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コラム 2023.10.17

家族に頼らない終活 1章−最期まで自分らしく−

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ご自身が老いたり、亡くなったりすることを考えるのを快く思う方はいらっしゃらないと思いますが、この世に生まれた以上、老いと死は避けては通れない問題です。それに備えて終活をしておくかどうかで、最期まで自分らしさを貫けるかどうかが決まってきます。ここではどうすればできるだけ家族に負担をかけず、自分の人生を最期まで自分らしいものにできるのかをお伝えします。1章では、終活で大事な2つのポイントと、「医療のこと」について何をどう決めておいたら良いかについてご説明します。

自分のために。終活で大事な2つのポイント

進行がんなどの重篤な病気を抱えた患者さんや、ご高齢で生活が困難になってきた患者さんに、「これからの人生をどう過ごしたいですか?」と問うと、多くの方々が真っ先に「家族に(あるいは人様に)迷惑をかけたくない」とおっしゃいます。

厚生労働省が令和4年度に行った「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」の結果報告書でも、「どこで最期を迎えたいかを考える際に、重要だと思うことはなんですか?」という質問に、一般国民の71.6%が「家族等の負担にならないこと」を挙げており、最も多い回答(複数回答可)でした。

厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」

厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」より

しかしながら、現代社会においては、ひとに全く頼らずに命を全うし、死後の手続きを済ませることは不可能です。病気や怪我で体が不自由になったら、その方の身の周りのことを誰かが代わりに行う必要があります。また、自分で物事を決められない状態になったときに、代わりに決めたり、行政の手続きや各種契約をしたりしてくれるひとが絶対に必要です。亡くなった後のことは自分ではできませんし、事前に済ませておくこともできませんから、それもひとに頼らねばなりません。

家族がいる方は、家族に任せることが多いですが、様々な事情で家族を頼りたくないと思っていらっしゃる方も増えています。また、生き方の多様化が進み、おひとり様も増えている現状があります。
ケアマネジャーさんやヘルパーさんは、介護は行えてもお金や命に関わることを決める権限はありません。お金と命に関わる契約や手続きを家族以外に依頼するには、自分で判断できる能力があるうちに、特別な準備が必要です。
ここでは、どうすればできるだけ家族に負担をかけず、自分の人生を最期まで自分らしいものにできるのかをお伝えします。

大事なポイントは2点です。

  • まだ大丈夫と考えることを先延ばしにせずに、しっかりした判断能力のある“いま”考え、決めて、準備を始める。
  • 自分自身の意思を伝えられなくなったり、適切な判断ができなくなったりしたときに、代理決定を託せる、信頼できる人を見つけ、口頭ではなく文書で契約をする。

できるだけ後悔のない人生にするには「自分で決めること」と「後を託せるひとがいること」がとても重要です。

では、具体的にどんなことを決めておけば良いのでしょうか?
決めておくべき内容は、①医療のこと、②最期の時間を過ごす場所のこと、③お金のこと、④死後の手続きのこと、⑤委任契約・任意後見契約・死後事務処理契約のことの5つです。

決めること① 医療のこと

ご自身が命に関わるような病気や怪我を負った時のことを想像したくはないと思いますが、そうなったときにはもう自分自身で決められる状況ではない可能性が高いので、今のうちに考えておきましょう。

  • 回復の見込みのない状況で、その事実やその後に起こり得る症状、余命について知りたいですか?
    回答例:意識がしっかりしていれば知りたいが、認知症などですぐに忘れてしまうような状態なら知りたくはない。ただし、嘘はつかないでほしい。
  • 回復の見込みのない状況でもできる限りの医療や延命治療を希望しますか?
    延命治療の例:人工呼吸器、心臓マッサージ(胸骨圧迫)、胃瘻や点滴による栄養投与
  • 最期の時間を過ごす場所としてどこを希望しますか?
    場所の例:自宅、有料老人ホームなどの施設、病院
  • ご自身の人生の最終段階で一番譲れない、大事にしたいことはなんですか?
    回答例:痛みや苦しさがなく過ごせること。住みなれた家で最期を過ごすこと。

ひとは永遠には生きられないので、いつか、その時はやってきます。認知症などの疾患で徐々に衰えて行くのか、心筋梗塞などの急性疾患に見舞われるのか、がんなどで長い闘病生活ののちにその時を迎えるのか、それはわかりません。すべての可能性について考えておくことはできませんので、どんなに決めておいてもそれ以外のことが起きた時には、代理のひとに決めてもらわなければいけません。それでも、上記の4点について決めておけば、医療従事者も代理意思決定者も判断がしやすくなります。4つ目の質問は、その他の3つの回答が状況によって矛盾する希望になってしまうことがあるために入れています。例えば、回復の見込みがなくても人工呼吸器の使用を希望しているが、人工呼吸器があるとおひとり暮らしのご自宅には戻れない場合などです。

決めた内容がいざという時に周囲の人に伝わらなければ希望を叶えることはできませんので、決めたことを書面にして、2部用意し、1部は常に持ち歩く荷物に入れ、もう1部は信頼できる人に託すと良いです。これはリビングウィル(終末期医療に関する事前指示書)などと呼ばれるもので、遺言書とは違いますので、決まった書き方はなく、公正証書でないと適応されないなどの心配はありません。何度でも書き直しができますが、日付は記しておいた方が最新のものがどれかわかります。

執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳

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