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コラム 2026.07.16

終末期の点滴は必要?やらない方がいい?<後編>

点滴を打たれながら手を握られる高齢者

このコラムの紹介

終末期の点滴は、病名や飲水量だけで決めるものではありません。尿量、むくみ、胸水・腹水、活動量、意識、ご本人の希望まで見ながら、点滴が苦痛を軽くするのか、それとも負担を増やすのかを考えます。後編では、医師が点滴の適応を考える時のチェックポイントを整理し、実際にどのように結果を読み取るのか、ご本人やご家族が点滴を望む時に私たちが何を大切にしているのかをお伝えします。

はじめに|医師は何を見て、点滴をする・しないを決めるのか

前編では、食べることと点滴の違い、点滴でできること、研究やガイドラインで分かっていることをお伝えしました。
では、実際の診療では何を見て点滴をするか、しないかを考えるのでしょうか。後編では、私たちが患者さんの状態をどのように見ているのか、ご本人やご家族が点滴を望む時に何を大切にしているのかをお伝えします。

点滴を考える前に確認したいチェックリスト

終末期の点滴は、医師の経験や印象だけで何となく決めるものではありません。医師が何を見て判断しているのかをご家族にも共有できるよう、確認項目をチェックリストにまとめました。
このチェックリストは、ご家族だけで点滴の可否を決めるためのものではありません。在宅医や訪問看護師に相談する時に、患者さんの状態を整理するためのものです。分かる範囲で○をつけてみてください。

終末期の点滴_判断チェックリスト

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チェックリストの内容を参照しながら、点滴を検討しやすい時と、慎重に考えた方がよい時について見てみましょう。
点滴を検討しやすいのは、飲みたいのに飲めない理由があり、口渇や倦怠感など改善したい症状が明確で、尿量がある程度保たれ、むくみや胸水・腹水が強くない時です。発熱、嘔吐、下痢などで一時的に飲めなくなっている場合も、原因の治療とともに点滴で支える意味があります。頭頸部がんや嚥下障害などで経口摂取が難しくても、心臓や腎臓の働き、活動性が比較的保たれている方では、点滴が助けになることがあります。

反対に、尿がほとんど出ない、むくみ・胸水・腹水が強い、痰や呼吸苦が増えている、眠る時間が長い、針を強く嫌がる時は、点滴で苦痛が増えないか慎重に考えます。心不全や腎不全では水分が体にたまりやすく、腸閉塞や強い腹部膨満がある時は、点滴量が多いことで吐き気や膨満感が増すこともあります。
また、点滴を始めた後に、むくみや痰、ゼロゼロした呼吸、息苦しさが増える、尿が増えない、針の痛みや漏れが続く、点滴のために動きにくくなる、針を抜こうとして落ち着かなくなる場合には見直しが必要です。体が受け止められない水分を入れ続けることは、かえって最期の時間を苦しくしてしまう可能性があります。

チェックの数だけで結論は出しません。在宅では、これらの多くを問診、ご家族からの聞き取り、身体診察で確認できます。必要に応じて採血や超音波検査、レントゲンなどの検査を加えますが、点滴の判断の出発点は、患者さんの今の状態を丁寧に見ることです。

また、口の乾きと全身の脱水は同じではなく、点滴で口の乾きが必ず取れるわけでもありません。点滴をしない時も、痛み、息苦しさ、痰、吐き気、不安などを和らげるケアは続きます。「点滴をしない=何もしない」ではありません。

ご家族やご本人が点滴を望む時

ご家族が点滴を希望される背景には、「もっと一緒にいたい」「少しでも長く生きてほしい」「何もしないまま見ているのがつらい」という気持ちがあります。そう思うのは、無理もないことだと思います。

以前、終末期医療に慣れた医療者が、自分の大切な家族のことになると、普段より多くの点滴を望む場面を見たことがあります。医療の知識があっても、愛情というフィルターがかかれば、冷静でいることは難しい。私自身、家族の立場なら同じ気持ちになるかもしれません。

だからこそ、ご家族が点滴を希望する時には、その理由を少しだけ言葉にしてみてください。何もしないことへの罪悪感なのか、「食べられなくなったら点滴」というイメージなのか、点滴で元気になるという期待なのか。ご家族を責めるために伺うのではありません。理由が見えると、「今、ご本人とご家族に何が必要なのか。点滴以外にできることはないか」を考えやすくなるからです。

