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コラム 2026.07.17

救急車を呼ぶべき?在宅療養中に迷った時の考え方<後編>

家の前に停まる救急車

このコラムの紹介

在宅療養では、「何かあったら連絡してください」と言われても、その「何か」がわからず迷うことがあります。急な変化を前に、咄嗟に動けなかった自分を責めてしまうご家族もいます。後編では、主治医へ事前に確認しておきたい5つのこと、本人の希望を話し合う意味、ご家族が自分を責めすぎないために伝えたいことを整理します。最後に、一般的な考え方とは分けて、むすび在宅クリニックの緊急時の連絡ルールをご紹介します。

はじめに

在宅療養中の急変で迷いを減らすために大切なのは、その場で正解を出すことだけではありません。状態が落ち着いているうちに、「どんな変化が起こり得るのか」「誰に連絡するのか」を確認し、本人がどのような医療や療養を望んでいるのかを話し合っておくことも大切です。
それでも、実際に大切な人の状態が変われば、頭が真っ白になることはあります。咄嗟に動けなかったことや、救急車を呼んだ・呼ばなかった判断を、あとから繰り返し責めてしまうご家族もいます。

ご家族だけで、急変時のすべての判断を背負う必要はありません。事前に主治医や訪問看護師と具体的な方針を確認し、何か起きた時には患者さんを知る医療者へつながることで、一緒に考えることができます。
後編では、主治医へ事前に確認しておきたい5つのこと、本人の希望を話し合う意味、ご家族が自分を責めすぎないためにお伝えしたいことを整理します。最後に、一般的な考え方とは分けて、むすび在宅クリニックで患者さんへお伝えしている緊急時の連絡ルールをご紹介します。

医師の「何かあったら連絡してください」の「何か」を決めましょう

急変する可能性のある病気を持つ方では、状態が落ち着いているうちに、主治医へ具体的に聞いておくことが大切です。「何かあったら電話してください」だけでは、その「何か」が起きた時にご家族は迷います。

診察の時に、次の5つを確認してみてください。
□ この病気では、今後どんな症状や変化が起こる可能性がありますか?
□ どうなったら、昼夜を問わずすぐ連絡すべきですか?
□ 連絡より先に119番した方がよいのは、どんな状態ですか?
□ 電話がすぐにつながらない場合、次はどこへ連絡すればよいですか?
□ 医師や看護師の到着を待つ間、家族にできることはありますか?

できれば、緊急連絡先と一緒に紙に書き、ベッドサイドや冷蔵庫など、ご家族がすぐ見られる場所に置いておくと安心です。介護をするご家族が複数いる場合は、「最初にどこへ電話するか」を皆さんで共有しておくことも大切です。

そしてもう一つ、本人がどのような医療や療養を望んでいるかも、状態が落ち着いているうちから繰り返し話しておきたいことです。「心肺蘇生は希望しない」「延命治療は希望しない」という思いと、「何があっても病院へ行かない」は、同じ意味ではありません。大きなけがや、病院での治療によって苦痛を軽くできる可能性がある状態では、病院の力を借りる選択もあります。
気持ちは病状や生活の変化とともに変わることがあります。一度決めたことを守り続けなければならないわけではありません。その時々の本人の思いを、ご家族や医療・ケアチームと何度でも話し合ってよいのです。

ご家族は、咄嗟に動けなかった自分を責めないでください

テレビやニュースでは、突然倒れた方に居合わせた人がすぐ心肺蘇生を始め、その咄嗟の判断で命が助かったという報道を見ることがあります。そうした勇気ある行動は、本当にすばらしいことだと思います。
でも、それを見て、「自分も同じようにできなければいけない」「何もできなかったら自分のせいだ」と背負わないでください。

私は救急の現場で10年以上働いてきました。それでも、プライベートの時間に自分の大切な人に突然何かが起きた時、病院にいる時と同じように冷静に動き、咄嗟に正しい対応ができるかと聞かれれば、絶対の自信はありません。病院には、モニターも、薬も、一緒に動くスタッフもいます。ご家族は、突然の出来事の中で大切な人を目の前にしています。怖くて頭が真っ白になることも、体が動かなくなることも、不思議なことではありません。

