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コラム 2026.07.09

終末期に食べられなくなったら<前編>

老人の前で悩む女性とごはん

このコラムの紹介

終末期に食べられなくなると、「少しでも食べさせた方がいいのでは」と不安になるご家族は少なくありません。けれど、「食べたいのに食べられない」のか、「食欲がなく食べたくない」のかによって、必要な支え方は異なります。前編では、食べられなくなる理由を整理し、食事の工夫や、患者さんの「食べたい」をできるだけ安全に支える方法、負担になりにくい声かけについてお伝えします。

はじめに

終末期の患者さんをご自宅で支えているご家族から、食べられないことに関するご相談をよくいただきます。「最近、ほとんど食べられなくなりました」「このまま食べなかったら、弱ってしまうのではないでしょうか」「少しでもいいから、何とか食べさせた方がいいのでしょうか」。

ご家族が不安になるのは、食べることが「生きること」と深く結びついているからです。その感覚は、とても自然なものです。でも、人の体は機械ではありません。栄養を入れれば必ず生きられる、食べさえすれば元気になる、というものではありません。
終末期には、病気の進行に伴って体が食べ物を受けつけにくくなることがあります。どれほど工夫をしても、食べること自体が負担になる時期が訪れることもあります。体のあらゆる臓器が働きを終えようとしている段階では、点滴や経管栄養を行っても、いのちを延ばすことが難しい場合があります。
その時に大切なのは、無理に食べさせることではありません。「生きていてほしい」「大切に思っている」というご家族の気持ちを、患者さんを苦しめない形で届けることです。この記事では、終末期に食べられなくなる理由と、ご自宅でできる支え方を整理します。

「食べられない」の中身を分けてみる

一言で「食べられない」といっても、その中身は一つではありません。まずは、患者さんが「食べたいのに食べられない」のか、それとも「食欲がなく、食べたくない」のかを分けてみると、必要な支援が見えやすくなります。実際には、複数の要因が重なっていることもあります。

食べたいのに食べられない場合

・食事を準備する、口に運ぶ、食べる姿勢を保つことが難しい
・食べ物を食べ物として理解しにくい
・噛む力が弱い、麻痺などでうまく噛めない
・飲み込む力が低下し、むせやすい
・食道・胃・十二指腸などの問題で、食べ物が通過しにくい
・腸閉塞などで腸の働きが悪く、食べ物や便が滞っている

食欲がなく、食べたくない場合

・薬の副作用で食欲が落ちている
・点滴や経管栄養などにより、空腹感を感じにくい
・味覚障害・嗅覚障害で、何を食べてもおいしく感じにくい
・食べると疲れてしまう
・体力が落ち、食べること自体が億劫になっている
・食べて生きながらえることに、心身が疲れている

病気の種類によっては、最初は「飲み込みにくい」「胃腸が受けつけない」といった状態が目立ちます。一方で、いのちの終わりが近づくにつれて、「食べると疲れる」「食べることが億劫」という状態に近づいていく方も多くいらっしゃいます。
体調や意欲は日によって変わります。昨日は食べられたのに今日は難しい、今日は難しかったけれど明日は少し口にできる、ということもあります。食べられた量だけで評価せず、その日の体調に合わせて、負担の少ない方法を選ぶことが大切です。

終末期に食べられなくなる理由

がんなどの病気が進行すると、体の中では炎症や代謝の変化が起こり、筋肉や脂肪が減りやすくなります。これは単なる栄養不足とは異なり、たくさん食べれば元に戻る、というものではありません。
また、胃腸の動きが弱くなる、少し食べただけでお腹が張る、吐き気が出る、便秘で食欲が落ちる、痛みや息苦しさで食べる気力がなくなる、口の中が乾く、味がわからない、眠っている時間が長くなるなど、いくつもの変化が重なります。食べ物を消化することにもエネルギーが必要ですが、その力が少しずつ残りにくくなっていきます。

ご家族から見ると、「食べないから弱ってしまう」と感じるかもしれません。けれど終末期では、「病気が進み、体が変化しているから食べられなくなる」という面が大きくなります。無理に食べさせようとすると、むせ、吐き気、息苦しさ、疲労感などにつながることがあります。
そのため、食べれば回復が見込める段階なのか、食べることが負担になっている時期なのかを、医師や看護師と確認しながら見極めていく必要があります

