コラム 2026.08.07
訪問診療の費用はいくら?<1章>

目次
このコラムの紹介
訪問診療の費用は、「1回いくら」と一つの金額では表せません。訪問回数、年齢や所得、自己負担割合、介護保険、公費医療の受給者証、在宅酸素や人工呼吸器などの医療内容によって変わるためです。第1章では、費用計算に必要な6つの項目を確認したうえで、代表的な5つの症例で2026年時点での具体的な月額を示します。まず「月2回訪問の基本額」と「制度を使った上限額」を分けて考え、ご自身に近い例を探してみましょう。
はじめに|訪問診療は「1回いくら」ではありません
訪問診療を検討する時、「家まで来てもらうと、毎月いくらかかるのだろう」と心配になるのは当然で、お問い合わせいただく際にも、まず費用のことを質問されることが多いです。ただ、訪問診療の費用は、外来のように診察ごとに1回分を支払う仕組みではありません。1か月に何回診察するか、臨時の往診があるか、検査や処置を行うかによって変わります。入院した初日に、退院までの入院費を確定できないのと似ています。
さらに、医療の価格に当たる診療報酬は原則2年に1回改定されます。2026年6月にも改定があり、同じ診療内容でも以前と金額が異なる項目があります。また、2026年8月診療分からは高額療養費制度が改定され、所得区分に応じた限度額も変更されました。
医療事務の担当者でも確認が必要になるほど、診療報酬の点数計算や医療・介護保険制度は複雑です。その詳細を覚えていただく必要はありません。ご自身の場合に、通常の月はいくらくらいかかるのか、病状が変わった月はどこまで増える可能性があるのか、使える制度は何かを、ざっくり見通せるようにすることがこの記事の目的です。
なお、症例別の金額は、2026年8月診療分からの制度上の点数・単位に基づいています。実際の目安に幅がある場合は、その範囲も併記しています。介護報酬の地域区分など、一部の説明は省略していますので、あらかじめご了承ください。
費用を考える時に確認したい6つの項目
訪問診療の月額を考える時は、次の①〜⑥の6つの項目を確認する必要があります。お手元にマイナ保険証・資格確認書と、お持ちであれば介護保険被保険者証・負担割合証、難病等の受給者証をご用意いただき、下記の表を埋めてみましょう。(年齢を記載し、該当する項目に丸をつけてください)

印刷したい方はこちら

診察は月1~2回で足りそうか、頻回に必要そうか
高血圧、糖尿病、認知症などの慢性疾患が比較的安定し、現在1~3か月に1回通院している方は、月1~2回の定期訪問から始まることが多いです。一方、進行がん、パーキンソン病などの神経難病、肺炎や転倒を繰り返す方、今まさに何かの症状で困っている方は、状態に合わせて訪問回数が増え、時には連日の診療が必要になることもあります。
70歳未満か、70歳以上か。所得区分はどこか
高額療養費の限度額は、70歳未満と70歳以上で表が分かれ、さらに所得や住民税の課税状況によって変わります。年齢だけでは上限が決まらないため、マイナ保険証の資格情報や資格確認書、加入している保険者の案内で区分を確認します。
医療保険の自己負担は1割・2割・3割のどれか
医療保険の自己負担割合は、年齢と所得により1~3割です。75歳以上は原則1割ですが、一定以上の所得がある方は2割、現役並み所得の方は3割です。70~74歳は原則2割、70歳未満は原則3割です。
要介護・要支援認定と、介護保険の負担割合
要介護・要支援認定がある方には、医療保険の診療費とは別に、介護保険の居宅療養管理指導費がかかることがあります。医療保険が3割でも介護保険は1割ということがあるため、医療と介護の負担割合は別々に確認します。介護保険の認定がなくても、訪問診療そのものは受けられます。
限度額区分や、公費医療・特定疾病の受給者証があるか
高額療養費の限度額情報、東京都のマル障、特定医療費(指定難病)受給者証、自立支援医療受給者証などがあると、窓口負担が軽くなる場合があります。人工透析を行う慢性腎不全、血友病などでは、加入する医療保険へ申請して「特定疾病療養受療証」の交付を受けると、対象治療の月額負担が原則10,000円、一定の高所得の70歳未満の人工透析では20,000円になる制度もあります。