そして、救急医療に長く関わったからこそ、医療でできることにも限界があると感じています。どれだけ適切な処置をしても救えない命がありますし、ご家族が完璧に動けなかったことだけで、その後の結果が決まるわけでもありません。
まずは、電話をかける。119番をする。誰かに助けを求める。それだけでも、大切な対応です。あとから「もっとできたのでは」と、ご自身を責めすぎないでほしいと思います。

ここからは、むすび在宅クリニックの連絡ルールです

ここからは一般的な決まりではなく、当院の患者さんへお伝えしている方針です。訪問診療・訪問看護の連絡方法は医療機関ごとに異なるため、他院をご利用の方は、必ずご自身のかかりつけから案内された方法を確認してください。

むすび在宅クリニックでは、訪問診療が始まった後の医療的な困りごとについて、当院と訪問看護ステーションを相談の窓口と考えています。訪問診療と訪問看護は「こんなことで連絡していいのだろうか」と迷うような時も含め、まず相談していただくための体制です。

しかしながら、24時間365日対応と言えど、医師がほかの患者さんの対応中ですぐに電話に出られず、後ほど折り返すことや、往診までに時間がかかってしまうことはどうしてもあります。ですので、当院医師へすぐにつながらない場合に備え、セカンドコールや訪問看護への連絡方法を患者さんごとにご案内しています。緊急時に「電話がつながらないまま、ご家族だけで待つ」ことがないよう、あらかじめ次の連絡先まで確認しておくことを心がけています。

訪問診療と訪問看護、どちらに連絡すればよいのかという質問も多くいただきます。当院では「迷った場合は訪問看護ステーションへ」とお伝えしています。
病院では、何か気になることがあればまずナースコールを押し、看護師が状態を確認します。在宅でも同じように、訪問看護師は医療的な状態確認に加え、おむつ交換や転倒時の介助など、生活面を含めて幅広く対応できます。当院と連携する訪問看護ステーションでは、医師より早く緊急訪問できることも多いです。
ただし、これは連絡先を一つに決めておいた方が迷いにくい方への目安です。訪問診療と訪問看護は連携していますので、どちらに連絡していただいても構いません。

また、怪我の時には「訪問診療では対応できないのでは」と思われる方もいますが、在宅でも対応できることは意外に多くあります。もちろん、大きな外傷、緊急手術が必要な状態、病院でなければできない検査や治療が必要な時には、病院へつなぎます。一方、状態によっては、小さな傷の処置や縫合、症状を和らげる薬や酸素の調整、骨折が疑われる部位のレントゲン撮影や一時的な固定など、自宅でできることもあります。

訪問診療は、患者さんやご家族との信頼関係の上に成り立っています。在宅療養中だからといって、ご自宅で大切な方を支えるご家族に、療養の判断や責任をすべて背負っていただくべきではありません。何かあった時に相談でき、必要な時には医療者が動けるバックアップ体制があってこそ、安心して在宅療養を続けられるのだと思います。
訪問診療は定期的に医師が家へ行くだけの医療ではありません。「何かあった時に、まず相談できる医療者がいる」ことも、在宅療養を支える大切な役割だと私たちは考えています。

まとめ|「何かあったら、ここに電話すればいい」と思ってもらえるように

とっさの判断を、あとから「正解だった」「間違っていた」だけで振り返る必要はありません。予期していない一刻を争う変化では119番が必要です。一方、治療中の病気による症状や、看取りが近づく中で予測されていた変化では、患者さんをよく知る医師や看護師へ先に連絡した方が、その方に合った対応につながることがあります。
「救急車を呼んでよかったのか」「呼ばなかったら後悔するのではないか」「本人は家にいたがっていたのに」。その迷いは、ご家族だけで抱えるには重すぎます。だからこそ、普段から患者さんのことを知り、ご本人の希望を聞き、ご家族が何を怖いと感じているのかを一緒に確認しておくことが大切だと思っています。

「何かあったら、ここに電話すればいい」。そう思える連絡先があることは、在宅療養の大きな安心になります。どうしたらよいかわからない時ほど、ご家族だけに判断を委ねず、一緒に考える。それも、訪問診療の大切な役割です。

執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳

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