復が見込めるのか
3. 身体的・精神的な負担や副作用はどの程度か
4. 治療後の状態が、自分の大切にしたい生活につながるか

判断が難しい時は、治療の目的、試す期間、効果を判断する目安をあらかじめ決め、実際の効果と負担を見ながら続けるかどうかを見直す方法もあります。
少しでも長く生きることを優先したいという希望も、苦痛の少なさや自宅で過ごすことを優先したいという希望も、どちらも尊重されるべきものです。あらかじめ決まった正解があるのではなく、何を大切にするかで選択は変わります。

「治せない」と「できることがない」は同じではありません

病気が進行し、標準治療の継続が難しくなると、「これ以上治療はできません」と説明されることがあります。けれど、病気そのものを治すことが難しいことと、患者さんにできる医療がないことは同じではありません。
痛みや息苦しさを和らげる、食べられない理由を探す、起こり得る急変に備える、家で過ごす方法を考える、ご家族の不安や介護負担を支える。病気を治せなくても、医療にできることは残っています。
医療者が「治せないこと」を敗北のように感じると、最も支えが必要な時期の患者さんに十分向き合えなくなる危険があります。これは、私自身への戒めでもあります。治療の限界を正直に説明しながら、何ができるかを考え続け、見放さず、そばにいる。それも医療の大切な役割だと、私は考えています。

おわりに 治療名だけでなく、何を大切にしたいか

「延命治療は希望しない」と伝える時は、受けたくない治療名だけでなく、「どのような状態なら治療を受けたいか」「何を大切にして過ごしたいか」も、家族や医療者と共有しておきましょう。病状や気持ちが変われば、結論を見直して構いません。迷う時は、治療の目的、見込める効果、身体への負担を主治医に確認し、医療・ケアチームと一緒に考えてください。

参考資料

WHO「Palliative care」
厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」
日本緩和医療学会「緩和医療関連用語集(2025年)」

執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳

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