なお、医療費控除は確定申告で税負担を軽くする制度であり、受給者証のように毎月の窓口負担を自動的に下げるものではありません。マイナ保険証で限度額情報を確認できる場合は、紙の限度額適用認定証をあらかじめ取得する必要は原則ありません。取得方法と払い戻しの手続きは、第3章で説明します。
在宅酸素、持続注射などの特別な医療が必要か
在宅酸素療法、人工呼吸器、糖尿病のインスリン、中心静脈栄養、経管栄養、麻薬の持続注射などには、指導管理料、機器の加算、薬剤や材料の費用が加わります。同じ訪問回数でも、これらの医療行為がある月は金額が上がります。
訪問頻度が低いか高いかで、費用の見方を分けます
病状が比較的安定している方は、「月1~2回の基本額」を見ます
月1~2回の訪問で、採血、点滴、処置、特別な医療機器などがない方は、通常月の基本額が目安になります。当院でご自宅へ月2回訪問する場合、医療保険と居宅療養管理指導費を合わせ、医療・介護とも1割負担の方は月7,000~8,500円程度です。よく、訪問診療の費用は7,000円程度と言われるのはこの金額を元にしています。
訪問が増えそうな方は、上限額を確認しておきます
病状が変わりやすい方は、訪問回数、往診時間(夜間・休日)、検査、処置、薬剤などによって毎月の金額が大きく変わります。この場合は、1回ごとの金額を考えるとストレスになりますので、「高額療養費や公費医療の制度を適用した場合、自分の負担上限額はいくらか」を先に確認した方が、家計の見通しを立てやすくなります。
5つの症例で分かる、訪問診療の具体的な費用
以下に、2026年8月診療分からの点数と限度額を使った説明用の症例A〜Eを提示します。
訪問頻度が低い症例AとEは月2回の実額を示します。訪問頻度が高い症例BとDは高額療養費の上限まで達した時、症例Cは指定難病の対象となる医療と介護保険サービスを合算して月額上限まで達した時の金額です。実際には、所得区分、病状、算定できる加算、薬剤や材料などによって変わります。
症例A~Eの条件と費用の目安
※ご自宅で同じ建物の診療対象者が1人の場合を想定した架空の例です。
※薬局や医療保険の訪問看護は合算できる場合がありますが、介護保険、交通費、自費診療などは高額療養費に含まれません。ただし、指定難病の医療費助成では、対象疾病に関する居宅療養管理指導など、一部の介護保険サービスも受給者証の月額上限に合算されます。
※実際の請求額を保証するものではありません。
症例A|月2回・82歳・医療1割・介護1割・特別な医療なし
プロフィール|Aさん(82歳・女性)。高血圧と軽度の認知症があり、歩行が不安定になって通院が難しくなりました。病状は比較的安定しており、月2回の定期訪問を受けています。
月2回の基本計算は、医療保険分6,485円と介護保険の居宅療養管理指導費598円で、合計7,083円です。情報連携や診療開始直後などの加算が加わることがあるため、当院では実際の目安を月7,000~8,500円程度とご案内しています。
この症例の目安:基本計算は月7,083円、実際の目安は月7,000~8,500円程度です。薬局、訪問看護、検査・処置などは別です。
症例B|高頻度・78歳・医療1割・介護1割・在宅酸素
プロフィール|Bさん(78歳・男性)。慢性閉塞性肺疾患による慢性呼吸不全があり、在宅酸素を使用しています。最近は息苦しさが強く、訪問回数が増えています。所得区分は70歳以上の「一般」です。
診察、在宅酸素、検査や薬剤などを合わせ、医療保険分が高額療養費の上限まで達した月を考えます。70歳以上の一般所得の方の外来上限は、2026年8月診療分から22,000円です。
介護保険1割の居宅療養管理指導費598円は別にかかるため、合計は22,598円です。医療保険分が上限に届かなかった月は、実際に算定された金額を支払います。
この症例の上限到達時の目安:月22,598円です。所得区分が「一般」以外の方は上限が異なり、交通費や自費診療は別です。
症例C|高頻度・76歳・指定難病・医療1割・介護1割・人工呼吸器
