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コラム 2026.08.28

ACP(人生会議)とは?

エンディングノートを持ちながら話している高齢女性とそばに寄り添う家族・医師・看護師たち

このコラムの紹介

「延命治療は希望しません」と伝えても、避けたい状態や受けたい治療は人によって異なります。ACP(人生会議)は、医療行為の選択欄を埋めることではなく、自分が大切にしたいことを、ご家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合う過程です。本記事では、話し合っておきたい内容と、医師へ伝える具体的な言葉を紹介します。迷いが残る時の伝え方や、希望はいつでも見直してよいこともお伝えします。

はじめに 答えではなく、「大切にしたいこと」から始めます

入院や施設への入所をきっかけに、「心臓が止まったら心肺蘇生を希望しますか」「人工呼吸器を使いますか」と突然尋ねられ、どう答えればよいかわからなかった――。患者さんやご家族から、そのような戸惑いを伺うことがあります。
将来の医療を決めにくいのは、知識が足りないからではありません。治療を受けた後にどこまで回復できるのか、会話や食事ができるのか、自宅へ戻れるのかによって、同じ治療への考え方も変わるからです。「今はまだわからない」という答えも、迷いを含めた大切な意思です。
ACP(Advance Care Planning:アドバンス・ケア・プランニング、人生会議)は、これから起こるすべてを予測し、治療の可否を今すぐ決め切るためのものではありません。自分が大切にしたい暮らし、特に避けたい状態、判断できなくなった時に思いを伝えてほしい人を、家族や医療・ケアチームと繰り返し共有する話し合いです。書類を完成させることが目的ではなく、病状や生活、気持ちが変われば、何度でも見直すことができます。

「延命治療は希望しない」は、話し合いの入口です

厚生労働省の令和4年度調査では、一般国民3,000人に対し、「病気で治る見込みがなく、およそ1年以内に徐々に、あるいは急に死に至る」と想定した場合の治療希望を、医療行為ごとに尋ねています。結果は、治療によって大きく異なりました。
尋ねられた医療行為についての表出典:厚生労働省「令和4年度 人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」一般国民 n=3,000

この結果からも、「延命治療」という一言だけでは希望を表しきれないことがわかります。点滴は受けたいが心肺蘇生は望まない方、回復が見込める場合に限り一時的な人工呼吸器を受けたい方もいます。また、「わからない」が2割を超える項目があり、病状や回復の見込みがわからなければ決められないという自然な迷いも含まれます。「延命治療は希望しない」は結論ではなく、何を避け、どのような時なら治療を受けたいかを話し合う入口です。

守りたいことと、避けたい状態を言葉にします

将来起こるすべての場面を想像することはできません。そこで、細かな医療行為の前に、自分にとって譲れないものを言葉にします。会話ができること、食べる楽しみ、家族との時間、自宅での生活、仕事や役割など、自分の生活を支えているものを伝えてください。
同時に、意識が戻らないこと、強い苦痛が続くこと、家へ帰れないこと、自分で何も決められない状態が長く続くことなど、特に避けたい状態も共有します。

「迷惑をかけたくない」という言葉の奥にあるもの

「家族に迷惑をかけたくない」と話す方は少なくありません。その言葉には、ご家族への思いやりと同時に、介護、費用、時間、急変時の対応、自分で決められなくなることへの不安が重なっています。
ただし、この言葉をそのまま「治療や介護を望まない」と受け取るべきではありません。何を負担と感じているのかを具体的にし、訪問診療、訪問看護、介護サービス、短期入院などで軽くできる負担がないかを考えます。ご本人の希望と、ご家族が現実に担えることの両方を丁寧に確認することが必要です。少なくとも、貧困や社会情勢、年齢、身寄りのないことなどが「治療や介護を望まない」へ向かわせるような世の中のあり方だけは絶対にあってはなりません。

具体的な医療・ケアについて話し合いたい4つのこと

心停止した時に心肺蘇生を希望するか

胸骨圧迫や除細動、気管挿管などを含む心肺蘇生によって、どの程度の回復が見込めるかを聞いたうえで考えます。これはDNARに関する話し合いです。

心停止に至る前の治療をどこまで受けたいか

酸素、点滴、抗菌薬、輸血、救急搬送、入院、ICU、気管挿管・人工呼吸器、透析、人工栄養などを一括りにせず、回復可能性と負担に応じて考えます。

どこで、誰と、どのように過ごしたいか

できるだけ自宅で過ごしたいのか、改善が見込める時は入院したいのか、最期が近い時も救急搬送を望むのかを話し合います。

自分で決められない時、誰に思いを伝えてほしいか

「本人ならどう考えるか」を伝えてほしい人を決め、その方にも自分の価値観を共有します。その方が単独で治療方針を決めるのではなく、本人の言葉や生き方を手掛かりに、医療・ケアチームと一緒に本人にとっての最善を考える役割です。
在宅療養であれば、急変時にまず訪問診療や訪問看護へ連絡するのか、どの症状では救急車を呼ぶのかも確認します。話し合った内容は診療録や連携文書へ残し、ご家族、病院、在宅チーム、施設などで共有できるようにします。

自分が望む医療を、医師にどう伝えるか

医師に伝える時は、医療行為の一覧だけでなく、自分が大切にしたいことから話すと伝わりやすくなります。次の文章は一例です。すべてをそのまま使う必要はありません。

“私は、意識が戻る見込みがほとんどない状態で、人工呼吸器や薬によって体の機能だけを維持することは望みません。一方で、意識があり、苦痛が和らぐ可能性や家に戻れる可能性がある治療は受けたいです。心停止時の心肺蘇生は希望しませんが、心停止する前の酸素、点滴、抗菌薬、輸血、入院などは、その時の回復の見込みと負担を説明してもらい、個別に考えたいです。”

「今は決められないので、その時の病状と回復の見込みを聞いて考えたい」と伝えることも、正当な希望です。

関連資料 ACP(人生会議)を考えるための質問票

今の気持ちを整理し、ご家族や医療・ケアチームと話し合うきっかけとしてご利用ください。治療方針を決める同意書ではなく、答えはいつでも見直せます。
ACP(人生会議)を考えるための質問票

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おわりに 希望は変わって構いません

ACPで大切なのは、一度で正しい答えを出すことではありません。病気や介護を経験すれば、考えが変わることもあります。医療者は一つの同意を「とる」のではなく、患者さんの言葉を一緒にほどき、その時々の最善を考え続けます。命の長さだけではなく、残された時間を患者さん自身のものとして守る。そのための対話がACPです。

参考資料

厚生労働省「令和4年度 人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」
厚生労働省「人生会議」
厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」

執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳

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