MENU

コラム 2023.10.17

家族に頼らない終活 3章−最期まで自分らしく−

家族に頼らない終活 3章―最期まで自分らしく―イメージ画像

ご自身が老いたり、亡くなったりすることを考えるのを快く思う方はいらっしゃらないと思いますが、この世に生まれた以上、老いと死は避けては通れない問題です。それに備えて終活をしておくかどうかで、最期まで自分らしさを貫けるかどうかが決まってきます。ここではどうすればできるだけ家族に負担をかけず、自分の人生を最期まで自分らしいものにできるのかをお伝えします。3章では「死後の手続きのこと」と「委任契約・任意後見契約・死後事務委任契約のこと」で何をどう決めておいたら良いかについてご説明します。

決めること④ 死後の手続きのこと

ご自身が亡くなった後の手続きはどんなに準備をしようとも、ひとの手を借りることになります。お世話になったケアマネジャーさんや訪問看護師さんがやってくれると思いきや、医療・介護関係者は死亡とともに契約が終了になってしまうため、協力を得られません。
ご家族がいらっしゃる方はご家族に託そうとお考えかと思いますが、手続きは煩雑であり、もし、老々介護の状態で、ご家族もご高齢であったなら、とてもこなせる量ではありません。
ですので、決められることは決めてエンディングノートなどに書いておき、膨大な事務作業は「死後事務委任契約」で信頼できるひとに任せるのがよいです。

以下に死亡直後の手続きについて記します。

死亡直後の手続きとタイムスケジュール 図

この中で、葬儀について、焼骨処理の方法、遺品整理、相続については、ご自身で決めたり準備したりしておくことができます。

葬儀は、大きく分けると一般葬、家族葬、直葬があり、通夜や告別式を行わずに火葬のみを行う直葬も増えてきています。葬儀の内容も多様化が進んでおり、費用も葬儀社によって全く異なるため、何軒かの葬儀社に生前相談に行かれることをお勧めします。お亡くなりになった哀しみの中でご家族が急いで葬儀社を探すのはとても大変です。

焼骨の処理も多様化しており、墓地や納骨堂の他に、樹木葬、海洋散骨などの選択肢があります。葬儀と焼骨処理について一緒にエンディングノートに記しておくと、遺された方が意向に添いやすいです。
遺品整理と相続については、所持品を少なくして、財産目録を作成し、遺産相続について遺言書に明記し、法定相続人にも話をつけておくと、無駄な争いを生みません。

決めること⑤ 委任契約・任意後見契約・死後事務委任契約のこと

ここまで①医療のこと、②最期を過ごす場所のこと、③お金のこと、④死後の手続きのことについてご説明しました。全てにおいて共通することは、自分で決めておけることもあるけれど、誰かに託さなければいけない時が必ず来るということです。家族・親族だからという理由ではなく、ご自身が誰に託したいかを考えるべきです。託す相手は友人や知人、弁護士や司法書士、居住区の自治体や社会福祉協議会などの選択肢がありますが、家族以外にお願いする場合は、しっかりした判断能力があるうちに、口約束ではなく契約を交わしておく必要があります。

誰かに財産管理や代理決定を任せるための契約は、「委任契約」「任意後見契約」「死後事務委任契約」の3つに分かれます。3つともご自身で契約できるだけのしっかりした判断能力があるうちに結ぶ契約で、人生のどの段階で効力を発揮するかが違います。

「委任契約」は、まだご自身で判断ができる段階にあるけれど、歩行困難などの身体的問題があったり、財産管理に自信がなかったりする場合に、各種手続きの相談やサポートを依頼する契約です。

「任意後見契約」は、将来的もし判断能力が十分でなくなれば財産管理や生活・医療・介護などの手配を任せる契約です。元気なうちに締結しておき、実際に判断能力が低下した場合には家庭裁判所に然るべき手続きをして効力を発揮します。その際には、任意後見人が横領していないかなどを監督するための、任意後見監督人も選任されます。

「死後事務委任契約」は、当人が亡くなった後の事務手続きを依頼するための契約です。後見人との契約は当人死亡により終了するため、死後の手続きは後見人には行えません。死後のことというと遺言が浮かぶかと思いますが、遺言は遺産の分配に関しての一方的な意思表示で、死後事務委任契約は亡くなった後にやってほしい手続きを相手方の承諾のもとに依頼する二者間の取り決めです。ちなみに、死亡届の提出は、同居の親族、その他の同居者、家主・地主又は家屋もしくは土地の管理人、同居の親族以外の親族、後見人・保佐人・補助人・任意後見人及び任意後見受任人にしかできませんので、ただの友人のままでは提出できません。

これらの契約は、ご自身の判断能力が低下した時のお金と生き方を委ねるとても重大なものになりますので、認知機能が問題なく、しっかりしているうちに検討し、依頼する相手が信頼に足る人物か見極めてください。

終わりに

「おひとり様でもお家で逝けますか?」というお問合せを時々いただきます。それはその方の病状や資金、お家の環境にもよるため、安易な返答はできませんが、医学的な観点から言うと、覚悟さえあれば、おひとり暮らしでも、どんな病気の方でも、お家での看取りはできます。しかしながら、医療・介護従事者は患者さんの命やお金に関する決定はできませんし、患者さんと医療・介護従事者の契約は逝去された時点で切れてしまいます。亡くなった後のことを誰に託すかが決まっていないと、心から安心しては逝けないでしょう。

2040年には、練馬区のひとり暮らし高齢者は約9万人となり、高齢者の約2人に1人がひとり暮らし高齢者となる見込みです。その時に向けて、ひとり暮らしの方でも安心してお家で旅立てる制度とガイドライン作りが至急の課題です。

在宅医療の現場では、医療者も介護者も自分の役割に境界を設けすぎず、誰の仕事でもない範囲をちょっとずつカバーしあって、専門職につなげる橋渡しをして、患者さんを支えて行かなければいけないと、日々思っています。

執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳

トップ/スペシャルコンテンツ/コラム/家族に頼らない終活 3章−最期まで自分らしく−