プロフィール|Cさん(76歳・女性)。筋萎縮性側索硬化症(ALS)で人工呼吸器を使用し、特定医療費(指定難病)受給者証の「人工呼吸器等装着者」に認定されています。
人工呼吸器の管理や訪問回数が増えても、認定された指定難病に関する医療費と、対象となる一部の介護保険サービスの自己負担を合算し、受給者証に記載された月額上限までとなります。この例では「人工呼吸器等装着者」の月額上限1,000円を用います。
この例の居宅療養管理指導は、指定難病の助成対象となる介護保険サービスに含まれます。そのため、医療保険分1,000円に居宅療養管理指導費598円を別に足すのではなく、対象となる医療と介護を合わせた自己負担の上限が1,000円です。
この症例の上限目安:医療と対象となる介護を合わせて月1,000円です。ただし、この上限は人工呼吸器を使うすべての方に自動的に適用されるわけではありません。対象疾病、人工呼吸器等装着者の認定、受けた医療・介護と対象疾病との関係、提供機関が指定医療機関等であることなどを確認します。
症例D|高頻度・68歳・医療3割・介護3割・がんの麻薬持続注射
プロフィール|Dさん(68歳・男性)。進行大腸がんによる痛みが強く、医療用麻薬の持続注射を行っています。医療保険は年収約370万~770万円の区分、介護保険は3割負担で、月の保険適用前の総医療費を30万円と仮定します。
高額療養費による医療保険分の上限は、2026年8月診療分から85,800円+(総医療費-286,000円)×1%です。総医療費30万円の場合は85,940円になります。
介護保険3割の居宅療養管理指導費は月2回で1,794円です。医療保険分と合わせると87,734円です。
この症例の上限目安:月87,734円です。総医療費や所得区分が異なれば上限も変わります。薬局や医療保険の訪問看護を合算する場合は、後日、加入する保険者への申請が必要になることがあります。支給まで3~4か月程度かかることがあり、まとまった支払いが難しい時は、高額医療費貸付制度の有無も保険者へ確認します。案内や申請方法は保険者によって異なります。
症例E|月2回・55歳・医療3割・介護認定なし・特別な医療なし
プロフィール|Eさん(55歳・女性)。慢性心不全と腰部脊柱管狭窄症があり、外来への通院が難しくなりました。病状は安定しており、介護保険の認定は受けずに月2回の訪問診療を利用しています。
症例Aと同じ医療保険の基本部分6,485点を3割で計算すると、自己負担は19,455円です。介護保険の認定がないため、この例では居宅療養管理指導費はかかりません。診療開始時や情報連携に関する加算、検査、処置、薬剤などがあれば増えます。
この症例の目安:医療保険分は月19,455円です。介護保険の認定がないことは、訪問診療を受けられない理由にはなりません。
第1章のまとめ|まずはご自身に近い症例から考えます
病状が比較的安定し、月1~2回の訪問であれば、まず月2回訪問の基本額を目安にできます。一方、訪問回数や医療行為が増える時は、公費医療や高額療養費による上限額も確認します。症例はあくまで目安ですが、ご自身に近い条件を見つけることで、相談時に確認したいことが見えやすくなります。次の章では、診療報酬の内訳と、費用が増減する場面を詳しく見ていきます。
情報の基準日・参考資料
本稿は2026年8月時点の制度・診療報酬に基づいています。高額療養費の自己負担限度額は、2026年8月診療分からの内容を記載しています。今後の制度改正や自治体の取扱いにより変更される可能性があるため、実際の適用区分・申請方法は、加入する医療保険、住民票のある区市町村、各医療機関へご確認ください。
・厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」
・厚生労働省「令和8年度介護報酬の算定構造」
・東京都保健医療局「難病医療費助成の助成内容」
・全国健康保険協会「高額療養費(特定疾病療養受療証・高額医療費貸付制度)」
執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