コラム 2026.07.27
いよいよ退院!その時に準備しておくこと<後編>

目次
このコラムの紹介
この記事は、がん、心不全、脳卒中、骨折などにより、入院前や急変前と比べてADL(日常生活動作)が変化し、退院後も医療や介護、生活上の支援が必要になる患者さんとご家族に向けた記事です。後編では、病状の見通し、今のADL、薬や食事、介護保険・福祉用具、急変時の連絡先など、退院前カンファレンスで確認しておきたい内容を具体的に整理します。
はじめに
この記事は、がん、心不全、脳卒中、骨折などで入院し、退院後も医療や介護、生活上の支援が必要になる患者さんとご家族に向けた記事です。
特に、入院前や急変前と比べて、歩行、排泄、食事、薬の管理などのADL(日常生活動作)が変化している方では、退院前に病院で確認しておきたいことがあります。
前編では、退院が決まってから退院日までにやっておきたい8つの準備を整理しました。後編では、病状の見通し、今のADL、薬や食事、介護保険・福祉用具、急変時の連絡先など、退院前に病院で確認しておきたいことを具体的にお伝えします。
大切なのは、すべてを覚えることではありません。ご本人やご家族が「ここがわからない」と気づき、必要な相手に質問できることです。
記事の最後には、退院前カンファレンスでそのまま使える質問票も付けています。必要な項目にチェックを入れ、メモを取りながらお使いください。
退院前に確認しておきたい6つのこと
病状の経過と、これから起こりうる変化
主治医からこれまでの病状の経過と、現在の状態について説明を受けましょう。ただ説明を聞くだけではなく、ご本人やご家族が知りたいことを質問して構いません。
この病気では今後どのような症状や変化が起こる可能性があるのか。現在の治療は何を目的としているのか。退院後も治療を続けるのか。外来通院が必要な場合、次回受診日や通院頻度はどのくらいか。
将来を正確に予測することはできません。それでも、「起こりうること」を少し知っておくと、変化があった時に慌てず相談しやすくなります。
今のADLと、家で続ける医療・ケア
食事、排泄、入浴、更衣、移動が今どのくらい自分でできるのか。入院前と比べて何が変わったのか。一人で過ごせるのか、見守りが必要なのかを確認します。高齢の方では、入院をきっかけに認知機能や注意力が変化していることもあります。
あわせて、褥瘡の処置、インスリンなどの注射、喀痰吸引、貼り薬の交換など、家でも続ける医療行為やケアがあるかを確認してください。大切なのは、「必要です」と聞いて終わるのではなく、誰が、いつ、どのように行うのかまで具体的にすることです。
寝室からトイレまで遠ければポータブルトイレ、布団からの起き上がりが難しければ介護ベッドなど、今の身体に合わせて環境を変えることも大切です。福祉用具は「もっと動けなくなってから」ではなく、退院直後の安全な生活を支えるために使うものでもあります。
薬は「名前」より「いつ、何のために使うか」を確認する
退院時には、入院前より薬が増えたり、反対に中止になった薬があったりします。薬の名前をすべて覚える必要はありません。
毎日決まった時間に使う薬と、症状が出た時に使う頓服薬を分けて確認しましょう。特に痛み、息苦しさ、吐き気、不安、不眠などの頓服薬は、「どんな時に使うか」「何回まで使えるか」「効かない時はどこへ連絡するか」を聞いておくと安心です。
また、家に入院前の薬が残っている場合は、それを続けるのか、中止するのかも確認してください。錠剤が飲みにくい、薬が多くて管理できないという心配も、退院前にそのまま伝えて構いません。
もし可能であれば、病棟看護師がどんなふうに薬を飲ませているかも入院中に実際に確認できると安心です。1錠ずつ口に入れてあげているのか、朝の薬を置いておいたら自分で飲めるのか。入院前と飲み方が変わっている場合もあります。
食事は「食べてよいもの」だけでなく、家で準備できる方法まで確認する
退院前には、食形態、食事制限、飲み込みの状態、誤嚥の危険、現在どのくらい食べたり飲んだりできているかを確認してください。
特別な食事が必要な場合は、それを誰が準備するのかも大切です。病院と同じ食事を家族が毎食手作りできるとは限りません。市販の介護食を使えるのか、病院で食べているものに近い商品はあるのか、どこで購入できるのかなど、できるだけ具体的に聞いてみてください。最初から完璧な介護食を作る必要はありません。ご本人が食べたいものがあるなら、その希望をどうすれば安全に叶えられるかを、医療者や管理栄養士、リハビリテーションのスタッフと一緒に考えていくこともできます。
食事の介助が必要な場合は、一口量や姿勢、スプーンの使い方など、患者さんに合った介助方法を、病棟看護師やリハビリテーションのスタッフから実際に教えてもらえると安心です。
また、退院後の食事量や水分量、むせの様子などは、次回の外来や訪問時に共有できるよう、簡単に記録しておくと役立ちます。
介護保険・福祉用具と、ご家族が「できないこと」
退院支援の場では、「家族がどこまでできますか」と聞かれることがあります。でも、初めて介護をするご家族にとっては、「どこまでと言われても、何をしなければいけないのかまったくわからない」と思うのが自然です。無理をして「大丈夫です」「何とかします」と答える必要はありません。まず病院に伝えてほしいのは、次のような生活の情報です。
・家族が誰もそばにいられない時間は、何時から何時までか
・介護をした経験がある人はいるか
・身体を支える、排泄を介助するなど、難しいことはあるか
・薬はこれまで誰が管理していたか。家族は薬の内容や飲ませ方を知っているか
・夜間に同じ家にいる人はいるか
たとえば、「平日の日中は8時から20時まで本人が一人になります。家族は誰も介護経験がなく、これまでは薬も本人が全部管理していました。今の状態で一人で過ごすと、何が問題になりそうですか」と伝えるだけで、医療者は考えるべきことがぐっと具体的になります。
