コラム 2026.07.17
救急車を呼ぶべき?在宅療養中に迷った時の考え方<前編>

目次
このコラムの紹介
在宅療養中、呼吸が苦しそう、意識がぼんやりしている、転んで動けない――。そんな時、「救急車を呼ぶべき?」「まず主治医に電話する?」と迷うのは当然です。前編では、予期しない急変で119番を先に考える場面、訪問診療・訪問看護への連絡の考え方、救急車が早く来ることと患者さんが早く楽になることの違い、緊急時の電話でまず伝えてほしい3つのことを整理します。
はじめに
在宅療養では、病院にいる時と違い、急な変化を最初に見つけるのはご家族であることが多くあります。夜間や休日に患者さんの様子が変わると、「このまま見ていていいのか」「救急車を呼んだ方がいいのか」と、不安が一気に大きくなることがあります。
在宅療養中の患者さんには、クリニック、訪問看護ステーション、ケアマネジャー、ヘルパー事業所、地域包括支援センターなど、複数の支援者が関わっていることがあります。「連絡先はたくさんもらっているけれど、こんな時は誰にまず連絡したらいいのだろう」と迷うこともあるとお聞きします。
まずお伝えしたいのは、救急車を呼ぶ状態なのかどうかを、ご家族だけで正しく判断しきる必要はないということです。患者さんをよく知る医師や看護師につながれば、「119番を呼ぶべきか」「自宅で対応できるのか」を一緒に考えることができます。
一方、緊急時の連絡の優先順位は、訪問診療のクリニックや訪問看護ステーションによって異なります。前編では、119番、訪問診療・訪問看護、#7119のどこへ連絡するか、迷いやすい場面、そして緊急時の電話でまず伝えてほしいことを整理します。
まず考えたいのは「誰に連絡するか」
在宅療養中の急変では、すべての症状に同じ連絡先が適しているわけではありません。大きく分けると、次の順番で考えると整理しやすくなります。
予期していない、一刻を争う状態なら119番
大きな事故や外傷、窒息、突然意識がなくなったなど、医療者から事前に説明されていない急変で、「連絡を待っている余裕がない」「このままでは危ない」と感じる時は119番を考えてください。
たとえば、次のような状態です。
・高い場所からの転落や交通事故など、大きな力が加わった
・頭を打った後に反応が悪い、意識がぼんやりしている、繰り返し吐いている
・突然、呼びかけても反応がない、反応が急に弱くなった
・窒息が疑われ、咳や呼吸ができない
・突然、顔がゆがむ、片側の手足が動かない、ろれつが回らない
・けいれんが続く、または繰り返している
・突然の強い胸痛・背部痛、急速に悪化する息苦しさがある
・大量の出血があり、圧迫しても止まらない
・原因がわからないまま急速に状態が悪くなり、ご家族から見ても明らかに危ない
24時間対応の訪問診療・訪問看護があるなら、まず決められた緊急連絡先へ
一刻を争う状態ではなく、治療中の病気の症状、看取りが近づく中での変化、「何かおかしいけれど、救急車を呼ぶほどかわからない」といった時は、訪問診療や訪問看護から案内されている緊急連絡先へ連絡してください。
主治医や訪問看護師は、その方の普段の状態、治療中の病気、起こり得る変化、これまで話し合ってきた希望を知っています。電話で薬の使い方や体の向きをお伝えすることもあれば、医師・看護師が訪問することも、病院受診や救急搬送を勧めることもあります。
訪問診療や訪問看護を利用していない場合でも、かかりつけの医療機関に夜間・休日の連絡方法を案内されている方は、その方法に従って相談してください。
かかりつけに相談できず、救急車を呼ぶか迷う時は#7119
東京都では、急な病気やけがで「救急車を呼ぶべきか」「今すぐ病院へ行くべきか」と迷った時に、東京消防庁救急相談センター「#7119」へ24時間相談できます。ただし、#7119は患者さんの普段の状態や治療方針を事前に知っているわけではありません。24時間対応の訪問診療・訪問看護が介入している方は、まずご自身に案内されている緊急連絡先へ相談するのが基本です。
連絡がつかず、状態が悪化している時や、待てないほど具合が悪い時は119番です。
「救急車が早く来る=一番早く楽になる」とは限りません
救急隊は、患者さんの状態を確認し、必要な応急処置を行い、搬送が必要な場合には受け入れ先を調整して病院へつなぐ大切な専門職です。一刻を争う病気や大きな外傷では、迷わず救急の力を借りる必要があります。
一方、病気による痛みや吐き気、息苦しさ、終末期の症状などは、救急隊が自宅に到着した時点で治療が完結するわけではありません。搬送先が決まり、病院で診察や検査を受けてから治療が始まることもあります。
そのため、状況によっては、患者さんをよく知る医師や看護師につながり、自宅で薬や酸素、体位などを調整した方が、苦痛を早く和らげられることがあります。大切なのは「誰が一番早く到着するか」ではなく、「今起きていることに対して、どこにつながると必要な対応が始められるか」です。ご家族が一刻も早く医療の手に委ねたいと焦るお気持ちも、大変よくわかります。だからこそ、いざという時に訪問診療や訪問看護を思い出していただけるよう、日頃から相談しやすい関係をつくることも、私たちの役割だと考えています。
訪問診療と訪問看護を利用している方で、特に迷いやすい場面を整理すると、次のようになります。

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これはあくまで一般的な目安です。同じ「息苦しい」でも、突然始まったのか、数日前から少しずつ悪化したのか、もともとの病気は何か、看取りが近いと説明されているのかによって判断は変わります。ご家族が診断する必要はありません。迷った時は、患者さんのことを知る医療者へつないでください。
緊急時の電話は、支離滅裂でも大丈夫です
急な変化を目の前にすると、頭が真っ白になり、「何から話せばいいかわからない」となるのは当然です。順序よく、医学用語を使って説明する必要はありません。
まずは、「いつから」「何が起きているか」「今どうしているか」の3つを、わかる範囲で教えてください。
例)「10分前から吐血しています。今はベッドに横になっていて、ぐったりしています」
例)「昨日からずっと眠っています。今日はほとんど起きず、呼吸の仕方がいつもと違う気がします」
ここまで教えていただければ、あとは医師や看護師から必要なことを質問します。普段の状態、変化の速さ、外傷の有無、事前に説明されていた変化か、本人が病院や自宅での療養をどう希望していたかなどを、一緒に確認していきます。
すでに119番をした場合は、在宅療養中であること、かかりつけの訪問診療・訪問看護があること、使用している酸素や医療用麻薬などがあれば、そのことも救急隊へ伝えてください。本人の希望について事前に話し合っている場合は、それもわかる範囲で伝えて構いません。どう説明してよいかわからない時は、必要に応じて救急隊からかかりつけのクリニックへ連絡してもらってください。
なお、救急隊が到着するまでに症状が軽くなることもあります。その場合は、状態が変わったことと、かかりつけの訪問診療があることを救急隊へ伝えてください。搬送を迷う時には、救急隊が必要に応じてかかりつけ医とも連絡を取りながら、その時点での状態と本人の希望を踏まえて、搬送の必要性を確認します。
前編のまとめ|迷った時は、ご家族だけで判断しなくて大丈夫です
判断に迷った時は、ご家族だけで答えを出さず、まず医療者へつないでください。後編では、急変前の備えと、むすび在宅クリニックの緊急連絡ルールをご紹介します。
執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