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コラム 2026.07.27

せん妄とは?急な混乱・幻覚が出た時にできること<後編>

高齢者の背中を摩って安心させる家族

このコラムの紹介

せん妄が起きた時、ご家族だけで原因を判断したり、混乱を止めようと抱え込んだりする必要はありません。医師・医療者は、改善できる原因や緊急性を確認し、ご本人の苦痛、危険、療養の目標に合わせて検査や薬を調整します。後編では、医療者ができる評価と治療、人生の最終段階にみられる終末期せん妄と「お迎え現象」の考え方、苦痛が和らがない時の鎮静について解説します。あわせて、せん妄の中で言われた言葉を、ご家族が本心として抱え続けないために知っておいてほしいこともお伝えします。

医師・医療者ができる対応

医師が行うのは、せん妄という診断をつけることだけではありません。本人が何に苦しんでいるか、改善できる原因があるか、どの程度の検査や治療が今の療養目標に合うかを考えます。

せん妄かどうか、緊急性があるかを確認する

普段の認知機能、いつから変化したか、症状の揺れ方を確認し、意識、呼吸、体温、痛み、神経症状などを診察します。急な麻痺やけいれん、頭部外傷、重い感染症などが疑われる場合は、病院での検査や治療が必要になることがあります。

原因を探し、負担の少ないものから整える

薬の内容を見直し、痛み、息苦しさ、尿閉、便秘、発熱、脱水、睡眠などを確認します。必要に応じて採血や尿検査、酸素投与、排尿・排便への処置、薬の減量や変更などを検討します。原因を一つに決めつけず、いくつかの要因を同時に整えていきます。

本人の苦痛や危険に応じて薬を調整する

幻覚や落ち着かなさがあっても、本人が穏やかで安全に過ごせている場合には、環境調整と見守りを中心にすることがあります。一方、強い恐怖、焦り、興奮、不眠が続く時や、転倒・転落の危険が高い時には、症状を和らげる薬を検討します。薬は、単に眠らせるためではなく、本人の苦痛と危険を減らすために、効果と眠気などの副作用を見ながら調整します。

ご本人の希望と療養の目標に合わせて、検査や治療を選ぶ

せん妄の原因を調べるために検査や入院が役立つ場合もありますが、すべての方に同じ検査や治療が必要とは限りません。病状、回復の見込み、検査や移動による負担、ご本人が大切にしていることを踏まえて選びます。ご家族へ、改善が期待できる状態なのか、症状が続く可能性があるのか、今後どのような時に連絡すればよいかを説明することも医療者の役割です。

終末期せん妄とは|お迎え現象との違い

終末期せん妄は、人生の最終段階に起こるせん妄です

終末期せん妄は、別の病気の名前ではなく、人生の最終段階に起こるせん妄を指します。食事や水分が減り、腎臓や肝臓などの働きが低下すると、以前と同じ量の薬でも効き方が変わります。酸素不足、感染症、脱水、痛み、尿閉、便秘など、複数の要因が重なりやすくなります。
対応できる原因を整えることで改善することもありますが、病状の進行そのものが大きく影響している時には、完全には元に戻らない場合があります。そのため、原因をすべて取り除くことだけを目標にせず、本人の怖さや苦痛を減らし、安全に過ごせることを優先します。何をすれば元どおりになるかだけでなく、その治療が本人の負担に見合うかを考えます。

「お迎え現象」と呼ばれる体験があります

人生の最終段階にある方が、「亡くなった母が来ている」「迎えに来た人がいる」「きれいな場所が見える」と話すことがあります。一般に「お迎え現象」と呼ばれることがありますが、これは医学的な診断名ではありません。せん妄とは別の終末期の体験として報告される一方、外から見て明確に区別できないこともあります。
何が見えているかだけで、せん妄かお迎え現象かを決めることはできません。会話や注意力が大きく揺れているか、場所や人が分からなくなっているか、本人が怖がっているか、安全に過ごせているかなど、全体の様子を見ます。
本人が穏やかで、怖がっておらず、安全にも問題がないのであれば、急いで否定したり現実に引き戻したりする必要はありません。「そうなんだね」「怖くはない?」「そばにいるよ」と聞きながら、本人がどのように感じているかを見守ります。一方、恐怖で叫ぶ、逃げようとする、眠れない、転倒しそうになる時は、苦痛を和らげる対応が必要です。穏やかに見える場合も、急に始まった変化は医師や看護師へ共有してください。

治療しても和らがらない強い苦痛には、鎮静を検討することがあります

終末期せん妄による恐怖や興奮が強く、原因への対応や薬の調整を行っても苦痛が和らがない場合には、苦痛緩和のための鎮静を検討することがあります。鎮静は命を短くすることを目的とするものではなく、治療しても軽くならない耐えがたい苦痛を和らげるために、意識の程度を下げる薬を慎重に用いる方法です。ご本人の意思や推定される希望、ご家族の思いを確認し、医療チームで必要性と方法を丁寧に検討します。

せん妄の中で言われた言葉を、本心だと思わないでください

せん妄の中では、目の前にいる人が誰か分からなくなったり、記憶の一部と今の出来事が混ざったりします。大切に介護してきたご家族に向かって、「嫌いだ」「帰れ」「あなたなんか知らない」と言うこともあります。
その言葉を聞いたご家族は、頭では病気の影響だと分かっていても、心に深く残ります。特に、そのまま会話が戻らず最期を迎えた時には、「あれが最後に言われた言葉だった」と、死別後も抱え続けてしまうことがあります。
せん妄の中で出た一言が、その方の本心や、ご家族と築いてきた関係のすべてを表しているわけではありません。脳が周囲を正しく認識できず、恐怖や混乱の中から出た言葉です。長い時間の中で交わした言葉、支え合った日々、普段の表情やしぐさまで、一晩の混乱によって消えることはありません。
せん妄が軽くなった後、本人が断片的に覚えていて、「ひどいことを言ったのでは」と心配することもあります。その時も、詳しく思い出させようとする必要はありません。「体調が悪くて混乱していたんだよ。大丈夫だよ」と伝えてよいのです。

まとめ|正しく戻すことより、怖くない時間をつくること

せん妄が起きた時、ご家族は「元の本人に戻さなければ」「間違ったことを言わせてはいけない」と必死になります。けれど、その場で正しい日時や場所を答えられることより、本人が「ここは怖くない」「一人ではない」と安心を感じられることの方が穏やかに過ごせる場合もあります。
ご家族にできるのは、すべての原因を見つけることでも、混乱を完全に止めることでもありません。いつもと違う変化に気づき、短い言葉で安心を伝え、危険がある時に医療者に助けを求めること。それだけで十分に大きな支えです。

医師や看護師は、改善できる原因がないかを確認し、苦痛や危険を減らす方法を考えます。そして、患者さんだけでなく、そばにいるご家族が傷つき、疲れていることにも目を向けます。
せん妄の中で交わした言葉よりも、それまで一緒に過ごしてきた時間の方が、ずっと大きなものです。うまく声をかけられない時は、ただそばにいるだけでも構いません。ご家族だけで抱えず、医療者と一緒に、その方にとって少しでも怖くない時間をつくっていきましょう。

執筆・文責:むすび在宅クリニック院長 香西友佳

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