コラム 2026.08.06
おひとり様の老後と療養<3章>

目次
このコラムの紹介
一人暮らしの在宅療養は、訪問するサービスを増やすだけでは支えきれません。ご本人の希望を中心に、医療・介護・福祉の支援者が役割を分け、友人や近隣の方を含めた社会とのつながりを、無理のない形で保つことが大切です。第3章では、制度の「すき間」を善意だけに頼らない考え方、つながりが安心になった事例、3つの支援例、療養場所を見直すタイミングについて解説します。一人暮らしを支える方法を、具体的な場面から考えていきます。
「身寄り」や「介護の手」の役割を、支援チームで分けます
第2章では、ご本人の希望を出発点に、一人暮らしの在宅療養を支える「お金・身寄り・介護の手」と、暮らしの中で確認したい7つの項目を整理しました。第3章では、足りない役割を誰が担うのか、支援チームと社会とのつながりから考えます。ご家族の代わりになる人を一人探すのではなく、医療・介護・福祉の支援者が役割を分け、情報を共有することが大切です。一つの職種や事業所だけですべてを引き受けることはできません。
支援者が別々に訪問するだけでは、変化がつながらないことがあります。ご本人の同意を得て、「誰が何を見るか」「変化があったときに誰へ連絡するか」を決め、電話、連絡ノート、医療・介護用の情報共有ツールなど、ご本人に合う方法で情報をつなぎます。
「役割のすき間」を善意だけにしない
支援の現場では、制度上どの職種の担当とも決めにくい「役割のすき間」が生まれます。目の前の困りごとに対し、各支援者が可能な範囲で一歩ずつ歩み寄る姿勢は大切です。
一方、そのすき間を誰かの善意や無償の負担に頼り続ければ、支援は長く続きません。保険で賄えない支援は、必要性と費用をご本人やご家族に丁寧に説明し、保険外サービスなど有償の支援として位置づけることも必要です。役割と費用を見える形にして共有することが、持続可能な支援体制につながります。
独居だからこそ、社会とのつながりが大切です
暮らしは、人とのつながりの中で成り立っています。食事を届ける人、薬を持ってくる人、声をかけてくれる近隣の方、電話で話す友人、そばにいると落ち着く人、遠くで見守ってくれているご家族や親戚、医療・介護の支援者。一人暮らしも、ご家族だけではない多くのつながりに支えられています。
同居するご家族がいないからといって、一人ぼっちではありません。現代社会を生きる人間にとって、人とのつながりは、具体的に何かをしてもらうためだけではなく、心身の拠り所として必要なものです。自分を気にかけてくれている人がいるということこそが、大きな、生きる力になります。いつもの様子を知る人がいれば、小さな変化に気づきやすく、困ったときに相談もできます。
訪問診療、訪問看護、配食、ヘルパーなどの定期的な訪問も、その接点の一つです。ただし、つながりは多いほどよいわけではありません。「誰に支えてもらうか」だけでなく、「誰と、どのくらいの距離でつながっていたいか」を伺い、ご本人にとって無理のない関係が、細くても途切れずに続く形を大切にします。
つながりが「安心」になった一例
当院で関わった、がんを抱える一人暮らしの高齢女性の例です。当初、ご本人は「身の回りのことができなくなったら緩和ケア病棟へ入りたい」「人に迷惑をかけたくない」と話していました。しかし、買い物が難しくなると友人が食事を届け、トイレへ行けなくなると友人や別世帯に住むご家族が夜遅くまでそばにいてくれました。排泄ケアや服薬介助、出血時の処置は訪問看護師やヘルパーが担いましたが、「友人がそばにいる」「自分を案じてくれる人がいる」ことは、何より大きな安心だったのではないでしょうか。最終的にご本人はご自宅を選び、友人に囲まれて穏やかな最期を迎えました。
友人たちも、時間や体力に十分な余裕があったわけではありません。それでも自然に支え合えたのは、その方がこれまで周囲の人と築いてきた関係があったからでしょう。医療や介護だけではつくれない安心を、人と人との「助け合い」が支えた一例です。
一人暮らしの支援体制|3つの例と見直しの考え方
比較的安定しているときには一人で暮らせていても、発熱、息苦しさ、痛み、転倒、せん妄などが起きると、一時的に一人で過ごすことが難しくなる場合があります。進行がんや重い病気では、数日単位で状態が変わることもあります。
次の3例は、よくみられる状況をもとに、支援の組み方を具体化したものです。実際の訪問回数、利用できるサービス、費用は、病状、介護認定、地域、事業所の体制によって異なります。

療養場所を見直すサイン
次の状態は直ちに施設へ移る基準ではありませんが、今の住まいで支え続けられるかを話し合うサインです。
・一人で過ごす不安が強く、訪問や見守りを増やしても苦痛が十分に和らがないとき。
・転倒、薬の誤り、脱水、呼吸苦などが、一人の時間に繰り返し起こるとき。
・体調が悪いときに連絡できず、連絡がつかないときにご自宅を確認する人も確保できないとき。
・認知症などにより、火の不始末や外出後の帰宅困難など、安全を保つことが難しくなるとき。
・必要な介護の回数や時間が、地域で確保できるサービス量や継続できる費用を大きく上回るとき。
一人暮らしの方がご自宅で最期まで過ごせる場合もあります。ただし、最期まで一人で頑張ることを目標にはしません。症状、ご本人の希望、助けを呼べるか、ご自宅へ入る方法、一人でいる時間の不安や苦痛、利用できる支援と費用を繰り返し確認します。
療養場所を変えることは、在宅療養の失敗ではありません。「できるだけ家で」という希望を大切にしながら、そのときの体と暮らしに合う場所を選び直すことも、支援の一つです。
よくあるご質問
Q1.診察のたびにご家族の立ち会いが必要ですか?
