体験談 2023.12.10
体験談vol.5 濱川健一さん本人<後編>
・患者さんの病名:肺がん
・患者さんの年齢:82歳
・闘病期間:発症から現在まで1年4か月
・訪問診療を受けている期間:約1年
・家族構成:奥様と2人暮らし。都内・隣県に長男さん、次男さんが在住
・インタビューに答えてくださる方:濱川健一さん(本人)
・インタビューの時期:訪問診療開始から約1年後
通院と訪問診療を併用するメリットとデメリット
香西:
実は、濱川さんのように通院と訪問診療を併用している患者さんはあまり多くありません。訪問診療は通院が困難な患者さんを主な対象としているので当然と言えば当然です。しかしながら、濱川さんのように通院と訪問診療を併用することで、通院の頻度を減らし、ご自身の体力と時間を有意義に使ってもらえるケースも多くあります。また、がんの患者さんは、がん拠点病院の主治医の先生とのつながりを保ちたいでしょうし、治療をしないとしてもいきなり訪問診療に移行するのは気持ちの面でも整理がつかないでしょう。併用期間を設けることで、精神的なストレスも少なく、状態に見合った医療を受けられやすいです。濱川さんは、通院と訪問診療の併用についてどう思われますか?
濱川:
大病院とクリニックの関係は、会社の本社と支店のようなものだと思うよ。私の社会復帰という共通の目的を持って、別々の視点で見て、支えてくれているね。どんな会社でも内部で役割分担がなされているように、大病院とクリニックにもそれぞれ別の役割があるよね。大病院では高度な検査や治療を受けることができて、クリニックでは日常生活をどう支えるか、日々の状態をみて考えてくれている。外来では家でどんなふうに過ごしているかはわからないから、それは訪問診療にしかできないことだよね。併用は素晴らしいシステムだと思うよ。厚労省も、大病院とかかりつけ医の2人主治医制を勧めているらしいしね。
香西:
厚労省の狙いは、大病院への患者の集中を減らし、今いる人材で高齢社会での医療を担えるようにすることと、かかりつけ医を持つことで病気の早期発見・早期治療を行い、医療費を削減することだと思いますが、厚労省の方針は患者さんにとっても良い方向に向いているということですね?
濱川:
そうだね、やっぱり大病院は患者さんも多いし、通院のたびに1日掛かりで、よし行くぞって気合い入れていかないと行けないよね。大病院への患者の一極集中がなくなることはいいことだと思うよ。大病院だと診療の時間は数分から10分くらいなものだけど、訪問診療ではじっくり診察してくれるし、すぐに相談しやすい。自分のことをわかってくれているな、と感じるよ。訪問診療に限らず、近所の診療所への通院でもそうだろうけど、身近にかかりつけ医がいることはとても大事だよね。
香西:
では、通院と訪問診療を併用するデメリットはありますか?
濱川:
デメリットは特に考えたことはないな。そんなのはないんじゃないかな。
香西:
費用に関して気にされる方は多くいますのでお伺いしてみました。特に医療保険の負担割合が2〜3割の方では、費用負担が大きい場合があります。また、長年の付き合いがある信頼している主治医の先生以外に診てもらいたくないという方もいます。他には、医師同士でも意見が分かれる状況はありますので、舵取りが主治医と訪問医の2人いることを好まないという方もいます。もちろん、患者さんを困らせないよう、意見の統一を図っていますが、医療機関同士のやり取りは電話かFAXが主流で、多くの患者さんを抱える大病院の医師とは連絡が取りにくいこともあるので、リアルタイムの情報共有は厳しいというのが現状です。
濱川:
先生たちはよく連携してくれているなと私は思っているよ。と言うのは、私は郵便配達人と言ったらなんだけど、2〜3ヶ月に1回病院に行く時に毎回、香西先生からの手紙を私が病院に運んだり、また大病院の主治医から受け取ったものを香西先生に渡したりしているでしょう。そうやって手紙を運んで、目の前で読んでもらって、何書いてるのって聞いて、連携を目の当たりにしているから。裏で連携していますって言われたってわからないから、そうやって手紙でやり取りしているのを見ると、情報を共有してくれているという安心感があっていいね。
香西:
なるほど。濱川さんに郵便配達人をしてもらっていることで、そういった効果が得られていたのですね。患者さんの目に見える形で連携するというもの大事なのですね。
訪問診療のこれから、濱川さんのこれから。
香西:
濱川さんは、こういうサービスや制度、人材があれば在宅療養がもっと楽になるのに、と考えたことはありますか?
濱川:
いや、特にないね。医師も看護師もいるし、今は使ってないけれど、介護もヘルパーさんにお願いできるんでしょう?
香西:
そうですね、病状が進んだ時には、ヘルパーに身体介護を依頼して、奥様に全部をやってもらわなくても良い体制が作れます。濱川さんは、ゆくゆくはどこを人生の終の住処にしたいとお考えですか?
濱川:
そんな先のことは考えられないけれど、まぁ、いよいよ人生が終わる時には、最期まで家にいたいと思っているよ。その時には先生よろしく頼むよ。
香西:
はい、何十年先でも最期までお付き合いさせていただくつもりです。
濱川:
先生のことは医師だけど医師じゃないと思ってるから。町内会の役員みたいな身近な相談役って感じの親しみやすさがあるよね。私は、今は外出の時に酸素ボンベを持っていくくらいで、ほとんど不自由なく生活できているけれど、そうやって好き勝手して過ごせるのも、何かあった時にはすぐに相談できる、夜間でも対応してもらえる、訪問診療の存在があるからだと思うよ。訪問診療のおかげで安心感して、普段病気のことなんて気にしない、豊かな生活が送れているんだ。
香西:
まさに私が患者さんにそう思っていて欲しい、と思っていることを言っていただきました。ありがとうございます。調子の良い時も悪い時も、患者さんに寄り添って支えていけるよう精進します。では、最後に、これから訪問診療を受けることを考えている方にアドバイスをお願いします。
濱川:
私は退院して家に帰りたいと言った時に主治医からは止められたんだ。妻1人では介護できないから、施設の方がいいって。でもなんとしてでも家に帰りたかったから、妻にお願いして、たくさんの人に支えてもらって、ここまでやってこれた。きっと同じような状況で自宅か施設か悩んでいる人はたくさんいると思うんだけど、訪問の医師や看護師はとても頼りになるから、一度家に帰ってみてもいいんじゃないかなって思う。まぁみんな状況が違うから無責任なことは言えないけれど。
香西:
在宅療養には、患者さん本人の覚悟と、患者さんを支える人が不可欠です。濱川さんのようにお家に帰ってどんどん元気になる人ばかりではありませんが、全ての人にとって在宅療養という選択肢がある世の中になればいいなと思います。通院と訪問診療を併用することで在宅療養が可能になるケースもあるので、これからの療養場所について悩む時には、主治医に相談して、一時退院などで家での生活を体験してみても良いのかと思います(本当は外泊で、と言いたいのですが、今の医療制度では外泊では介護サービスや訪問診療が使えません)。お困りの際には、当院にもご相談ください。濱川さん、ありがとうございました。
編集:児玉紘一
執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳
対談日:2023年9月26日