食べられなくなってきた段階でできる工夫

食べられなくなってきた初期の段階では、少しの工夫で口にしやすくなることがあります。まず大切なのは、1日3食や栄養バランスにこだわりすぎないことです。朝・昼・夕の量を気にしすぎると、患者さんにとってもご家族にとっても食事の時間がつらくなってしまいます。
この時期は、「食べたい時に」「食べられるものを」「少しだけ」で十分です。

・一口サイズにして、小皿に少量だけ盛る
・温かい料理のにおいがつらい時は、少し冷まして出す
・汁気の多いもの、ゼリー、プリン、アイス、果物などを試す
・おにぎりを小さくする、麺類を短く切る
・肉や魚はほぐす、あんかけにする
・飲み込みにくい時は、とろみを使う
・栄養補助食品は、少量ずつ試す
・食事の前に口の中を湿らせる
・食前の口腔ケアで、口の中を整える

「栄養のあるものを食べてほしい」と思うと、肉、魚、ご飯、野菜をそろえたくなります。けれど、この時期は栄養バランスよりも、本人が口にしやすいこと、飲み込みやすいこと、食べたあとに苦しくならないことを優先してよい時期です。一口でも、二口でも構いません。「今日はこれなら食べられた」「これは少しおいしいと感じられた」という小さな手がかりを大切にします。

食べたいのに食べられない時の支え方

患者さんの中には、「お寿司が食べたい」「ラーメンが食べたい」「昔よく食べていたものが食べたい」と話される方がいます。ご家族は、何とかその願いを叶えてあげたいと思います。
ただ実際には、飲み込む力が弱くなっていたり、数口で疲れてしまったり、においで気持ち悪くなってしまったりして、思うように食べられないことがあります。その時は、「全部食べる」ことを目標にしなくて大丈夫です。

お寿司なら、ネタを小さくして一口だけ味わう。ラーメンなら、スープを少しだけ口にする。うなぎなら、たれの味を楽しむ。コーヒーなら、香りを楽しむ。好きだったお菓子なら、ほんの少しかけらを口にする。食べることが難しくても、味や香りに触れる方法は残っています。

また、患者さん自身が「食べたい」と思っている時は、その気持ちを簡単にあきらめさせる必要はありません。おなかがすいている、食べたいと感じることは、体がまだ食べ物を求めているサインである場合もあります。私は経管栄養の量を調整する時にも、患者さんに「おなかがすいていますか」と伺うことがあります。体と心は切り離せないからです。

リハビリテーション科専門医として、患者さんが望んでいるのであれば、食べるための努力はできる限り支えていきたいと考えています。口、舌、首の筋肉を動かすこと、食べる姿勢を保つ練習をすること、少量で安全に試す方法を探ることは、緩和ケアの中でも大切な支援です。
「食べられない現実を受け入れましょう」と説得するのではなく、まずは「食べたい」という気持ちを大切にしてよいと思います。そのうえで、むせや窒息、吐き気、強い疲労につながらない範囲で、どこまでなら安全に試せるかを医療者と相談していきましょう。

食欲がない患者さんへの声かけ

食欲がない患者さんに対して、ご家族が一番悩むのは声かけです。「食べないとだめだよ」「少しでも食べて」「これだけ作ったから食べて」と言いたくなるのは、患者さんを大切に思うからこそです。けれど、その言葉が患者さんの負担になることもあります。
終末期の患者さんは、自分でも食べられないことを気にしていたり、家族が作ってくれたものを残すことに申し訳なさを感じていたりします。声かけは、食べることを求めるより、患者さんが選べる形にすると少し楽になります。

・食べられそうだったら、一口だけ舐めてみる?
・飲み込めなさそうだったら、出して大丈夫だよ
・残しても大丈夫
・においがつらかったら下げるね
・食べたくなかったら、またあとにしよう
・口だけ湿らせようか
・今日のスープ、味見だけしてみてくれない?

食事は、闘いの場ではなく、安心できる時間であってよいものです。ご家族も「食べさせなければならない」という役割から、少し離れてよいのです。

執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳

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