体験談 2025.10.07
体験談vol.23 樺澤キヌさんの次女さん③

・患者さんの病名:大腸がん
・患者さんの年齢:103歳(享年)
・闘病期間:発症から逝去まで3ヶ月
・訪問診療を受けた期間:約2ヶ月半
・家族構成:次女さんと2人暮らし、隣県に長女さん家族、近隣に三女さん家族在住
・インタビューに答えてくださる方:次女さん(70歳)
・インタビューの時期:逝去から1年4ヶ月後
目次
キヌさんを看取る時はどんなお気持ちでしたか?
覚悟はしていても、どうなるのかわからず、とても怖かったです。香西先生や看護師さんからこれから起こることを説明してもらい、実際その通りになって行ったのだけれど、70年ずっと一緒に過ごしてきた母を失うということが、とても怖かったのです。姉や妹は20歳くらいで結婚して家を出たので、私とはまた母に対する思いが違うのかなと思います。母のことで私しか知らないこともたくさんあったし、ふたりだけの思い出もいっぱいあるのです。だから、姉や妹のように冷静でいられず、「一緒にいないからわからないのよ!」と言ってしまいそうになったこともありました。それでも、そんなふうに私がとても感情的で不安定になっていたから、姉や妹のように冷静に寄り添ってくれるひとがいるというのはとても大きかったと思います。私ひとりだったらもっと不安だったと思います。
母の介護と看取りを通して、私はひとに頼るということを学びました。それまでは、あまり頼らなければいけない場面に遭遇することがなかったように思いますが、介護の時はいろんなひとに助けてもらいました。お隣に住む従姉妹とも、それまでそんなに交流はなかったのですが、母のことを相談するうちにとても仲良くなり、逆に従姉妹が介護で困るような時には必ず力になろうと思っています。
介護と看取りをしてみてわかること、それでしか得られないことがたくさんあるので、仕事や育児などほかのことで精一杯の状況でなければ、みなさんに在宅介護や看取りをお薦めしたいと思いました。
先日、母の1歳年上のお友達が106歳の誕生日を迎えたと連絡をいただきました。うちの母も生きていたら105歳なのかと思いました。世間一般から見るとすごい歳なんだと思いますが、身内にとっては何歳になっても母は母で、いつまでも長生きしてほしいものなんです。その106歳の方は、「もう十分生きたからいい」と言っているらしいのですが、私は「そんなことはない。元気で長く生きられるのがいいのだから」と娘の立場として思います。その方の娘さんに「私ができなかったことをもっとやってあげてください」と伝えました。
訪問診療や訪問看護、訪問調剤を受けてみてどうでしたか?
母は通院するのが大変になっていたので、いつか訪問診療を依頼したいと思っていましたが、長年通っていたクリニックの先生になかなか言い出しにくくて、タイミングを図っていました。大腸がんと診断されたのを契機に訪問診療のクリニック宛の診療情報提供書(紹介状)を書いて欲しいと思い切って伝えたら、先生はすんなり書いてくれました。
友人やケアマネジャーから訪問診療の話は聞いていて、なんとなくイメージはありましたが、初めての経験なので、最初はいろいろと戸惑いました。こんなに大勢のひとに来てもらう必要があるのかなと思いましたが、最後にはこれがチーム医療なんだと理解できました。
例えば、薬剤師さんに家に来てもらって何をしてもらうのだろうと疑問に思いました。家の近所にも薬局はたくさんあって、私が薬を取りに行けるのに、なんで家まで持ってきてもらう必要があるのかわかりませんでした。でも、だんだん母の状態が変わってきて、薬剤師さんの必要性を実感するようになりました。近くの薬局では取り扱いのない注射の薬などを手配してもらったり、薬がどんどん変わるので私が把握できなくなり、何度も薬の説明をしてもらったり、私が自分でお薬カレンダーにセットしようとしてごちゃごちゃになってしまった時にセットし直してもらったりして、ああ、薬剤師さんが家に来てくれて本当によかったと思いました。
あと、訪問診療の24時間対応というのは24時間いつでも医師が患者のそばにいてくれたり、そばにいないとしてもなにかあったら飛んできたりしてくれるという意味だと思っていました。だから、先生に電話がすぐ繋がらず、折り返しの連絡を待っているときや、私が電話で先生に状況を説明した後で「まず看護師さんに向かってもらいます」と言われた時は、戸惑いました。本人が痛がったり、苦しがったりしているときはこっちも必死だから、慌ててしまっていて。
でも、病院でもナースコールを押したらまず来てくれるのは看護師さんだし、先生もたくさんの患者さんの対応をしているのだからすぐに電話に出られない時があるというのは、しばらくしてからようやくわかりました。24時間対応というのは、看護師さんや薬剤師さんも含めてチームで24時間患者さんの対応にあたりますという意味だったのですね。24時間連絡はできるけれど、在宅療養を選んだからには、全部医師や看護師さんに頼り切れるわけではなく、家族がまず最前線で患者を看る覚悟が必要なんだなと、やってみてようやくわかりました。
経験してみないとわからないことだらけでしたが、いろいろわかったいまは、そういった状況のなかで、本当にみなさんにお世話になったと感謝しています。在宅で母を看取ったことに後悔はありません。
よりよい在宅介護を行っていくために、どういうものがあれば良いでしょうか?