介護保険をまだ申請していない、認定状況がわからない、ケアマネジャーが決まっていない場合も、早めに病院の退院支援担当者へ相談してください。介護ベッドや車いす、手すりなどの福祉用具も、退院日から必要なものは事前に準備を進めます。ご家族のできないことは、支援を考えるための大切な情報です。
退院後の最初の予定と、体調が変わった時の連絡先
退院後の生活で不安が大きいのは、「家に着いた後、次に誰と会うのか」「何かあったら誰へ電話するのか」が決まっていない状態です。
訪問診療の初回訪問はいつか。訪問看護は退院当日または翌日に来るのか。外来通院を続ける場合は次回受診がいつか。薬はどのように受け取るのか。少なくとも、最初の訪問・受診予定は確認しておきましょう。
また、どのような症状が出たら昼夜を問わず連絡するのか、まず訪問診療へ連絡するのか、訪問看護へ連絡するのか、電話がつながらない場合は次にどこへ連絡するのかを確認してください。患者さんの病状に応じて、連絡より先に119番した方がよい状態も聞いておくと安心です。細かな判断をすべて覚える必要はありません。迷った時に相談できる相手と、連絡する順番がわかっていることが大切です。連絡先は冷蔵庫に貼る、家族のLINEに送る、スマートフォンに登録するなど、実際に使える形にしておきましょう。
退院前カンファレンスでは「わからない」をそのまま伝えてください
病状や医療処置が複雑な場合、退院前に病院の医師や看護師、薬剤師、地域連携室、ケアマネジャー、訪問看護師、在宅医療のスタッフなどが集まり、退院後の生活について話し合うことがあります。
医療者が何人も並び、病状、薬、生活、介護サービスについて次々と説明を受けると、情報の洪水の中にいるように感じることがあります。よくわからないまま話が進み、家に帰ってから「これを聞いておけばよかった」と気づくこともあります。
でも、本当に確認したいのは、ご本人とご家族が家に帰ってから困らないかどうかです。「何を聞けばいいのかわからない」と伝えることも、一つの質問です。
質問をする際には、病状については医師、ADLや日常生活については看護師やリハビリテーションのスタッフ、薬については薬剤師、介護保険や福祉用具、退院後の支援体制については退院支援担当者やケアマネジャーというように、内容によって質問する相手を分けると、具体的な答えを得やすくなります。
退院前にすべてを理解し、覚えて帰る必要はありません。大事なことは紙に書いてもらう、連絡先を一つにまとめる、ご家族の中で説明を聞く人を決めるなど、後から確認できる形を作ることです。
この記事の最後に、退院前カンファレンスで使える質問票を付けています。すべてを聞く必要はありません。「これは知っておきたい」と思う項目にチェックを入れ、メモを取りながら使ってください。

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退院当日から数日は、予定どおりにいかないこともあります
病院から家に帰った日は、それだけで患者さんにとって大きな移動です。家に着いた途端に疲れて眠ってしまう。病院では食べていたのに、家では食事が進まない。夜になって不安が強くなる。家族も緊張して、何度も呼吸や体温を確認してしまう。退院前に準備をしていても、実際に家で過ごしてみなければわからないことがあります。それは、退院が失敗ということではありません。在宅療養は、家に帰った日から実際の生活に合わせて調整していくものです。
ベッドの位置を変える。福祉用具を追加する。訪問看護の回数を相談する。薬を見直す。トイレの方法を変える。ご家族の負担が大きければ介護サービスを追加で検討する。一度決めた方法に患者さんやご家族が合わせて頑張り続けるのではなく、今の状態に合わせて支援の方を変えていきます。退院日までにすべてが完成していなくても、誰に相談するかが決まっていれば、帰宅後に一つずつ整えていくことができます。
むすび在宅クリニックで退院前から相談できること
むすび在宅クリニックでは、がんや重い病気で入院中の方が「家に帰りたいけれど不安」と感じている段階から、ご相談を受けることがあります。
ご相談内容に応じて、病院の地域連携室や病棟スタッフから病状や治療内容を共有していただき、退院後に必要な診療や症状への備えを検討します。訪問看護、薬局、ケアマネジャーなど、地域の支援者と役割を確認しながら、家での生活に合わせた体制を考えていきます。退院してから初めて「実は夜が怖かった」「家族が仕事で昼間はいない」「薬をどう使えばよいかわからない」とわかることもあります。そうした時も、準備不足だったと責める必要はありません。わかった時点から、一緒に方法を考えればよいのです。
家に帰ることを決めてから相談するのではなく、家に帰れるか迷っている段階で相談していただいて構いません。
まとめ
退院は、病院という守られた場所から外へ出るように感じるかもしれません。でも、家に帰ることは、医療や支援から切り離されることではありません。病院から自宅へ場所が変わり、患者さんの暮らしに合わせて、支える人たちの形が変わるだけです。
不安が全くなく退院できる方は、きっと多くありません。「これで大丈夫だろうか」と思いながら家に帰り、実際に過ごしてみて、困ったことを一つずつ整えていく。そんな始まり方でも大丈夫です。
退院前に一番準備してほしいのは、たくさんの介護用品でも、完璧な知識でもありません。
困った時に、誰かに相談できる状態を作っておくこと。家で過ごす時間を、患者さんやご家族だけで背負わなくてよいように。私たちは、退院前から、その先の暮らしを一緒に考えていきたいと思っています。
執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