むすび在宅クリニックが大切にしていること

むすび在宅クリニックでは、終末期の点滴について「必要ありません」と一方的にお伝えすることはしません。反対に、「心配だから、とりあえず点滴をしておきましょう」と、目的が曖昧なまま始めることもしないようにしています。

まず、ご本人の状態を診ます。何がつらいのか、点滴で楽になる可能性があるのか、むくみや呼吸苦を増やさないか。そのうえで、ご本人の希望とご家族の思いを伺います。
ご本人が「点滴をしたい」「水を入れてほしい」と望む時も、その思いを最初から否定はしません。点滴によって苦痛が増えると考える医学的な理由があれば、分かる言葉で説明します。一方で、医学的に試す余地があると判断した場合には、点滴の量・成分・方法を調整し、目的を決めて短期間試し、効果と負担を確認して継続可否を判断することがあります。患者さんの状態は日々変わります。それまで適応があった点滴を減らした方がよい状態になることもあれば、発熱や嘔吐などをきっかけに、一時的に点滴が助けになる状態へ変わることもあります。始めた点滴を減らす、やめることも、体の状態に合わせた医療判断です。

患者さんの「生きたい」、ご家族の「何かしたい」という願いを、医療者が一刀両断しないこと。一方で、その願いだけを理由に、ご本人の苦痛を増やす医療を続けないこと。その間で、ご本人にとって何が一番よいのかを一緒に考えることが、私たちの役割だと思っています。
在宅緩和ケアで最も大切なのは、患者さんが苦しまずに済むこと。そして、穏やかな患者さんとご家族が、できるだけよい時間を過ごせることです。点滴に限らず、外出や旅行、食べたいものなど、「今やってみてよいかな」と迷う時も、この考え方を大切にしています。

点滴をすること、しないこと、途中で見直すこと。どの選択も、ご本人が少しでも穏やかに過ごすために考える医療です。ご家族が後から「これでよかったのだろうか」と一人で苦しまないように、迷っている理由も含めて、一緒に考えることを大切にしています。

まとめ|終末期の点滴は、それが緩和ケアになるかどうかが重要です

終末期の点滴は、必要なこともあります。しかし、多く入れればよいものではありません。楽になる方もいれば、むくみ、痰、呼吸苦などが増える方もいます。
「点滴をすることだけに生きる望みを託す」のではなく、「患者さんが少しでも楽に過ごせるにはどうしたらよいか」を考えましょう。点滴をしないことは、患者さんを見捨てることではありません。
迷った時は、ご家族だけで結論を出さず、在宅医や訪問看護師に相談してください。ご本人の体の状態と、ご家族の気持ちの両方を大切にしながら、その時に合った方法を一緒に考えていきましょう。

よくある質問

Q. 点滴をしないと、早く亡くなってしまうのでしょうか?
少なくとも、すべての終末期患者に「点滴をすれば余命が延びる」「点滴をしなければ亡くなる時期が早まる」と一律に言うことはできません。大切なのは、点滴でご本人の苦痛が軽くなる状態かを個別に判断することです。

Q. 家族が希望すれば、点滴をしてもらえますか?
当院では、ご家族の希望は大切に伺います。ただし、点滴でむくみや呼吸苦が悪化する可能性がある時は、目的と負担を慎重に考えます。医学的に試す余地がある場合には、量や方法を調整して検討することがあります。

Q. 点滴を始めた後に、途中でやめてもよいのでしょうか?
はい。点滴は、始めたら最後まで続けるものではありません。症状が楽になれば続け、むくみや痰が増えれば減らす、苦痛が増えるならやめるなど、状態に合わせて見直します。

Q. 栄養の点滴をすれば、体力は戻りますか?
終末期には、体が栄養や水分を利用する力そのものが低下していることがあり、栄養を入れれば体力が戻るとは限りません。高カロリー輸液には感染や血栓、血糖上昇、心臓・腎臓への負担もあるため、適応を慎重に考えます。

Q. 口が乾いている時は、点滴をした方がよいのでしょうか?
口の乾きは、点滴だけで解決しないことがあります。口の中を湿らせる、唇を保湿するなどのケアで楽になることもあります。むせや誤嚥が心配な場合は、在宅医や訪問看護師に相談してください。

執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳

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