介護をし始めてすぐは、母のどういうところに着目したら良いかわかりませんでした。でも、香西先生や看護師さんに毎回、排泄や食事内容、薬を飲んだ時間などを聞かれるたびに、だんだんそういうことを記録しておかないといけないのだなとわかってきました。最初はカレンダーに書き込んでいたのですが、とても書ききれなくなり、ノートに書くようになりましたが、それでもごちゃごちゃして自分でもどこに何を書いてあるのかがぱっとわからない状態でした。
私は喘息の既往があり、以前喘息日記というものを専用のノートにつけていました。症状のあるところに丸をするなど、短時間で簡便に記録できるようになっており、表になっているので振り返りもしやすかったです。医療用麻薬でもそういうノートを作っているメーカーもあると聞きました。介護記録ノートというものも販売されているのを最近になって知りました。そういうものを先生がアレンジして、先生が知りたい項目がわかるようなものを作っていただけたら嬉しいです。
私が書き込んだカレンダーもノートも一生懸命母と一緒に頑張った思い出が詰まっているから、大事にとってあります。介護の記録は家族にとって、大切な思い出になると思います。
次女さんご自身は、お家で最期まで過ごしたいと思われますか?
一生は無理だったとしても、あと10年はひとの手を借りずに過ごせたらと思っています。新居は2階建の一軒家ですが、2階に上がれなくなっても1階だけで生活できるような間取りにして、バリアフリーにも配慮しました。
だけど、母のように面倒を見てくれる子どもはいないので、最期までとなるとどうなんだろうなと思います。姪や甥にもそれぞれの生活がありますし、子どもの人数が私たちの時とは違いますから、自分たちの親を看るのですら大変でしょう。私のようなおひとり様でも香西先生や看護師さんたちに来てもらって、家で過ごしていけるといいなと思っています。
70歳を超えたいま、母が「長生きはしんどい」と口癖のように言っていたことが身に染みてわかってきました。気持ちと体に乖離があり、思うように動かないことがもどかしいです。もっとも母が言っていたのは90歳を過ぎてからなんですけどね。
そんな母は80歳で海外デビューしました。姪の留学先の中国に遊びに行き、その後パスポートは5年間有効だからと、ハワイにも2回行きました。疲れを知らない超人だと思います。母は103歳と長生きでしたが、特に長寿の家系ではないんです。母は7人きょうだいで、ほとんどの方は80代で亡くなり、母が最後に残りました。私は何歳まで生きるんだろう、母はがんだし、父は脳梗塞だったけど、どっちになるのも嫌だなぁと思ってしまいます。
でも、母の最後は老衰のように見えました。ご飯がだんだん食べられなくなって、衰弱していって、眠っている時間が長くなり、最期も眠っているようでした。母は元気な頃、「どうやったら、老衰で死ねるんだろう」と言っていましたが、まさにあれが老衰みたいなものなんじゃないかなと思いました。母が103歳まで天寿をまっとうして、よかったと思います。
いろんな医師に会ってきたと思いますが、どんな医師を望みますか?
患者の話をしっかり聞いてくれて、痛いところなどをきちんと触って診察してくれる先生がいいと思います。最近はパソコンをずっと見て、パソコンと戦っているような先生が多いですが、患者と向き合って欲しいです。どんなにいい先生でもひととひとですから、相性はあると思うんです。自分に合う先生と出会えることが大事ですね。
最近甥が病気になり、診断がつくまでの3ヶ月間、散々あちこちの病院や診療科をたらい回しとなり、本人も、同行していた私もとてもつらい思いをしました。初めからしっかり問診と身体診察をしてくれていたら、もっと早く診断に辿り着けたんじゃないかなと思いました。また、検査結果や紹介先の受診日を待つまでの1週間が患者にとってどれほど長い時間かを先生は理解してほしいと感じました。診断が付かなくても、痛みをとる緩和ケアはすぐに始めてほしいです。特に、医師がどんなふうに考えているのかももっと説明してもらえたら、待っている間の気持ちももう少し穏やかでいられるかなと思います。
病院でも訪問診療でも、私たち患者は何もわからないから、医師を頼るしかないんです。私たちが自分たちの話を聞いてもらえた、わかってもらえたと安心できて、そして納得のいく説明と治療をしてくれる医師が、たくさん増えてくれると嬉しいです。
編集:児玉紘一
執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳
対談日:2025年某月