必ずしも必要ではありません。ご本人だけで診察を受けられる場合もあります。ご家族への説明が必要なときは、ご本人の同意を確認し、電話やオンラインなどの方法を相談します。
Q2.緊急連絡先がいないと、訪問診療は受けられませんか?
緊急連絡先がいないことだけで、一律に受けられないとは限りません。ただし、連絡が取れないときの対応、入院手続き、鍵、支払いなどの調整がより重要になるため、最初にそのまま伝えてください。
Q3.医療機関に合鍵を預けられますか?
対応は医療機関や事業所により異なります。キーボックス、管理人、信頼できる方を介する場合もあります。ご本人の同意のもと、使用条件と管理責任を明確にします。
当院では、合鍵の相談をいただくような状況の時は、支援者が複数人介入している場合が多く、合鍵よりもキーボックスの方が緊急時に近くにいる人が迅速にご自宅を訪問しやすいため、キーボックスをお勧めしています。しかし、状況によって合鍵をお預かりしている場合もありますので、随時ご相談ください。
Q4.一人暮らしでも、ご自宅で看取りを受けられますか?
可能な場合はありますが、病状と支援体制によって個別に判断します。症状が強くなったときの訪問頻度、変化に気づく人、ご自宅へ入る方法、一人の時間の苦痛、入院へ切り替える条件まで話し合います。
まとめ|ひとりで生きない。孤独ではない一人暮らし
むすび在宅クリニックでは、ご本人を病名や医療面だけで捉えず、どのような一日を過ごしているのか、誰とよく話すのか、これまでどのような人や地域とのつながりを大切にしてきたのかを丁寧に伺います。
ご本人やご家族からのお話に加え、すでにケアマネジャーや訪問看護師がいる場合は、今の支援で気づいていることを共有していただきます。入院中であれば、病院の地域連携室や病棟スタッフと退院後の暮らしを確認します。まだ介護保険につながっていない、頼れる人がいない、費用に不安がある場合も、その状況を含めて相談先を一緒に考えます。「どこで、どう過ごしたいか」を出発点に、社会とのつながりを保ちながら、支援をそのときどきに合う形へ組み替えます。
一人暮らしを続けることだけを目標にはしません。ご本人が大切にしたいことを伺い、今の住まいで補えることと、療養場所を見直した方がよい時期を一緒に考えます。「一人だから無理」「いざとなったら入院するしかない」と思っている方も、今の困りごとを、まずはお聞かせください。
一人で暮らすことと、孤立して暮らすことは同じではありません。ひとりの時間を大切にしたい方も、何かあったときの責任まですべてご自身で背負う必要はありません。誰か一人にご家族の代わりを求めるのではなく、必要な役割を少しずつ分け、細くても途切れないつながりをつくっていく。その方らしい一人暮らしが続くように、むすび在宅クリニックは、暮らしの中へ医療と支援を丁寧に結んでいきます。
情報の基準日・参考資料
本稿は2026年7月19日時点の公的資料に基づいています。利用できる医療・介護・見守りサービス、費用、緊急時対応、鍵の管理方法は、地域、病状、各事業所の体制によって異なります。訪問診療を希望する医療機関、ケアマネジャー、地域包括支援センターなどへご確認ください。
・厚生労働省「介護保険制度の概要」(令和7年7月)
・厚生労働省「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン及び事例集」
・厚生労働省「日常生活自立支援事業」
・厚生労働省「地域包括ケアシステム(地域包括支援センターについて)」
・厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」
・裁判所「成年後見制度(後見・保佐・補助)」
執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